久しぶりにダンスの Taka さんのブログを覗いたら、東宝のミュージカル『パイレート・クイーン』に出演されるそうな。劇中アイリッシュ・ダンスのシーンもあって、そのトレーナーもされている。

    ミュージカル自体はもちろん東宝のオリジナルではなく、飜訳で、タイトルから予想される通りグレイス・オマリー、アイルランド風に言えばグローニャ・オマリーの話。アイルランドのフォーク・ヒーローの一人だから、これまでエンタテインメントの題材にならなかったのが不思議なくらい。こうして劇化されるのも前世紀末からの「アイルランド・ブーム」のおかげか。
   
    とはいえ、グローニャについては史料として残っているものは少なく、それもほとんどがイングランド側のものなので、ほんとうのところはよくわからないことが多かったりする。その分、脚色の余地は大きく、フィクション化しやすくはあるが。
   
    それにしてもあの時代に今のようなアイリッシュ・ダンスがあったかどうかあやしい。『リバーダンス』型の、競技会スタイルだけでなく、いわゆるシャン・ノース型だってあったかどうか。
   
    音楽もちがっていたはずだ。ダンスがあやしいのだからダンス・チューンも当然あやしい。リールが入るのはたしか17世紀以降だったから、グローニャはすでに死んでいる。
   
    楽器で共通するのはハープとホイッスルとパイプの原型ぐらいで、フィドルでさえまだ普及していない。蛇腹やバウロンはありえない。ハープでダンス・チューンをやっていたはずもない。あれは1970年代後半に始まる。じゃあ何があったのか。うーむ、急に気になってきた。
   
    などというのはもちろん野暮なつっこみであります。ただ歴史にもとづくフィクションを「史実」とかんちがいする人がこの国では多いので、一応念押しまでに。
   
    グローニャの「実像」を少し考えてみれば、メイヨーの複雑な海岸線を知りつくした「海の領主」のひとりであり、彼女自身、かなりの将才があったことは確かなようではある。ただやはり、ローカルではほとんど無敵だが、縄張りを一歩出るととたんに弱くなるアイルランド的性格は変わっていない。たとえば全アイルランドを統一してイングランドに対抗することを考え、そのために大きな戦略を描いた形跡はない。視野が狭いのとはちょっと違う。当時のヨーロッパ、少なくとも、スカンディナヴィアも含めた西半分の情勢はしっかり把握していたと思われる。つまりは戦術家ではあっても戦略家ではなかった。
   
    とまれ、Taka さんの指導の甲斐あって、ダンス・シーンが本場に負けない評価を得られますように。それにしても、まさかあの衣裳で踊るのお? とポスターを見て思ってしまうのでありました。(ゆ)