昔からの伝統曲はすでに多数の人の手によって磨きぬかれていて、曲が輝くような新しいことをするのは至難の業だ。それに対して新しく作られた曲は、伝統のフォームにしたがっていても、生まれたばかりで手を入れて改良する余地が多分にある。

 だから、自分は伝統曲を演奏するときにはすなおに曲を演奏するが、新しい曲ではいろいろ実験をする。

 と、ルナサのケヴィン・クロフォードが言う。
 いま翻訳しているアイリッシュ・ミュージックの本の結末近くに出てくる。

 作曲家として名高いリズ・キャロルの演奏の奔放さは、なるほどそういうことかと腑に落ちる。自分が作った曲だから、どんなに実験しようが、意表をつく展開をしようが、自由にできるわけだ。

 それがやりたいがために曲を作る、というのは言い過ぎかもしれないが、やっているうちにそうなることも多々あるのではないか。

 一方で、伝統の持つ慣性の大きさはやはり並大抵ではない。