fRoots31 貧乏人の味方、fRoots 誌恒例合併号付録CD。毎年夏と冬に付いて今年で16年目。この31枚をずっと通して聞いてみるのもいつかやりたい。時代の変遷や一瞬の光芒に終わった連中をたどりなおすのは、きっといろいろな発見があるだろう。

 その31枚め収録曲15曲というのは最少記録ではないか。理由は簡単、長い曲が多いのだ。一番長いのは9分41秒。クレタ島の弓奏楽器リラの Stelios Petrakis。長さも長いが、内容的にも今回のハイライト。やや大きめの編成で、本人のリラはもちろんだが、ウード系の撥弦楽器も大活躍。バックの打楽器群には恍惚状態。これは買うぞ、と探したら結局本人のサイトから飛んだ先のレーベルでの直販しかなかった。クレタ島専門レーベルらしい。おいしそうなものがごろごろしているが、涙を呑んで1枚だけ注文。それにしてもクレタはギリシア本土とはまた違う伝統があるらしい。確かに歴史的には本土よりも古いのだし、島だからあちこちから流れこんでは混ざりあいまた出て行っているはずだ。いずれもう少しつっこんでみたい。

 この曲は流れが変わってきたのを象徴するものでもあって、今回アフリカが1曲しかない。アフリカからよい音楽が消えたわけではなかろうから、他の地域、特に今回は地中海東部から中近東が活発になっているのだろう。アフリカの政治的混乱の影響もないとは言えないだろうし、オイル・マネーの余沢もあるんじゃないか。

 この曲と今回の「御三家」をなすのは、イランのシンガー Mamak Khadem とトルコの Taksim Trio。ママクはイランとは言いながら、うたっているのはギリシア、トルコ、アルメニアの曲だそうだ。声楽では世界一(小泉文夫)のイランが、いわば近隣文化の探索に乗り出したと言うところか。これはアメリカの CD Baby のサイトで買えた。ここは今アメリカで一番おもしろいオンライン・ショップかもしれない。CD Roots よりも品揃えがよいところがある。

 トルコの Taksim Trio は、クラリネット、バーグラマ、カナウンの名手のグループで、ステリオスと今回のベストを分ける。とことんオーセンティックなのだが、即興らしき演奏にひどくモダンな、ジャズとさえ呼びたい響きがあり、そこがかっこいい。これはふつうに見つかった。

 クロアチアの Kries《Kocijaniとアメリカの Pamela Wyn Shannon とデンマークの Phonix、それにアレ・メッレル・バンド《Djef Djel》はすでにアルバムを聴いていて、おせーぜ、イアンと言ってやれるのはうれしい。しかし、アレ・メッレル・バンドのこの曲はあらためて傑作。いや、あのアルバムは傑作。今一番ライヴを見たい。

 地中海東部〜中近東と並んで盛りあがっているのが、イングランド。この雑誌は元もと南イングランドのローカル雑誌から出発しているから、この辺の盛上りを見のがすはずがない。その一方でスコットランドには冷たかったりするが。

 そのイングランド代表はスピアズ&ボウデンジャッキー・オーツ。どちらも新作から。ベロウヘッドもセカンドが出るし、この二人の動向は眼が離せない。ジャッキーはスティーライ版の〈Lark in the morning〉をうたっていて、これに比べればスティーライ版は幼稚園の学芸会だ。まあ、30年以上の時間の経過はあるわけで、もちろんスティーライ版があったから今こういう歌唱が可能になってはいる。やはり比べるのは酷だろう。

 カナダの姉妹という Ghost Bees 《Tasseomancyもカナダには珍しくイングランド系で、レイチェル・アンサンク&ウインター・セットと同じ志向性。オーセンティックな伝統コーラスを展開しながら、独特の「危うさ」をはらむ。

 もう一つのイングランドが掉尾を飾る Broadcaster の〈England〉。1960年代第1期の『ラジオ・バラッド』をサンプリングし、テクノ、ダンス系の音を重ねて組みたてたもの。こういうのを「マッシュアップ」というのだろうか、二次的創作物ではあるが、サンプリングの選択、組合せ、デフォルメの手腕が恐ろしく斬新で、もうめったやたらにおもしろい。アラン・ロマックスが録音した音源にバンドの録音を重ねて、フィールド録音を現代の演奏として甦らせた Tangle Eye の試みをさらに一歩進めた、と言える。オリジナル製作者の一人イワン・マッコールの息子カラムが共同プロデューサーで、これは良い仕事だ。

 オムニバスのトップを飾り、今月号の表紙も飾っている Les Amazones de Guinee については、あたしがここでぐだぐだ言う必要も無かろう。40年ぶりのセカンドだそうだ。しかし、この表紙写真、軍服姿が3人いるのはやはりシャレか。(ゆ)