Irish Book of the Decade 候補作のおさらい その12。
ここのところご無沙汰だが、本誌執筆陣の一角、栩木伸明さんの飜訳になる『ゾリ Zoli』(2007>2008) の著者の最新作。『ゾリ』の次の長篇で、2009年度全米図書賞受賞、アマゾン・コムの「今年の1冊」に選ばれている。
著者の経歴や作風については『ゾリ』の訳者あとがきに詳しい。簡単に記しておくと、1965年ダブリン郊外の生。アメリカに渡り、あちこちに住んだ後、今はこの小説の舞台であるニューヨーク在住。アメリカに渡ることが「移民」ではなく、「通勤」だと言う新世代の一人。つまり一方通行ではなく、その気になればいつでも帰れるわけだ。ここまで登場した作家たちとは違って、テーマとしてアイルランドをあまりとりあげない。『ゾリ』は第二次世界大戦前後のスロヴァキアのジプシーの女性だし、2004年の Dancer はロシアのヌレエフが主人公。そして本書はアメリカだ。2004年の Everything in This Country Must でノーザン・アイルランドをとりあげている。著書は本書を含めて長篇6冊、短篇集2冊。
この作品はニューヨークのツイン・タワーを焦点のひとつとして、11人の人物の視点から、二つの「事件」を描く。それによってこの街の多様な側面が浮びあがる。事件の一つは1974年、フィリップ・プティがツイン・タワーの間に張ったロープで綱渡りをしたこと。著者は刊行後のインタヴューで、「われわれは皆、日常生活の中で命を賭けて綱渡りをしている。ただ、高さが地上3センチなだけだ」と言っている由。もう一つの事件はニューヨークのある売春婦の裁判の法廷劇。平凡な人から非凡な人までの様々な人間たちの、二つの事件との関わりを編みなしながら、最終的にどのようなメッセージが現れるかは、読んでみてのお楽しみというところだろう。またおそらく、読者によって多少とも異ったものになるにちがいない。
とまれ、いずれ出るはずの栩木さんの邦訳を待ちますか。(ゆ)
ここのところご無沙汰だが、本誌執筆陣の一角、栩木伸明さんの飜訳になる『ゾリ Zoli』(2007>2008) の著者の最新作。『ゾリ』の次の長篇で、2009年度全米図書賞受賞、アマゾン・コムの「今年の1冊」に選ばれている。
著者の経歴や作風については『ゾリ』の訳者あとがきに詳しい。簡単に記しておくと、1965年ダブリン郊外の生。アメリカに渡り、あちこちに住んだ後、今はこの小説の舞台であるニューヨーク在住。アメリカに渡ることが「移民」ではなく、「通勤」だと言う新世代の一人。つまり一方通行ではなく、その気になればいつでも帰れるわけだ。ここまで登場した作家たちとは違って、テーマとしてアイルランドをあまりとりあげない。『ゾリ』は第二次世界大戦前後のスロヴァキアのジプシーの女性だし、2004年の Dancer はロシアのヌレエフが主人公。そして本書はアメリカだ。2004年の Everything in This Country Must でノーザン・アイルランドをとりあげている。著書は本書を含めて長篇6冊、短篇集2冊。
この作品はニューヨークのツイン・タワーを焦点のひとつとして、11人の人物の視点から、二つの「事件」を描く。それによってこの街の多様な側面が浮びあがる。事件の一つは1974年、フィリップ・プティがツイン・タワーの間に張ったロープで綱渡りをしたこと。著者は刊行後のインタヴューで、「われわれは皆、日常生活の中で命を賭けて綱渡りをしている。ただ、高さが地上3センチなだけだ」と言っている由。もう一つの事件はニューヨークのある売春婦の裁判の法廷劇。平凡な人から非凡な人までの様々な人間たちの、二つの事件との関わりを編みなしながら、最終的にどのようなメッセージが現れるかは、読んでみてのお楽しみというところだろう。またおそらく、読者によって多少とも異ったものになるにちがいない。
とまれ、いずれ出るはずの栩木さんの邦訳を待ちますか。(ゆ)
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