今年の「ケルティック・クリスマス」で来日するティム・オブライエンの最新作(2005)です。以下はその第一印象。

 実はこれ《CORNBREAD NATION》と同時発売されています。今回、プランクトンが来日記念盤として《FIDDLER'S GREEN》だけを発売したのは、わからなくもないですが、ちょっと残念ではあります。この2枚、内容は対照的で、CNはアメリカ内部への旅、FGは海の彼方への旅であり、たがいがたがいを鏡のように映しだす、対になるアルバムだからです。

 それに、無心に聞いてどちらが出来が良いかとなると、ぼくはCNに軍配を上げます。それはFGが劣っているというよりは、いわばホームとアウェイの差でしょう。

 とはいえ、それは2枚を比べてみての話で、例えばFGをティム・オブライエンのアイルランドへの出発点である《THE CROSSING》や、アイルランドから豪華ゲストを迎えて話題になった《TWO JOURNEYS》から見れば、精進のあとは明らかです。FGを聞いてみると、前の2枚ではアイリッシュ・ミュージックはまだ「借り物」といってもいい。

 FGではアイリッシュ・ミュージックをも自家薬籠中のものとして、アメリカとアイルランドの間のどこかに、ひとつの桃源郷を映しだすことに成功しています。CNがおおらかに、楽天的にアメリカを謳歌するのに対して、FGはより低いところから、張りつめた声で、海の彼方へ想いを飛ばします。どちらも架空の理想郷をモチーフに掲げますが、陸上の、はじめから安全が保証されている国と、海の上の、いつ何時消えさるともかぎらない不安定な里も対照的です。

 聞いていてまず耳を惹かれたのは[05]〈Fair flowers of the valley〉でした。スコットランドの有名なバラッド〈The bonny banks o' Fordie〉別名〈Babylon〉 (Child #14) のアメリカ版。ここでのオブライエンの静かな緊張感に満ちた歌唱が、アルバム全体の基調を定めています。

 オブライエンがここで相手にしているものは、アイルランドというよりも、アメリから見た「海の彼方」、西ではなく、東のどこかにある「理想郷」です。そこで奏でられいるだろう曲を奏で、うたわれているだろう唄をうたう。

 オブライエンはフィドル、マンドリン、ギター、ブズーキ等々をいずれ劣らず達者に操る才人でありますが、それ以上に歌うたいとして並々ならぬ存在です。無造作な、肩の力の抜けたスタイルでありながら、隙がない。時にさりげなく、すいと抜き身を突きつけたと思うと、ぽかんと口を開けて美しい月に見とれている。今回の来日で共演が予定されているポール・ブレディも並ぶもののない唄うたいですが、ティム・オブライエンの唄は十分にブレディとタメを張れます。

 ディラン・ナンバーをブルーグラスで料理してみせた《RED ON BLONDE》でも、すでに抜群の唄のうまさが柱になっていましたが、アイルランドの唄と真剣に渡りあって、さらに一皮むけた感じがします。

 オブライエン自身はすでに30年以上のキャリアを持つ人で、かなりの数の録音があります。加えて相当に懐が深い。入れこんで聞いて、収穫は多いはず。この《FIDDLER'S GREEN》は、アイリッシュのファンにとってはその世界への比較的自然な入口になると思います。