本誌157号でとりあげた Mark Izu の《THREADING TIME: 時を紡いで》のクレジット。


Mark Izu: double bass, sheng, sho
Zakir Hussain: tabla, percussion
東儀季信: 篳篥, 朗唱
Anthony Brown: drum set, percussion
Hafez Modirzadeh: sax, alto clarinet, neh
藤本容子: vocals
大倉正之助: 鼓, 朗唱 [7]

1. Mermaid in a silent sea
2. Threading time
3. Stick song
4. Amaterasu
5. String theory
6. Soul of the great bell
7. Scattered soul
All songs composed by Mark Izu
Poem in [7] is an excerpt from "Desert Flowers" by Janice Mirikitani
篳篥の旋律は雅楽の伝統曲

[1 4 5 6] recorded live at Asian American Jazz 2000
    by Robert Berenson, 2000.09.24@Asian Art Museum
[2 3] recorded by Robert Berenson, 2000.09.25@Bay View Studio, Richmond, CA
[7] recorded by Okada, 2000.09.03@Pioneer Studio, Tokyo

Liner notes, composition stories and cover design by Brenda Wong Aoki
Cover photo: 舞楽を演じる東儀季信


 収められた音楽を聞いてタイトルの「時」から連想されるのは、まず、今この一瞬一瞬を「紡いで」音楽を織ってゆく即興の醍醐味と、遥かアジアの祖先たちから受け継いできた時間が織りこまれた音楽の香と、二つの時間が交錯し、からみ合っているアメリカの大地に流れている独自の時間というところ。あるいは音楽を生みだしているミュージシャンたちの肉体の生まれてからこの時までの時間、この日の朝、目覚めてから演奏までの時間、そして刻一刻「生きて」いる、いわば「細胞」の時間。まだまだ他にもいくつもの時間が、ここには生成消滅しているようです。

 [4]はもちろん「天照」をうたっていますが、この曲の解説に記されている「天の岩戸」の話はなかなかおもしろい。アマテラスが身を隠したために困った弟たち(複数)が作りだしたのが人間。この人間たちにうたわせ、踊らせ、物語をさせる。そこでアマテラスは好奇心にかられて出てくるわけですが、つまりは人間とはそもそも地上から光を絶やさないために存在するのです。

 これにしたがえば音楽家とは人間のレゾン・デートルに最も忠実な人びとであり、人間の生存を保証している人びとになります。そして音楽の目的は、この世を光が照らすことを保証するためでもある。だから「祭」=神事には音楽が欠かせないし、一方音楽が奏される時空は聖なる性質を帯びる、すなわちあらゆる音楽は「祈り」に他なりません。

 音楽と音楽家の根源にまで遡るあるいは掘り下げるこうした姿勢は、アルバム全体を貫いています。そうしてみると、ここで雅楽が確固たる存在感を示しているのはけっして偶然ではない。行き当たりばったりでもなくなります。同時に、だからこそここでの雅楽は虚像ではなく、過去の遺物でもなく、現代に、21世紀に生きる音楽として確固たる実体をそなえ、異質の伝統と正面からわたりあい、からみ合うことができたのです。

 それにしてもジャケットを飾る、舞楽面をつけた東儀季信の姿はかっこいい。(ゆ)