With My Lazy Eye    Irish Book of the Decade 候補作のおさらい その35。

    この50選の中に4冊ある小説デビュー作。刊行時のインパクトも相当なものだったらしいが、こうして3年たっても評価されるということは、たとえ、この著者がついに2冊めを書けなかったとしても、この本は価値があるとみるべきかもしれない。
   
    著者は本業は公務員で、この本の大成功後も勤めをやめていないそうだ。ただ、この人自身はセレブといっていい人で、父親はフィナ・ゲール党所属の国会議員で、法務大臣を勤めていた。
   
    この小説は、著者の分身であるヒロインの「成人」を描いたもので、どこまでが現実でどこからがフィクションか、容易に見分けがつかないものらしい。著者にとって父親は単なる良い父親で、家では政治については一切触れない。とはいえ、どんな小さな国とはいえ、著名政治家の家庭がごく普通の、どこにでもある家庭であるはずはなく、ヒロインが少女から脱皮してゆく過程は小説の素材として不足のないものであったようだ。
   
    著者はその自分の姿を客観視し、ビタースイートなユーモアをまぶして、新鮮な体験として提示することに成功しているのだろう。
   
    当然、第二作を書くのはたいへんだろうと予測され、今のところまだ書かれていないようである。(ゆ)