Complete Songs of Robert Burns Linn Records の《THE COMPLETE SONGS》によるロバート・バーンズのうた探訪、その10。第5集 (1998) 収録。シンガーは Ian F Benzie。

バーンズ自身はこのうたをベストの作品と考えていて、何度も推敲した後が残っていて、ここにおちつくまでに少なくとも二つの大きな版があるそうです。ここに掲げた歌詞大意の原詞は Canongate 版が最終形態としているもので、1795年8月に無署名で The Glasgow Magazine に発表されました。

当時としてはこの内容は反体制的で、反逆を扇動するものとして、バーンズは逮捕されてもおかしくはありませんでした。発表の翌年にはロンドンの政府支持の雑誌 Oracle が、こちらはバーンズを作者と名指しして転載しています。この転載はバーンズの承認を得たものではなかったらしい。実際、政府の監視網にはひっかっかっていたことはほぼまちがいないと推定されています。ましてやバーンズは当時酒・タバコにかかる税金を扱う公務員でした。逮捕・告発をまぬがれたのは、ひとえにかれの病が重かったためとされています。

一方でここにうたわれていることはバーンズの本音でもありました。フランス革命やトム・ペインの『人間の権利 The Rights of Man』の刺激を受けてその本音が結晶したのです。Canongate 版が引く David Daiches によれば、このうたは念入りに構成を練られていて、真正直な貧しさから徳性と身分のずれを具体的に例を挙げて描写してゆき、最後には祈りにして予言であるものに高まります(Canongate, 515pp.)。バーンズが病のなかでこのうたに注ぎこんだエネルギーはなみなみならぬ大きなものだったにちがいありません。

イアン・F・ベンジーは Old Blind Dogs のリード・シンガー。OBD は1990年代はじめに登場して、The Iron Horse とともにスコットランド音楽を再活性化したバンド。ベンジーはソロとして2枚のアルバムがあります。CSRB では第1、第2、第5集に計7曲参加しています。

ここでのフィドルは OBD の同僚 Johnny Hardie。ブズーキは Jamie McMenemy。バトルフィールド・バンドの創設メンバーであり、ブルターニュに渡って Kornog に参加しました。すぐれたシンガーでもあります。ホイッスルはカパーケリーのマーク・ダフ。


(歌詞大意)
それでも人は人


真正直な貧しさに
うなだれる必要などあるだろうか
びくびくしている奴隷は置き捨てていこう
むしろあえて貧しさを選ぶのだ
たとえこの苦労を誰にも認めてもらえずとも
それがどうした
身分など遥か異国の切手も同然
人が立派かどうかはそんなものにはかかわりない

食事が質素だからとて
粗いウールを身にまとおうとてそれがどうした
絹を喜ぶは愚か者、ワインを求めるは悪党ども
人が人かはそんなことにはかかわりない
そうさ、やつらの金ピカはただの見かけだおし
たとえ極貧であろうとも
真正直な人間は
人のなかの王なのだ

領主と呼ばれてる、あいつが見えるだろ
そっくり返って歩いたり、にらみつけたり
やつの言葉に何百人もひれ伏すかもしれないが
それでもあいつはただの阿呆
肩から帯をかけて、勲章つけていたって
独立不羈の気概を持つ人間は
あれを見て大笑い

王族は人をナイトに叙せる
伯爵だって公爵だっておもいのまま
でも真正直な人間にはそんな権力もかなわない
篤く信じられるには、あんなふうになってはいけない
あいつらの威厳だって
真の分別、誇り高き人となり
それこそは何よりも貴いもの

だから祈ろう、その日が来るように
その日は必ず来ると信じて
分別と人となりがこの地上において
勝利をおさめる日が来ることを
どんなにそうは見えなくとも
その日は必ずやってくる
世界中の人間にとって
たがいが兄弟となる日が