フルCDは Apple Lossless でエンコードしていますが、サンプルでいただく CD-R や、雑誌付録のサンプラーなどはこれまで AAC でエンコードしていました。

 ハリス・アレクシーウの新作《酸っぱいチェリーと苦いオレンジ》のサンプル盤を聞いていて、ちょっと音質に首をかしげるところがあり、思いついて、iTunes-LAME を使ってみました。

 LAME はオープンソースで開発されている MP3 エンコーダで、マルチ・プラットフォームで動き、最も音質が良いといわれていますが、はたしてほんとうに音が良いのか。

 iTuens-LAME は iTunes と連携しながら、エンコードに LAME を使えるようにするフリー・ウエアです。単体で動き、LAME そのものは必要ありません。最新版 2.0.9-34(MacOS X 用)をダウンロードして展開し、「アプリケーション・フォルダ」に置きます。

 このアプリを起動すると iTunes も立ち上がります。iTunes の方から iTunes-LAME を立ち上げたい場合には、ちょっとからくりがあります。

1) iTunes-LAME のアイコンを選択して、Ctrl + クリックし、パッケージの中身を見る。
2) >Contents>Resources>Import with LAME....scpt を探す。
3) Import with LAME....scpt のエイリアスを作る。
4) Home/Library/iTunes/ に Scripts フォルダを作る。
5) 3) のエイリアスを Scripts フォルダに入れる。

 これで iTunes を起動すると、メニューに AppleScript のマークが追加されています。クリックすると Import with LAME... があります。

 iTunes のサイドバーで選択されているものに入っているファイル=曲で、「名前」の頭のチェックボックスがチェックされているものがエンコードの対象になります。

 とりあえずヘルプにあったサンプルを元に、192kbps の VBR 標準でエンコードしてみました。これを iTunes の AAC 320kbps でエンコードしたものと聞きくらべます。

 気になった曲というのは [09]〈もし分かっていたら〉でした。ドラムス、ダブル・ベース、ギターのリズム・セクションに、ブズーキが印象的なフレーズをくり返し、トランペットとネイが左右で熱いソロをとる、アルバム中でも最もロック寄りの、抜群にかっこいい曲。なぜか全体的に高域が強調されて、ヴォーカルもややうわずる気配。マッスの部分ではトランペットがうるさいくらい。

 iTunes-LAME でエンコードされたものはビットレートも低いのにもかかわらず、個々の楽器がしっかり聞こえます。それも、音の方から耳に入ってくる。高域の「ギラつき」も押えられ、それほど気になりません。何より細かい要素がどうのこうのというよりも、こちらの音の方が聞いていて楽しくなってきます。

 結局のところ、音質が良いというのは、「聞くのが楽しい」という感覚ではないか。ハードそのものをあれこれ聞き比べるのを楽しむのならともかく、音楽を聞きたくて、それもできるだけ「良い音」で聞きたいということならば、聞くのが楽しくなる音、ずっと聞いていたい音、どんどん音楽を聞きたくなる音が「良い音」でしょう。

 で、LAME の MP3 の音の方が iTunes による AAC の音よりも明らかに楽しい。ぼくにとっては。

 他でも試してみました。ちょうど Songlines 52号が着いたので、付録のサンプラーを iTunes-LAME MP3 と iTunes の AAC で聞きくらべてみました。やはり、LAME の方が楽しい。AAC では音にやや険がある。どこかつんつんする感じがあります。むろん、聞きくらべてみれば、の話です。今回たまたまハリス・アレクシーウの曲でひっかかるまでは、AAC でまったく満足していました。しかし、LAME の音を一度聞いてしまうと、AAC の欠点が耳についてしまいます。

 では Apple Lossless のフォーマットと比べたらどうか。
 が、これはさすがに Losless の勝ちでした。ファイルの大きさでいえば3倍から4倍の違いがあるわけで、比べてしまうと、MP3 はやはり圧縮しているとわかります。もっとも Apple Lossless でも、上と同じハリス・アレクシーウの曲では高域が強調される傾向はありますから、これは確かに iTunes の「癖」なのでしょう。あるいは iTunes が使っている MacOS X の Core Audio の「癖」かもしれませんが、それはまた別に検証が必要なので、また後日。

 ということで、iTunes で MP3 や AAC にエンコードされている方は、一度 iTunes-LAME を試す価値はあると思います。ファイル・サイズも AAC より若干ですが小さくなります。エンコードに LAME を使うというだけで、その他は iTunes をそのままですし。

 LAME には豊富なオプションがあり、iTunes の AAC 同様、256kbps までの VBR と 320kbps までのビットレートがあります。preset もあります。オプションの一覧はたぶんこれが一番くわしく、わかりやすいでしょう。

 iTunes-LAME の窓の中に、ヘルプのサンプルを参考にオプションを付けてエンコード(Import)すると、使われたオプションが履歴として残ります。(ゆ)