聴いて学ぶ アイルランド音楽 (CD付き) 『聴いて学ぶアイルランド音楽』刊行記念イベント@新宿ディスク・ユニオンでかけたうたの歌詞大意その3。 本文160 ページに登場するアメリカのアイリッシュ・ロック・バンド、Black 47 の〈Danny Boy〉。

 Black 47 はアイリッシュ・ロックとしかちょっと呼びようがありませんが、ポーグスのフォロワーとは一味違う独自のカラーを持っています。音楽的にも思想的にも、アメリカのソウル・フラワー・ユニオンと呼べるでしょう。

 ここでも持ち前の反骨精神で、もう手垢のほうが厚いくらいのこの超定番曲を「ずたずたにして」います。それによっておよそ浮世離れした、中身が空っぽのはずのうたが、いきなり切れば血が出る生々しいリアリティをもって迫ってきます。イベントでもお客さんの反応がダントツでヴィヴィッドだったのがこのうたをかけた時でした。

 そして伝統音楽はこのような使われ方も許容します。いや奨励し、挑発し、あるいは誘惑します。伝統音楽にはその存続を保証するものが何もありません。国家権力や巨大資本による保護からはずれています。ただ、自らの才覚と不断の努力でサバイバルするしかありません。常にそれぞれの時代の環境と切り結んでいます。いま残っているうたや曲やスタイルは、そうして磨かれてきたものです。伝統音楽はけっして古いものがそのまま博物館の陳列品になっているのではありません。ノスタルジーに逃げるためのナツメロでもありません。日々あらたに生まれている、最新の音楽です。権力や資本による保護からはじき出されたわれわれにとって、生き延びるためのエネルギー源です。

 Black 47 によるこの演奏は、そのことをあらためて教えてくれます。

 このうたはアイルランドを「代表」するうたとして有名ですが、元をたどればスコットランドのうたと思われるところも多々あります。まず、メロディがアイリッシュの典型というよりはスコットランドのものに響きます。また、"glen" はどちらかというとスコットランドで使われる単語ですし、パイプの音がその谷間に響くのも、谷間が雪で白く染まるのもスコットランド的です。

Black 47〈Danny Boy〉 《HOME OF THE BRAVE》1994
    Geoffrey Blythe: clarinet, saxes, brass arrangement
    Chris Byrne: uillean pipes
    Angel Fernandez: trumpet
    Kevin Jenkins: guitar, bass
    Dan Johnson: drums
    Larry Kirwan: guitar, mandolin, vocals

(歌詞大意)
ダニーは昔ながらのニューヨークへとやってきた
生まれはコーク州バンドンの街
ウッドサイド・クイーンズの表通りに部屋を借りた
登録なしにビル解体の仕事についた
どうも変わったやつだった
ひとりでいるのが好みだった
サニーサイド・クイーンズのバーにはいかなかった
まっすぐヴィレッジにいってうろうろしていた

ある日、働いてるところへ現場監督がやってきた
「おい、ダニー、おめえ、オカマだろうが
髪はポニーテールだし、耳には輪っかをつけやがって
オカマがいるとくさくなる、とっとと消えな」
ダニーはただにこりとするとツーバイフォーの角材をひろいあげ
そのとんまに一発強烈なアッパーカット
「お日様もささないところでもせいぜい精だすがいい
だが、おれの生き方に四の五のは言わせないぜ」

それからダニーはシェリダン・スクエアである男と出会った
2人は2、3年、いっしょに暮らした
いまがいちばん幸せだと言っていた
やりたいことをやり、夢が実現したのだから
やつとはB街でよく一緒に飲んだんだ
ある曇った明け方、やつがうちあけた
「世の中を動かすのはただ愛だけさ
なつかしいバンドンの街に沈む夕日はもう二度と見られないんだ」

最後に会ったとき、ダンは病院のベッドに寝ていた
鼻からチューブが2本垂れていた
それでもこちらを見るとあのどこまでも透きとおった眼に笑みがうかんだ
「よう、調子はどうだい
おれはもうあとひと月はもたないよ
でも、やりたいことはやった。悔いはない
だから、おれを思いだしたら、わらってビールの缶を開けてくれ
ったく、人生ってのはすばらしい、でも、死んじまうんだよな」

ああ、ダニー・ボーイ、弔いの音を吹くパイプが響く
谷をわたり、谺が山の腹を降りてくる
夏は過ぎ、花はみな枯れだした
行かねばならないのはおまえのほうで、おれは後に残る羽目になった
牧場に夏がやってきたらもどって来い
雪で谷が真白に静まりかえるときでもいい
その陽光のなかに、影のなかに、おれはいる
ああ、ダニーよ、ダニー、おまえが大好きだよ
大好きなダニーよ