Robert Burns: The Complete Songs, Vol. 9 リン・レコードのロバート・バーンズ生誕250年記念フリー・ダウンロード、今週はこのうた。《THE COMPLETE SONGS, Vol. 9》(2001) 収録。うたうのは、今やスコットランドの若手シンガー・ソング・ライター筆頭のカリン・ポルワート。年明けに発表になる BBC Radio 2 Folk Awards で Folk Singer of The Year にノミネートされています。

 カリンのうたは伝統音楽どっぷりというよりはもう少し都会的に洗練されていて、知性が感情をうまく御しています。声域は低く、狭く、うたも「うまいっ」とうならされる類のものではないのですが、うたが孕む感情の核心を的確に掴んで、控え目にこれを提示します。そこに生まれる説得力、うたを聴く者の皮膚の裏側にしみこませる力には非凡なものがあります。このうたも、ややもすれば感傷的になるところを、いるべきところに住めない悲しみをいつくしむようにさしだしています。

 カリンの先達のひとり、ダギー・マクリーンの代表作〈Caledonia〉はこのうたへの反歌とも聴こえますし、アンディ・アーヴァインのやはり代表作〈My hearts in Ireland tonight〉もその霊感の源泉のひとつはここでしょう。あるいはまた「ふるさとは遠きにありて思ふもの」の一節も思いおこされます。ついに帰ることはできないと知ったとき、故郷ははるか遠くから想ってこそふるさととなると考えることでかろうじて均衡を保つ精神の、血を吐くような、静かな叫びです。

 なお、コーラスは〈The strong walls of Derry〉というブロードサイド・バラッドからとられており、その他の詩はバーンズの自作です。

 スコットランド以外のミュージシャンがこのうたをうたう時、"Highlands" を「ハイランズ」と発音することがありますが、これはやはりスコッチの発音で「ヒーランズ」とうたわないと感じが出ません。もっともバーンズの詩の魅力のひとつはこのスコットランド語独得の発音にあるので、どのうたにも同じことが言えます。ちなみに "heart" も「ハート」ではなく、「ヘァルト」です。

 伴奏はハープとフルート。

 クラルサッハ(スコティッシュ・ハープ)は Iain Hood。この人はどうやらセッション・ミュージシャンで、結婚式などのイベントの仕事がメインのようです。

 フルートは Eddie Maguire。ベテラン・バンド The Whistlebinkies のメンバー。もっとも、クラシックの作曲家としての方があちらでは有名らしい。

 ウイッスルビンキーズはキャリアに比べて地味な存在でしたが、《A WANTON FLING》(1996) 以降のアルバムはかなりの出来。


(歌詞大意)
ごきげんよう、ハイランドよ、さらば北国
豪胆の生まれるところ、値千金の国
いづこにさまよい、いどこにさすらうとも
ハイランドの山々こそは、一生わが最愛のところ

コーラス:
わが魂はハイランドにあり、ここにはあらず
わが想いはハイランドにありて、鹿を追う
荒々しい鹿を追い、雄鹿の足跡をたどる
いづこに行こうと、わが想いはハイランドにあり

ごきげんよう、雪をいただいて聳える峰よ
ごきけんよう、広い谷よ、緑の渓谷よ
ごきげんよう、からみあって昼なお暗き森よ
ごきげんよう、瀬音高くほとばしる流れよ

コーラス