聴いて学ぶ アイルランド音楽 (CD付き) 『聴いて学ぶアイルランド音楽』刊行記念イベント@新宿ディスク・ユニオンでかけたうたの歌詞大意その2。プランクシティの〈ラグル・タグル・ジプシー; 奥さま、お手をどうぞ〉です。本の中で関連するのはプランクシティの名前が初登場する99ページです。うたのソースが放浪民であったジョン・ライリィであることは本の152ページに出ています。


 このうた自体は「ジプシーもの」のひとつ。地位や身分の高い女性がたまたまやってきたジプシーに惚れて出奔してしまうのを、旦那が追いかけるが奥さんはもどらない。このうたにワルツ〈奥さま、お手をどうぞ〉を続けたのは、音楽的にも秀逸でした。

 うたとチューンをこのように続けて演奏するのも新機軸です。なお、このうたとチューンの組合せはプランクシティの原形となったクリスティ・ムーアのセカンド・アルバム《PROSPEROUS》ですでに試みられています。が、このコークでのライヴではすでにテンポを上げた引き締まった演奏です。

 地位や財産に恵まれた、いまでいえばセレブの奥方がその境遇に満足できず、身分の低い男や、ジプシーのような「埒外」の人間と駆け落ちしたり不倫したりすることは、アイルランドやブリテンの伝統歌でよくうたわれるモチーフのひとつです。こうしたスキャンダルは人間の生活には不可欠なようで、形を変えながらも脈々と続いていることは、女性週刊誌を見ればよくわかります。このうたを最初につくったのもあるいは女性だったかもしれません。その背後には裏切られる旦那つまり領主への意趣返しの意図もこめられているのでしょうが、同時におそらくモデルとなった事件が実際にあったと思われます。

 また奥方を誘惑する「ジプシー」にしても、ジョン・ライリィが一員であったティンカーなどの放浪民の総称でしょうし、ひょっとすると「ジプシー」を装った愛人で、全体が狂言である可能性もあります。

099. Planxty〈The Raggle Taggle Gypsy〉
《(Christy Moore) THE BOX SET: 1964-2004》1972
    Christy Moore: vocals, guitar
    Liam O'Flynn: uillean pipes
    Andy Irvine: mandolin
    Donal Lunny: bouzouki


(歌詞大意)
三人の年寄りのジプシー、われらが玄関へとやってきた
ずうずうしくも堂々とやってきた
ひとりが高くうたえば、ひとりは低くうたう
残るひとりはわれらぼろぼろのジプシーよとうたう

奥様は館の中を上へ下へと駆けまわり
革のスーツをお召しになった
やがてお部屋のあたりに響く叫び声
「奥様が襤褸をまとったジプシーとお逃げなされた!」

その晩遅く、旦那様がお帰りになって
奥はいずこにと問われたならば
召使いの娘の申すよう
「奥様は襤褸をまとったジプシーとお出かけになられました」

「ならば鞍を置け、わが純白の馬に鞍を置け
わが大馬は速くないからな
馬を駆りて、わが花嫁を探しにゆくぞ
奥は襤褸をまとったジプシーと逃げたからに」

旦那様は西へ東へと馬を駆られた
北へも南をもお探しになった
そうして広い野原に馬を乗り入れられた時
そこに奥様をおみとめになった

「何ゆえに汝が館と領地をかなぐり捨てしか
何ゆえに汝が財宝をかなぐり捨てしか
何ゆえに汝がただひとりの嫁いだ夫を見捨てしか
襤褸をまとったジプシーと引替えに」

「そうよ、わが館と領地がいかほどのものでしょう
財宝がいかほどのものとおっしゃるの
わがただひとりの嫁いだ夫がどうしたのです
わたしは襤褸をまとったジプシーといっしょに行きますわ」

「昨夜、おまえはダウンのベッドで休んだ
かくも心地よい毛布にくるまって
だが、今宵、おまえはただ広い野っぱらで寝ることになるのだぞ
襤褸をまとったジプシーの腕に抱かれて」

「そうよ、ダウンのベッドがどうしました
心地よい毛布などどうでもいいわ
今夜はただ広い野っぱらで寝ます
襤褸をまとったジプシーの腕に抱かれて

あなたは東へお行きなさい、わたしは西へと向かいます
あなたは身分の高いまま、わたしは身分を捨てました
わたしはこの黄色いジプシーの唇に接吻します
いくら金を積まれようと、変わりはしません」