久しぶりにまとまった音楽の原稿を書いていた。“The Dig” の50号記念特別付録「オール・タイム・ベスト50」と、CDジャーナルから出るムック『ブラックホーク伝説』中の「新版・ブラック・ホークの選んだ99枚のディスク」のうち、トラッドとブリティッシュ・フォーク関係12枚。

 「オール・タイム・ベスト50」の方は50号記念だから50枚なのか。まあ、遊ばせてもらった。もう少しジャズやクラシックを入れたかったが、50枚というのはいざ選んでみると少ない。どうせなら、99枚ぐらいやりたいものだ。朝の8時に一点確認の電話がかかってきたのには驚いた。校了直前だったらしいが、徹夜明けだろうか。

 「新版・ブラック・ホークの選んだ99枚のディスク」はなんとか締切までに書きおえて、送ったとたん、どっと疲れた。かつて『スモール・タウン・トーク』11号に掲載された99選のセレクション自体は変えず、松平さんの文章もそのまま。松平さん以外の人が書いたものだけ、別の人間が新たに書きおこすという形。

 こんなに緊張した原稿は、絶えて記憶がない。まるで初めて公にする予定でトラッドについての原稿を書いたときのようだ。かなわぬまでも、全力を尽くす。それしかないと腹をくくった。

 持っていないものはあらためてCDを買う。歳月というものは恐ろしい。オールダム・ティンカーズまでCDになっている。新録音こそ出していないものの、かれらが現役で活動していたのはそれ以上にうれしい驚き。結局まったくCDになっていないのはヴィン・ガーバットだけ。Celtic Music にも困ったものだ。訴訟の行方はどうなったか。

 ゲィ&テリィ・ウッズもベスト盤で部分的にCD化されているものの、あの3枚はきちんとした形で復刻されるべし。権利関係がクリアにならないのか。

 やむをえず、これまた久しぶりにLPを聞く。ついでに息子のリクエストでU2の《ジョシュア・ツリー》とか、クリームの《火の車》とかのLPをかける。前者の1曲目、CDから取りこんだ iPod ではさんざん聞いているはずの曲に涙を浮かべている。後者では、クラプトンのギターが浮いてる、ヴォーカルの方がバンドと一体感がある、という。《ヴィードン・フリース》も聞かせようとしたら、どこかへもぐりこんで出てこない。

 12枚のうちではすぐ書けるものと、全然ダメなものの差が激しい。一日一本ずつ、書きやすいものから書いていったら、最後にヴィン・ガーバットとアン・ブリッグスが残った。ヴィンは一度ほぼ書きあげたのが気に入らず、他のアルバムも聞きなおしてから、もう一度新たに書きなおし。

 アン・ブリッグスも出だしが決まらず、四苦八苦。ファーストやサードを聞いたり、他の本で気分転換してみたり。最相葉月『星新一』のイントロを読んでいたら、ヒントになったらしい。それでも下書ができて、パソコンに清書する段になって、またやり直し。

 これでなんとか形がついたと思ったら、終わっていたはずのゲィ&テリィ・ウッズが引っかかる。唸った末、後半を完全に書きなおし。

 もうこれ以上どもならん、さらに手を入れれば悪くなるだけ、というところまで来てひと息つく。細かい字数の調整をやって、えいやっと送ってしまう。

 めっちゃくたびれたが、この10日間ほどは充実もしていた。何年かぶり、ヘタをすると十年以上聞いていなかったものを聞きなおしたし、その後の消息がわかったのもうれしい。ヴィン・ガーバットのサイトのリンクに Rosie HardmanBernie Parry の名前を見つけて、各々のサイトに行ってみたり。そういえば、ずいぶん前、中山さんからロージィ・ハードマンのサイトがあると聞かされていた。この二人もなんと現役でうたい続けている。こうなると、アン・ブリッグスがもううたっていないというのはやはり特異なことにみえてくる。でも、ロージィは今の方がきっと良いだろう。

 あらためていろいろな人たちを一度ネットでさらってみなくてはいけない。しかし、新しい人たちもどんどん出てきているし、痛し痒しだ。