There are Little Kingdoms: Stories by Kevin Barry    Irish Book of the Decade 候補作のおさらい その41。

    このおさらいもあと10タイトル。
   
    この人も生年や出身地を明らかにしていないが、写真やインタヴューからして、おそらく30代半ばというところ。

    コークでジャーナリストをしていたが、一念発起してキャンピング用トレイラーを買い、とある田舎に駐めて半年そこで暮らしながら、創作に没頭。そこで生まれた短篇が文芸誌に売れはじめる。これは最初の著書でいずれもアイルランドの田舎の小さな町を舞台にした短篇集。2冊目は来年、初の長篇が予定されている。
   
    クレア・キーガンの『青い野を歩く』に続くこの50選で2冊目の短篇集で、デビュー作としてもタナ・フレンチ、ジュリア・ケリィ、それに最終的にこの「アイルランド・ゼロ年代の1冊」に選ばれたデレク・ランディの『スカルダガリー』ともに4人いる。
   
    もっともロイ・キーン、ポール・マグラア、ビル・カレンの「素人」トリオのものも「デビュー」作ではある。
   
    お手本としたのはアメリカの短篇作家ジョン・チーヴァーだそうで、実際かれの短篇はチーヴァーが主な作品発表の場とした『ニューヨーカー』にも掲載されている。
   
    地方の小さな町の、一見平凡な人びとの暮らしの、一枚皮をはぐと現れる「異常さ」を、すぐれたユーモアをもって語ったものらしい。伝統的な共同体が独自の性格を失い、のっぺらぼうの現代社会に呑みこまれていく過程を捉えている、と評されている。過去を神話化するのでもなく、ノスタルジーに陥るのでもなく、クールに坦々と書いているようだ。
   
    こういう話はリアリズムに徹した末にシュールリアリズムやホラーになることも少なくないので楽しみ。(ゆ)