悪いものではないが、ぼくにとってはあまり面白くない類の音楽を3人、聴く。サンプルをいただいたので、無視するのも失礼だし、礼状を出すより、少しでも露出した方が何らかのプラスにはなるだろう。

*エミリー・ジェイン・ホワイト《ODE TO SENTIENCE

    歌詞に特徴があるのだろうが、音楽自体はごく普通のアコースティック主体のアメリカ西海岸出身の英国調シンガー・ソング・ライター。その「英国」はアメリカ人の一部の想像の中だけにある王国だ。セーラ=ジェイン・モリスとか、パメラ・ウィン・シャノンあたりと通底する。アメリカよりもヨーロッパ、それも大陸で人気が高いらしいのも当然。ニック・ドレイクへの憧れもあるようだ。60〜70年代に生まれていれば「アシッド・フォーク」としてもてはやされたかもしれない。
    
    
*エミ・マイヤー《スーツケース・オブ・ストーンズ
    音楽的には前者とは比べものにならないほど高度なことをやっている。うたのうまさ、適度なポップさ、巧妙なジャズの風味。こーゆー音楽を聞きたくなる時もあるなと思わせる。ただ、毒が無い。
    
    
*デヴィッド・ウォルターズ《ホーム 〜JAPANESE EDITION(国内盤特典:ボーナスDVD付)
     どうしてこの人は英語でうたうのだろうか。アメリカで売るためか。カリブ訛のある英語がエキゾティシズムを呼ぶのか。音楽的にはかなり面白くなりそうなのを、「商品」に仕立てるためか、わざわざ一歩手前でやめている。昔は「オーヴァー・プロデュース」ということが言われたが、これは「アンダー・プロデュース」だろうか。本人の意志が入っているとしても、音楽が本来向かおうとするところを矯めているのは変わらない。だから英語以外の言語でうたっている曲が良い。ベスト・トラックは〈Lome〉。
    
    
    口なおし、と言っては失礼になるかもしれないが、同じ志向ながら別の結果になったものを聴きたくなって、これを聴いてみる。

*マリアンヌ・フェイスフル《NORTH COUNTRY MAID》
    久しぶりだが、やはり良い。この人がこういうアルバムを作ったというのは、やはり当時の時代の動きに人の創造力を増幅する働きがあったということではないか。ビートルズにしても、メンバーが凡人とは言わないが、それほど傑出した人間、たとえばレオナルド・ダ・ヴィンチとか、ソクラテスとか、司馬遷とか、あるいはモーツァルトとか、プルーストとか、ガウディとか、そういうあきらかに同時代の水準からかけ離れた才能と運命を担っていたとは思えない。
    
    一方でそうした異才たちもまた時代の風に乗っていたわけだから、60年代という時代が持っていた創造力増幅効果が特異なわけではなかろう。ただ、凡人でもその増幅効果の恩恵を受けられるようになっているところは、それだけ「文明」が進んだと言えようか。かつてはチャンスさえ与えられなかった人びとが、とにもかくにもチャンスを掴む可能性を持てるようになったのだから。
    
    話をもどせば、これを聴くとフェイスフル自身、うたい手として凡庸ではないこともわかる。誰もが知っていて、口ずさんだこともあるようなうた、あるいは録音をリリースするようなシンガーならどこかで一度はとりあげるようなうたを、相応の説得力をもって新鮮に聴かせるのは難しい。うたい手としての実力が剥き出しにされるからだ。うたい手として自信のない者は、エミリー・ジェイン・ホワイトのように、自分だけの世界に籠る。
    
    このアルバムが傑出したものになっているのは、うたい手の力だけでなく、シンプルだが大胆なアレンジで盛り上げるバックのサポートも小さくない。この類のうたの伴奏としては、かなり実験的なこともやっていて、ジャズ的処理をしているのはペンタングル出現前夜ということもあって面白い。
    
    1966年というリリース年代を差し引いても、十分時間の濾過効果に耐えて、今でもりっぱな音楽だ。
    
    フェイスフルにはもう1枚、同様の趣向の録音があったと思うが、今、思い出せない。
    
    
*大塚の波切不動
    ネットで検索してみると鬼平の場面しか出てこないが、『剣客商売』文庫版では『新妻』の巻収録の「いのちの畳針」にここが出てくる。このエピソードで初登場する小兵衞の弟子、植村友之助がこの鳥居前の茶屋の屋根裏部屋に住んでいる。茶屋をやっているのは御家人だった友之助の屋敷にかつて奉公していた女性の父親という設定。それにしてもあそこでの描写は『江戸名所図絵』そのままなのね。ここで主人公を張る友之助はその後何度か登場するが、チョイ役ばかりなのは残念。いいキャラだと思うんだが。金貸し幸右衛門から遺贈されて友之助に留守をさせている神田明神下の家を小兵衞が使う口実に使われるというパターン。


*iPhone 5
    ケータイは要らないので持ってもいないが、iPod touch もそのうち無くなって、iPhone だけになるのではないかという一抹の危惧はある。電話機能の有無を選択可能で、価格も電話無しなら iPod touch と変わらないのであればいいが。


HDTracks
    ハイレゾ音源2枚のダウンロードにちょうど24時間かかった。片方は2枚組だからCD3枚分だが、それで24時間は無いよ。ユーザのネット環境によってかかる時間が変わるにしても、だ。
    
    ここはファイルのアーカイヴ化もせず、生のファイルをダウンロードさせる。それも Java を使った独自アプリ。おかげでダウンロードが続いている間は Java を使う他のアプリは使えない。
    
    結構面白いタイトルはあるし、ハイレゾではない、普通のCD音源も、生CDを買うよりも安い場合もあるから便利ではあるのだが、このままでは二度と使えん。
    
    ただし、今回買った1枚、出たばかりの《マイルス・エスパニョール~ニュー・スケッチ・オブ・スペイン》は面白そうだ。 チック・コリアとか、ジョンスコとか、ディジョネット、ロン・カーターといった、ほんとの有名どころしかわからないが、ラビ・アブ=カリルがフィーチュアされてるし、スーザン・マキュオンの《Blackthorn》ですばらしいハープを聴かせるエドマー・カスタニェダが参加してるのは嬉しい。さらに〈Saeta/ Panpier〉にはクリスティナ・パトがパイプで入っている。24bit/88.2KHz のハイレゾの威力はどうか。


GRAHAM SLEE Novo
    をを、グレアム・スリーが入ってきたのかー(念のために書いとくが、「グレアム」だよ、「グラハム」ではないよ)。これは聴きたい。値段もまあリーズナブル。DAC はちょっと面白いものを手に入れたので、今は小型で質の良いデスクトップが欲しいところ。MacBook Pro の脇に置くので、小型でないとね。
    
    実は MacBook Pro> JAVS nano/V > RudiStor RPX-33 というのも試してみて、RPX 33 の実力をあらためて思い知らされたのであります(今は改訂版の RPX-35)。このアンプはソースが良ければいくらでも音が良くなる。うーん、DSD 音源をこれで聴いてみたい。
    
    んが、RPX-33 はさすがにほいほいと持ち歩くわけにはいかない。それに MacBook Pro の脇に置くわけにもいかない。アンプの上に MBP というのもねえ。というわけで、これに匹敵するのは無理でも、相当する小型デスクトップを物色中。
    
    というわけで、NOVO はずーっと気になっていたのだった。
    
    しかし、とゆーことは上級機も入ってくるのか。(ゆ)