Bauxer EarPhone M がやってきて10日ほど。
 タイムドメイン式も、
バランスド・アーマチュア方式も、
エージングによってあまり音が変わらないそうですが、
やはり少しはあるようです。

 一番変わってきたと思えるのは、
音のディテール、
細部の表現力が増しているところ。

 ヴォーカルの息継ぎで息を吸う音、
というよりは音になる前の気配でしょうか、
あるいは声を絞って消え入るようにうたいおわるところとか、
フルートなどの笛の空気音、成分でいえばノイズのところとか、
アラブ系の打楽器でよくある、やはりノイズのような、
メインの音と同時に鳴るビビるような音。

 たとえていえば、そういう音がよく聞こえる。
聞こえていなかったわけではないのが、
いっそうリアリティを増して聞こえます。
どの音もはっきり、明瞭に、というのでもありません。
はっきり聞こえるべき音ははっきりと、
かすかに聞こえるはずの音はかすかに、
それぞれの音の特性、個性そのまま聞こえます。

 それにも関連しますが、
EarPhone M は音源との距離が近い感じです。
きちんと聞きくらべたわけではありませんが、
K701 ですと、音場の全体像では似ているところがあっても、
音源から、つまり、ミュージシャンからの距離があります。
渋谷クワトロやAX、O-East あたりだと、フロアの中間から後ろ。
1,000人やそれ以上のクラスのホールだと、前から10から20列めぐらい。
頭や眼を動かさなくても、ステージ全体が視野の中に入っている感じ。

 EarPhone M ですと、どちらもかぶり付きです。
ソロの場合など、1メートル、あるいはもっと近い。
もちろん、録り方によって多少距離感は変わりますが、
総じて、ミュージシャン(たち)は目の前にいます。
大所帯のバンドだと、フロントが目の前で、
その後ろに他のメンバーが広がります。
左右の幅が広いものになると、
左右の端が自分の顔より後ろに感じるときもあります。
ここは好みが分かれるところかもしれません。

 ディテールが増すことと同じことかもしれませんが、
見通しがさらによくなってきました。
ベールがはがれるというよりは、
空中のほこりが少なくなった感じ、でしょうか。
嵐の後におだやかに晴れると空気が澄んで、
ものがはっきり見えますが、あれに似ています。

 ダブル・フランジもだいぶ慣れてきました。
はじめは、なぜか耳の上が締めつけられる感じもあったんですが、
聞こえる音楽の楽しさにつられているうちに、
その感じも消えるようになり、
この頃は、突っ込んだ直後もほとんど感じません。
まだ、他のイヤチップは試す時間がなし。

 屋外でも使っています。
遮蔽性はあまり高くないと前に書きましたが、
基本的な性能はあるので、
音楽が鳴っていると、
他の音は聞こえなくなります。

 これがちょっと不思議なくらいで、
極端に靜かな音楽の時や、
なにも鳴っていないとき、
音量を絞ったときには
電車の車内放送とか、車の走る音とか、子どもたちのはしゃぐ声とか
結構聞こえますが、
いったん音楽が鳴りだすと、
そういう音も聞こえなくなります。
聞こえていて、気にならないのかもしれませんが。

 それにしても楽しい。
音楽を聞くのが、ほんとうに楽しい。
タイムドメイン式の実力を発見した当初も楽しかったんですが、
スピーカーは慣れてしまうんですよね。
その音が、そういう鳴り方が当たり前になってしまう。
イヤフォンは、なんだか、日々新鮮。(ゆ)

 友人からツッコマレました。
イヤフォンなんだから、
「頭内定位」で、
音が後ろから聞こえるのはあたりまえじゃないか。

 まことに、ごもっとも。

 ただ、
EarPhone M は音のイメージング能力が高いので、
録音が良かったりすると、
前から聞こえるような気がすることがあるのです。
特に眼をつむるとそういう感じが高まります。

 頭の中で響いていることはたしかなんですが、
なんと言うか、眼が後ろを見ているのかな。
んー、それよりも、目玉が顔の表面についているのではなくて、
頭蓋骨の一番奥の内側、
つまり後頭部の裏側についている感じ、
というと一番近いでしょうか。