雨男になったのは、ここに引越してからの気もする。上京の頻度が減ったので目立つのかもしれないが、それにしても、だ。

 まず中野のフジヤエービック。メールで取置いてもらった Proline 2500 の中古とそれにショート・ケーブルを買い、iCans を修理に出す。iCans はなぜか左のユニットがはずれてしまった。買ってちょうどひと月経っていたので、交換ではなく、修理。ようやく基本的エージングがすんだ頃なので、むしろありがたい。

 先日出た iCans のゴールド版があれば試聴しようと訊いてみたら、在庫は置いていないそうな。音に変化はなく、見栄えだけのことらしい。ちょっとがっかり。もっとも、ハウジングをほんとうに純金で作ったら、あんな値段ではすまないだろうし、そもそも重くなりすぎるだろう。

 この時点でもう雨ざんざん。フジヤエービックはサンロードの奥でずっとアーケードがあるから駅からはほとんど濡れずにすむが、店の入っている建物の入り口でアーケードがとぎれていて、ほんの一瞬なのに、傘を差したくなる。しかしなぜあそこだけとぎれているのか。

 渋谷に出てまずは無印良品。雨とわかっているのにハンカチを忘れたので、木綿のタオル・ハンカチとフェイス・タオルを買う。無印良品に入るまでに、靴もズボンの裾も背中のリュックもぐっしょりになる。昼過ぎだったが、店内はがらがら。

 ハチ公前交叉点角で買った甘栗を土産に、プランクトンを訪ねる。長く借りっぱなしだった、チーフテンズの古い資料返却のため。10分ほど歩いたので、ますますぐしょ濡れ。少し休ませてもらう。が、次々に面白い話が出てくるのでついつい長居をしてしまう。

 7月にザンジバルのターラブを呼ぶ予定だそうだが、これが1990年の「東京ムラムラ」で初来日し、やはり初来日だったチーフテンズと同じ日に共演した、その同じグループ。あの時もいいかげん高齢だった婆さんシンガーが健在。推定94歳のあの婆さんがまた来るのだそうだ。奇しくもともに初来日した二つのグループが、17年経って、再び相前後して来日する。これもまた不思議な縁なり。

 そのチーフテンズの来日では、日本側のゲストに意外な人がいて、しかも先日チーフテンズと録音までしたそうな。まだ秘密のその録音も聞かせてもらったが、心底たまげた。本人とチーフテンズと、どちらも凄い。

 デレクの代役であるトゥリーナ・マーシャルはデレクと同じくクラシック出身で、ブライアン・マスターソンの紹介でチーフテンズと会うや意気投合し、トラディショナルにもすっかりはまりこんでしまった由。今ではトゥリーナ、ジョン・ピラツキともう一人のギタリストに、キャラ・バトラーとネイサン(こちらの方が兄と判明)のダンスが加わったバンドでも活動している。1曲だけ収めたそのライヴ・ビデオも見せてもらったが、この組合せでのライヴもぜひ見たい。チーフテンズ来日にほば全員同行してくるのだから、幕間で15分ぐらいでも、できないものか。

 先の録音でもトゥリーナは大活躍で、立派にデレクの穴を埋めている。ハープだけとれば、ひょっとするとデレクより良いかもしれない。デレクはすばらしい後継者を得て、安んじて眠れるだろう。ハープだけのソロ・アルバムが、来年早々予定されていて、これもたいへん楽しみ。この人、ビート感が抜群。

 そのうちにKさんもやってきて、聞かせてくれたのが、カルロス・ヌニェスの新作。01/17に発売になる『ゲド戦記』サントラをやりなおしたもの。カルロスの演奏をもっと聴きたいとジブリ側が言い出して実現したのだそうだ。サントラでは中途半端で切らざるをえない曲を、オケも含めて思う存分展開している。いやあ、拍手。これはカルロスの資質が一番良く現れたものではないか。寺嶋氏のメロディもケルト的でもあり、スペイン的でもあって、カルロスのパイプや笛に実に良く合う。「紅白」には手島葵も出るとか聞いたが、本来ならカルロスがサポートすべきだろう。もうずいぶん前に伊藤多喜雄が出た時、坂田明がサックスでサポートした時のように。

 あまりに話が面白くてふと気がつくともう4時。あわてて辞去し、汐留のマイスペースにむかう。日本版が始まったマイスペースの活用法のレクチャーを受ける。再び雨の中、新橋に電車で出て、歩く。ここへ来たのは久しぶりで、すっかり様変わりしている。新しいビルはどこもそうだが、ものものしいセキュリティ。こんなにまでして何を守るのか。

 30分の遅刻だったので、マイスペースの基本的な説明は終っていて、いろいろな成功例を見せられる。ディランの最新作のヒットも MySpace で本人が行った活動で、従来聞かなかった若者たちが聞くようになったからだそうだ。音楽の世界では、マイスペースはもはやデフォルトで、ページを持っていないと相手にすらされなくなっている。ページを開くと自動的にアップされている音源の演奏が始まること、「フレンド」になるのが気安く、簡単なこと(成功例として見せられたのには「フレンド」の数が150万というのもあった)、一斉通知がやりやすい等々。オーディオと、これから展開するヴィジュアルに特化した SNS という位置づけだろう。

 5時半に終了になり、下のスタバでちょっとお茶してから、Nさん、Oさん、後から来たIさんと八重洲の「やなぎ」で忘年会。特製煮込みハンバーグ、通称NHKはじめ、さんざん食べて幸せ。10時半過ぎ、さらに激しくなった雨の中を帰る。もうラスト・オーダーという頃にかなり年配の男性客が入ってくる。相当な常連らしいが、こんな天気の日に飲んで帰ったら足下が危ない、酒は出さないよ、早くお帰りとマスターに叱られて、しおしおと帰っていった。いい店だ。