お暑うございます。気温は高いのですが、どうも空が真夏の空ではありません。入道雲がもくもく湧いてきません。なんか、こう、秋の空、という感じです。
   
    それで調子を崩した、というとうまい口実になるのですが、そうは問屋が都合よくおろしてくれませんで、本日は本誌メルマガ今月号の配信予定日ですが、諸般の事情により、遅れます。えー、今回は3日ぐらい、と思ってます。
   
   
    ノーザン・アイルランドではいわゆる「行進シーズン」ですが、やはり今年はいろいろと変化が出てきているようであります。
   
    先日07/12の、いわばプロテスタントによる示威行進の「本番」のひとつ、1691年7月12日のオーグリムの戦いにおけるプロテスタント王ウィリアム3世軍のカトリック王ジェイムズ2世軍に対する勝利を祝う行進ですが、この時に、毎年事件が起きているベルファストのアードイン Ardoyne 地区で大規模な暴動が起き、警官90名が負傷しました。
   
    これで一番怒りくるったのはどうやら、地元ではなく、ロンドンの政府だったようです。
   
    こういう暴動や衝突は毎年繰り返されているので、そのたびに警備や被害の復旧で多額の金がつぎこまれているわけです。今回もすべて合わせると数百万ポンド、と言われていますが、今後はこういう警備の費用はロンドンは出さない、と、連合王国政府高官が宣言しました
   
    このベルファスト、アードイン地区のクラムリン・ロードはカトリックとプロテスタントの居住区が接触しているところで、伝統的にプロテスタントの行進ルートになっています。
   
    だいたい、このプロテスタントの行進はカトリックに対する優越を見せつけるためのものですから、昔からわざわざこういう問題の起きやすいところをルートにしているところが多い。
   
    で、カトリックの発言権が強まってくると、当然事件が起きるわけです。地元では住民が協議会などを作って、おたがい妥協できるやり方を考え、近年はノーザン・アイルランド政府もこういう調停をバックアップするようになったわけですが、おさまらないのはプロテスタント側です。行進の主体はオレンジ団の地元支部、ロッジといいますが、このオレンジ団が伝統的権利を主張してルート変更などは受け入れず、そもそもカトリック側との協議の場にもつかない、ということも屡々です。
   
    英国政府としては、地元のトラブルは地元で解決せい、そんなローカルの特殊事情にブリテンの納税者のカネを使うことはない、と怒ってしまった、というのが今回の事情のようですが、先の政府高官は、オレンジ団行進のルート変更で問題が解決するなら、さっさとルート変更すべきだ、と言ったとも伝えられています。
   
    なにせ、今のロンドン政府は保守党政府です。伝統的にはノーザン・アイルランドでは常にプロテスタント側に立ってきました。その保守党政府の中からこういう発言が出るというのは、相当イラついているのでしょう。もちろんその背景には、予算削減という事情もあります。各地の納税者にきつい予算カットを呑んでもらう手前、ローカルな特殊事情で余計なカネはもう出せないとなるのは当然といえば当然。
   
    しかも、その争点が、生死にかかわることでもない。行進をしなければ、あるいは行進を伝統的なルートでおこなわないならば、住民の生活に重大な支障が出る、というわけでもありません。単にノーザン・アイルランドのプロテスタントの感情が満足できない、というだけのことです。
   
    むろん、この感情面での不満は、それはそれで地元住民にとっては小さな問題ではありませんが、福祉事業の削減とか、住民サービスの削減とかいうことに比べれば、緊急性が低くなるのはこれまた当然であります。ましてや、ノーザン・アイルランドの特殊事情とは縁のない、イングランドやスコットランドやウエールズの人びとから見れば、いったい、あいつらは何のために毎年暴動を起こしているのか、そして毎年同じことが同じ時期に起きるとわかっていながら、それを取り締まりもできない地元政府と警察は何をやっている、ということになるのもまたまったくその通り。
   
    というのも、こういう夏の行進の暴動や騒ぎで逮捕される人間はきわめて少数だからです。暴動を起こしても責任が問われないのであれば、当然暴動によって得る利益は大きくなり、ますます暴動が起きるようになる。
   
    地元住民はカトリックばかりでなく、プロテスタントも暴動はごめんだ、という空気になってきたようで、実際、どうやら暴動の主体はノーザン・アイルランドの他の地域からやってきた人びとらしい。
   
    今年ノーザン・アイルランド警察は特殊チームを編成し、暴動の間、暴徒の側をビデオや写真で撮影したそうです。暴動参加者の特定と逮捕に結びつけるためですが、はたして効果があるか。
   
    というわけで、警備の費用がロンドンからもらえなければ、ノーザン・アイルランド政府の予算内でまかなうしかないわけで、するとただでさえ削減されている中から、余計な出費を強いられることになります。これはプロテスタントにとっても困ることになる。
   
    今回の英国政権の与野党交替は、ノーザン・アイルランドの社会、ひいては共和国も含めたアイルランド全体に、意外に大きな変更をもたらすかもしれません。(ゆ)