共鳴弦楽器のトリオ。どういうことになるのだろうと半分不安、半分わくわくで行ったわけだが、まずは面白い。向島さんも認めていたように、アレンジなどはまだまだ手探りの部分はあるにしても、このトリオによる音楽はもっと聴きたいと思う。この日向島さんが間違って別のCDを持ってきてしまった SonaSonaS のデビュー・アルバムも楽しみだが、ライヴをもっと聴きたい。
共鳴弦のついている楽器といえば、あたしのなじみのあるものではまずハルディングフェーレ。このライヴも酒井さんから教えられた。もう一つが波田生氏のヴィオラ・ダ・モーレ。弦が共鳴弦も含めて14本ある。そして向島さん自身は五弦ヴィオラ・ダ・モーレ、というのだが、この楽器はやはり新しいのではないか。というのは、他の2本に比べて音色の性格が違うように聞えたからだ。
共鳴弦のある楽器の音はどちらかというとくすむというと言い過ぎだろう、しかし音色は沈んだ色調で、地味になる。少なくとも、この日のハルディングフェーレとヴィオラ・ダ・モーレの音はそう聞えた。
共鳴弦のある楽器といえばニッケルハルパも音量はそれほど大きくない。ハーディガーディは大きいようにも思えるが、あれはむしろサワリによるノイズのおかげで、実際の音量はそれほど大きくない。いずれにしても共鳴弦のある楽器、少なくともヨーロッパの弦楽器はどれも音量は控え目で、前には出てこない。
ところが向島さんの楽器の音は明るいのだ。音量も大きい。音がどんどん前に出てくる。この楽器を初めて聴いたのは紅龍のライヴの時で、印象は変わらない。これが一体何なのか、今回も訊ねるのを忘れた。ライヴの中でも、ハルディングフェーレとヴィオラ・ダ・モーレについては一応の説明があったが、向島さんの五弦ヴィオラ・ダ・モーレについては何も触れられなかった。あれは何なのか、だんだん気になってくる。
一方で共鳴弦楽器が複数揃って演奏して、音がどうなるのか、濁ったりしないのか、とも思っていたのだが、これはまったくの杞憂だった。ハーモニーは実に綺麗で、このトリオのウリの一つでもある。おそらくアレンジにもよるのだろう。トリオで始めてからすでに2年はやっているそうで、あれこれ試行錯誤もされたにちがいない。共鳴弦の鳴りも含めてハーモニーが綺麗に聞えるようなアレンジがされている。
もっとも3本が揃ってハーモニーを奏でるのはそう多くなく、むしろ役割を割りふって、1本がメインで奏でると、他の2本はこれに合わせたり、サポートしたりすることが多いように思えた。この辺はまだ発展途上という感じではある。
演奏された楽曲は向島さんのオリジナル、ハルディングフェーレが伝えてきた伝統曲、それにクラシックなど。まずオリジナルを全員でやる。この曲はこのトリオでやること、できることのショウケースの意味合いもあったらしい。現代音楽的でもあって、弦を押えるのにネックの上に左手を出してやったり、左手でこすったりという、おそらく通常とは異なる手法も見せる。
それから3人各々をフィーチュアした演奏。酒井さんはソロで、椅子に腰かけて足で拍子をとる。ヴィオラ・ダ・モーレはヴィヴァルディのヴィオラ・ダ・モーレ協奏曲の抜粋。体の動きも大きなダイナミックな演奏。当時もこんな風にやっていたのだろうか。向島さんはなんとカロラン・チューン、〈Carlan's farewell to music〉。生涯の最後に、人間や場所ではなく、音楽と別れることを哀しむ曲を作ったことに感銘を受けたのだそうだ。言われてみれば、なるほど、他にこういう曲の作り方をした人はいないかもしれない。
向島さんのオリジナルでは、1曲全部全員フィンガリングだけで演ったりもする。共鳴弦はこれでも共鳴するのか。あたしの駄耳ではよくわからない。しかし、インドの楽器は単音で弾いて共鳴するから、おそらく共鳴しているのだろう。
フィンガリングだけでなく、第一部ラストのスウェーデンのトラッド〈ステファンの唄〉では、コード・ストロークも使う。
休憩をはさんで第二部は、3人が客席後方から、鳥の鳴き声を立てながら登場するという演出。この日はカメラが何台も入って、全篇ビデオ撮影されていた。後で何らかの形で登場するらしい。そこからの第二部オープナーはノルウェイのトラッドで、チューニングも独得の由。
その次にゲストのフルート、佐々木優花氏が参加する。佐々木氏はジャズをやっているそうで、向島さんとソロをとりあう。なかなかに聴かせる。あたしは初見参なので、この人は追いかけてみよう。
またトリオに戻ってスウェーデンのトラッド、しかもクリスマスのための曲。夏至も近いし?ということらしい。これはしかしなんともいい曲で、聴き惚れてしまう。ハルディングフェーレの、くすんだというのがまずければ、セピア色の響きがいい。
続いての日本民謡メドレーが今回最大のハイライト。ここはたぶん向島さんのアレンジだろう。〈こきりこ節> 越中おわら節> 津軽じょんがら節〉。どれもすばらしいが、あたしには〈じょんがら節〉がベスト。
その次のバルカン・チューンもいい。共鳴弦同士がさらに共鳴しているような響きに陶然となる。
アンコールは再びフルートが加わって、〈「その男ゾルバ」のテーマ〉。向島さんの楽器の音色の明るさが引立つ。
他の共鳴弦楽器ともやってみたい、と言われるが、ニッケルハルパが加わると北欧色が濃すぎるような気もする。ハーディガーディは我が強いから、うまくアンサンブルになれるか。シタールやサロッドはちと無理でしょうなあ。とまれ、まずはこのトリオでの形をもっと追求されたものを聴きたい。レパートリィにしても、アレンジにしても、思いもかけぬものが出てくる可能性はありそうだ。面倒なことでは究極にも見える共鳴弦があって良かったと心底思えるようなハーモニーを聴いてみたい。
それにしても共鳴弦なんて不思議なものを、よくも思いついたものよとあらためて感心する。(ゆ)
SonaSonaS
向島ゆり子: 五弦ヴィオラ・ダ・モーレ
酒井絵美: ハルディングフェーレ
波田生: ヴィオラ・ダ・モーレ
ゲスト
佐々木優花: flute