ホット・ウィメン〜1920〜50年代の78回転レコードに聞く暑い国の女性歌手たち    レヴューを頼まれた《ホット・ウィメン〜1920〜50年代の78回転レコードに聞く暑い国の女性歌手たち》を聞いていると、先日 Oxford Dictionary of National Biography の無料配信にギタリストの Francisco Antonio [Frank] Deniz (1912–2005) が載ったのはシンクロニシティに思えてくる。

    DNB では邦訳400字詰め20枚弱ほどの長さ。両親の出身や経歴がくわしく語られる。ところが録音を聞こうとすると、ブリティッシュ・ブラック・スイングの音源を集めたオムニバスに1曲入っているものしかみつからない。DNB の記事によれば、1950年代にはかなりの人気があったらしいのに。
   
    あるいはセッション・マンとしての仕事が多く、それもジャズ方面が多かったせいか。どうやらこの人はジャズにカテゴライズされることを嫌い、カリビアン・アフリカンを本領としたせいか。ひょっとするとアメリカが嫌いだったのかもしれないが、分類されにくいところへ向かったのは、おのれの嗜好に忠実だったからかもしれない。そのおかげでさらに自分の名を冠した録音は残りにくくなっても。セッション・マンとしてはホーギー・カーマイケルのバックでの仕事が一番入手しやすいようだ。
   
    とはいえ、コード・ストロークではない、メロディを弾くギタリストとしては、先駆者のひとりに数えられ、当時は他への影響も大きかったと思われるのに、ソロのタイトルが1枚もないとは首をかしげる。探し方が悪いだけか。
   
   
    《HOT WOMEN》の方に出てくる女性シンガーたちはほとんどが無名だ。時代は1920年代から30年代。すべてSPからの復刻。このインターネットの時代でもまったく情報が無い人たちも一人や二人ではない。「熱帯地方の女性シンガーたち」とのことで、メヒコからハワイまで、地球をぐるりとまわるうたの旅ができる。しかし、アラン・ロマックスがとらえたあのセビーリャの名もしれぬ女性のように、この女たちの声は後々まで残り、それぞれの時代に聴く者をゆり動かすだろう。編者のロバート・“フリッツ・ザ・キャット”・クラムがライナーで言うように、ことばなどわからなくても、本人が何者かわからなくても、デジタル録音ではなくとも、どうでもよくなってくる。彼女たちのうたには聴くたびにゆりうごかされる。足を踏みしめているはずの基礎岩盤がゆりうごかされる。そしてまた聴きたくなる。
   
    SPからの復刻は音が良いものが多いが、これはまた格別で、エンジニアも誉めたたえられるべきであるが、それとともに、女性たちの声がSPの特性に合っていたのかもしれない。オーディオ機器のテストには、むしろこういう録音の方が適切ではないか。これが気持ち良く再生できるシステムは信用できる。(ゆ)