Burns: The Complete Songs, Vol. 8 リン・レコードのロバート・バーンズ生誕250年記念《THE COMPLETE SONGS》からのフリー・ダウンロード、今週はこのうた

 うたうのはカリン・ポルワート。第8集(2000)に収録。カリンは〈My heart's in the Highlands〉に続く登場です。

 このうたはふつう〈The battle of Sherramuir〉のタイトルで知られていて、1790年2月の発表。バークレー派別名ベレア派と呼ばれるプロテスタントの一派を立てたジョン・バークレー尊師(1734-98)が書いたブロードサイド・バラッド〈お玉舐めのウイルとお椀舐めのトムの会話 Dialogue between Will Lick-Ladle and Tom Clean-Cogue〉をバーンズが改作したものです。シェリフムーア(詩の中では「シェラムーア」)の戦いの当日の、二人の羊飼いの会話の形をとっています。

 シェリフムーアの戦いは、1715年のジャコバイト反乱、いわゆる老僭王の反乱の帰趨を決めた戦い。1715年11月13日、スターリングに近いダンブレインの野で、マール伯率いる12,000のハイランド軍(白山形章)を、アーガイル公率いる4,000のロンドン政府軍(黒山形章)が迎え撃つ形で戦われました。勝敗は混沌として、双方が勝ちを宣言しましたが、ジャコバイト側に有力者の死傷が多く、反乱は勢いを失います。老僭王チャールズ・スチュアートは戦いの1ヶ月後にようやくスコットランドに上陸しますが、反乱側の士気を上げることができず、フランスへ逃げ帰り、反乱は終熄します。

 なおバーンズの曾祖父がこの反乱に加わっていて、このために30年後の「45年反乱」の際、忠誠を疑われ、それがもとでバーンズ家は一家離散、バーンズの父ウィリアムは故郷を離れることになります。バーンズ自身が心情的にジャコバイト側に立つ、その淵源です。

 この詩はかつては「武勲詩」のひとつと見なされていましたが、Canongate 版はそうではなく、むしろこれはバーレスクであって、形態と内容の緊張によってこの詩が映しだしているのは戦争が英雄的なものなどではなく、戦争の体験も理解も、その核心は首尾一貫したものなど無い混沌であるという洞察である、としています。

 同書に引用されている William Donaldson の  The Jacobite Song: Political Myth and National Identity, 1988 の中での分析は納得のゆくものです。

「頭韻、母音韻、行中韻をたたみかけ、息もつかせず物語を運んでゆくバーンズの筆力」を讃えてから、(ドナルドソンは)こうつけ加える。

『驚くほど若々しいこの[力業]はあっぱれとしか言いようがない長所をいくつも備える。その時その場に居合わせて、戦闘を目の当たりにしている感覚を最初から最後まで維持している(ここに描かれた事件は詩人が生まれる30年前に起きたものであると自分に言いきかせなければならないほどだ)。戦闘に参加しているなかでも庶民と、まちがう存在としての人間に焦点を当てていること。従来英雄的とされているものの本質が徹底して暴かれ、同時に暖かい眼で見られていること。
 この還元的手法が最もはっきりわかるのは第5連、アンガス党のタイミングのよい撤退が、戦闘意欲を失ったためだけでなく、まったくばかばかしいほどそれとは異なるもうひとつの欲求のためだったためであると明かされるところだ。激しい戦闘と夥しい流血にもかかわらず、全体に読者が受ける印象は滑稽なものだ。
 バーンズの描写力は日常の現実に深く根ざした映像を描きだし、そこでは叙事詩的なものと月並みなものは愚かしいまでに絡みあい、人口に膾炙した諺的表現が多用されて、情け容赦なく価値を収縮する効果を発揮する。従来偉大なものとされてきたものを茶番劇と化したこの作品は、人間を軍服や戦列によって人間性をはぎとれられた塊として扱うことを拒むことによって、根本的な人間性を回復している』(THE CANONGATE BURNS, 345-6pp.)

 カリンの歌唱もこのうたの滑稽な味をよく出していて、各連のおわりにあるリフレインでは思わすクスリと笑いがわいてきます。スリリングかつ飄々としたホイッスルを吹き、コンガを叩いているのはフレイザー・ファイフィールド。コーラスをつけているのは、カリンの先輩で共作アルバムも作っているジル・ボウマン。ジルにもバーンズのうたを集めたアルバムがあります。


(歌詞対訳)
おや、いくさをよけて来たのかい
それともいっしょに羊の面倒みてくれるのかね
それともシェラムーアに行ってきたのかい
あそこで戦いを見てきたかね
見た見た、そりゃ烈しいものだった
沢は血の川だったし
こわくて心臓はどきどき
人が倒れる音が聞こえて、埃はもうもう
タータンを着て森から湧きでたクランの男ども
三王国につかみかかった

黒の山形章をつけた赤コートの兵士たち
迎え撃つのにぬかりない
突っこんで押しだして、血が噴きだす
倒れた死体は数知れず
大アーガイルが先頭に立ち
ざっと20マイルは広がって
クランの戦士たちを倒してゆくのはさながらボウリングでピンを倒すよう
だんびら振りまわして、切り裂き、突き刺し
突っこんで切り倒して叩き潰すから
不運な男たち次々と倒れる

だが、見よ、キルトをつけた勇者たち
派手なズボンをぴったりと着こなし
ホイッグどもに、盟約派の旗印に、真っ向から挑みゆく
長く厚い戦列をなせば
銃剣は盾を圧倒する
何千もの勇士が突撃し
ハイランドの怒りを抜きはなつ
死の刃を受け、息を切らし
やつらは鳩のようにすくみあがって逃げてゆく

まさか、そんなことがあるものか
追いかけたのは北の方だよ
この眼で見たんだ、騎馬のやつらを
フォース湾へと押しもどした
ダンブレインじゃおれの眼の前で
全軍で橋を渡り
スターリングへと尻に帆かけてまっしぐら
ところが、なんたることか、市門はぜんぶ閉まってる
逃げたやつら、哀れな赤服
こわくて気を失うやつが続出さ

おれの妹ケイトがオートミールと
水をもって門に行った
ケイトが言うには、反乱軍の一部が
パースやダンディーに逃げていた
敵の左翼を率いた将軍はいくさのやり方を全然知らない
アンガス一族の一党はてんでガッツがなかった
まわりのクランたちが血を流したあの日
ポリッジの椀を敵にとられるんじゃないかとこわくなり
攻撃にすくみあがって
すたこら村へ帰っちまった

ハイランドのクラン側で
勇士たちがたくさん倒れた
パンミュア卿は戦死されたか
捕まっちまったんじゃないかと思う
さてどっちも逃げたこのいくさをうたにしないか
犬死にした者もいれば、死んで花を咲かせた者もいる
とはいえ大半はただこの世におさらばしただけ
ひどい乱戦で、マスケット銃が弔鐘を鳴らし
トーリーたちが倒れ、ホイッグどもは地獄へと
ひと塊に潰走したよ