ドレクスキップが東下しての2連チャン、初物好きの小生としては、まだ聞いたことがないフラクタルとの対バンを聞いてきました。
   
    ドレクの生を見るのは2度め。前回は2月のナギィとの対バンでしたので半年ぶり。その間、正式アルバム《WeatherCock,facing North/北向く風見鶏》を録音、リリースし、それをひっさげてのライヴを重ねてきています。その精進の跡はあざやか。
   
    というより、いやあ、いいバンドになってきました。引き締まったアンサンブルから繰り出される、アイデア満載、センス抜群のアレンジに磨きがかかり、CDで聞き慣れた曲、フレーズがきれいに洗われて、まるで初めて聞くようです。実際、アレンジそのものも変わっているところもあって、わくわくしてきます。
   
    2月の時点で感じた、こりゃあ、いいバンドになるぞ、という予感がいよいよ現実の姿をとりだした、というところでしょうか。可能性が十分に開花した、とまでは言えない、それはまだまだこれからの楽しみですが、ほんとうに良いバンドになってゆくその過程にある姿もまた、きわめて魅力的です。すぐれたバンドの誕生に立ち合っている歓び。今でしか聞けない音、見られない姿。
   
    成長の過程が形になっていたのは「新曲」で、東欧風の〈7拍子の太鼓〉はすばらしかった。レパートリィの幅がこういう形で広がってゆくのをみるのは快感でもあります。
   
    ひと言でいえば「若さ」になりましょう。ひとつひとつの音、フレーズ、演奏が新鮮なのです。生まれたばかりの音楽。行き着くところのまだまったく見えない、可能性の塊。といって勢いばかりではない、緩急の呼吸もしっかりつけている。欠点はむろんたくさんあるにしても、その欠点すら魅力になる。
   
    メンバーのうち3人は早朝京都を出発してモロに渋滞に巻きこまれ、東京に着くまで12時間かかったそうですし、体調の万全ではない人もいましたが、そうした悪条件をものともしない、あるいはそれがむしろ推進剤になっているところも頼もしい。
   
    今頃は池袋の HMV でのインストア・ライヴの真っ最中でしょうが、今晩の O'Jizo、waits との対バンは見ものでしょう。ひょっとすると3バンドの合奏もあるやもしれず、これを見逃す手はないと思います。世界で一流と呼ばれる存在をめざして、さらなる精進を重ねていただきたい。スウェーデンのフェスティヴァルでヴェーセンとトリを争う存在になってほしい。
   
   
    ドレクスキップの前に登場したフラクタル Fractale は、ウエブ・サイトでは東欧系の音楽となっていましたが、タラフ・ドゥ・ハイドゥクスやコチャニ・オーケスターよりも、ステファン・グラッペリ&ジャンゴ・ラインハルトのスタイル、マヌーシュ系のバンドです。いつもはこれにアコーディオンの加わるトリオでの活動だそうですが、昨日はドレクに対抗するため、ダブル・ベースとタブラがゲストで加わっていました。
   
    ただ、ドレクを聞いてしまうと、前半のフラクタルの演奏が吹っ飛んでしまったことは否めません。
   
    原因のひとつは急遽加えたゲスト、特にタブラとの連携があまりうまくいっていなかったことでしょう。ゲストも含め、メンバー個々の水準は高く、技術的にはドレク以上ともみえましたが、アンサンブル全体としての練度が不足していました。むしろふだんやっているトリオでの練度の高い演奏も聞いてみたかったのですが、今回はなし。
   
    この手の音楽にタブラを加える発想はたいへんおもしろく、おおいに評価しますし、タブラ自体、柔軟性は高いですから、新たな成果も期待できます。が、一方でやはり独自の性格が強い楽器でもあり、うまく連携をとるには周到な戦略と時間をかける必要があるのでしょう。昨日はむしろぶっつけ本番の即興に活路を見いだす戦術で、タブラとギター、タブラとヴァイオリンのような形ではかなりおもしろくなっていました。ぼくにとってはこの二つがハイライト。ただ、全体となると、タブラの活躍の幅が限られてしまうようでした。
   
    とはいえ、ドレクスキップの刺激でこういう試みが出てきたことはまた嬉しく、この形でもリハを重ねたところが聞きたいですし、もっと他の試みも期待します。いろいろ試すことができるだけの技量の高さがフラクタルにはあると思います。それにやはりトリオとしてのライヴを見てみたくなりました。
   
    それにしても、ヴァイオリンのカジカさんが和服で超絶技巧を連発するのは、不思議な光景。最初はアレという感じなのですが、すぐに違和感がなくなってしまい、この音楽は昔からこういう格好でみんなやっていたんだよな、と妙に納得させられます。
   
   
    会場の Blue Drag は無愛想なビルの地下で、ビル自体は商業ビルでもないので、たいへんわかりにくいです。看板も目立ちません。早稲田通りを明治通りとの交差点から飯田橋方面に向かって少し行くと左に「天下一」のラーメン屋があり、そこを左に折れて三軒めぐらいのビルです。50メートルも行かないと思います。
   
    昨日は黒糖酒の「龍宮」というのがあったので試してみましたが、なかなかの酒でした。(ゆ)