
うたうのはメイ・マッケナ。第6集(1999)に収録。〈Ae fond kiss〉に続く登場です。
Canongate 版では〈Lord Gregory〉のタイトルです。エディンバラの出版業者ジョージ・トムソンのために書かれ、1793年1月23日に送られた作品。古歌〈The bonnie lass of Lochryan〉を改作したもの。1798年の A SLECT COLLECTION OF ORIGINAL SCOTTISH AIRS FOR THE VOICE に発表されました。
なんといってもこのうたはメロディが秀逸。裏切られても諦められない男をかきくどく、その心を闇夜にたとえる詞にまことにふさわしい。どこか静かな狂気さえ感じられます。ホイッスルの音はさながら夜のなかにさらに黒く立つ城をめぐって吹きつのる風の音ですが、その風はまた、見棄てられた女の心の荒野にびょうびょうと啼いてもいるようです。
決っして声を上げることのないメイ・マッケナの歌唱は諦めきったようでいて、本人もどうすることもできない哀しみと怨みを深く沈めています。なにものかに憑かれたようなホイッスルはカパーケリーのマーク・ダフ、そして肺腑をえぐるハープはコリーナ・ヘワット。《THE COMPLETE SONGS》全曲のなかでも屈指の名演。
(歌詞対訳)
暗い、くらいわ、この丑三つ時
嵐のたくましく吼えたける夜
あわれ寂しくさまよう者のあなたの城をたずねれば
グレゴリー様、どうか扉をお開きになって
父の家を追われました
あなたを愛したばかりに
せめて情けをおかけください
愛はむりだとおっしゃるならば
グレゴリー様、あの茂みを思いだしてくだされ
うるわしきアーヴィンのほとりにあった茂みを
乙女の妾が初めてあなたを見初めたところ
それまでずっとずっと拒んでいたのに
何度、殿は誓われたでしょう
殿にはいつもいつまでも妾しかおらぬと
そして嘘もつけない妾の心はたわいもなく
殿のお言葉を露疑いもしませんでした
なんと頑ななのでしょう、グレゴリー様のお心は
そのお胸には暖い血の一滴も流れてはおらぬよう
殿はまさに天翔ける矢のごとし
どうか妾に安らぎをお与えください
天に逆巻くいかづちよ
この身はすすんで贄となりましょう
けれどもどうか妾が愛する人はお見逃しください
天と妾へのあの方の裏切りをお許しください
コメント
コメント一覧 (2)
Bachue のバージョンがブルースっぽかったので、彼らのオリジナルだと思い込んでおりました。
Robert Burns 集、一枚あたり600円ほどというお得感につられて、セットで購入しました。もちろんまだ全部聴けていません。
> Bachue のバージョンがブルースっぽかったので、彼らのオリジナルだと思い込んでおりました。
あのコリーナ・ヘワットの歌唱もすごいですね。カリン・ポルワートもソロでうたっていて、それもまた良いです。
> Robert Burns 集、一枚あたり600円ほどというお得感につられて、セットで購入しました。もちろんまだ全部聴けていません。
ったく、出た当時通常価格で買ったおれにはどーしてくれるのだ、という値段でありますな。とはいえ、このシリーズは長岡鉄男流に言えば、楽曲、演奏、録音と三拍子そろった名盤でありますから、できるだけたくさんの人に聴いてほしいものです。
急いで聴く必要はないですよ。ゆっくり、じっくりいきましょう。