ああん、もう、朝からデジタル機器の調子が悪い。外付けハード・ディスクは吹っ飛ぶわ、iPod touch はコンセントからの充電ができなくなるわ。1.3TB分の iTunes ライブラリをどうしてくれる。とりあえず、Disk Warrior を試してみるか。
小田光雄氏の「出版状況クロニクル」は目配りの広さと細かさ、分析の適確さに敬服して愛読、ということばがこのテクストの場合適切かどうかは議論のあるところではあるが、ともかくずっと追いかけている。
とはいえ、時には首をかしげるところも無きにしもあらずなのはまた当然で、先日ブログに掲載された今年の11月の分では、あれれ、とずっこけてしまった。この一節。
1990年代に起きたこととして、上にあげられていることは瑣末とまではいえないだろうが、もっと遥かに重大なことがある。つまり、インターネットの普及だ。
1995年の Windows 95 によるインターネット・ブーム爆発。
そして
1999年の iモードによる携帯電話のインターネット・サーヴィス開始。
この二つに象徴されるできごとによって、わが国住民の行動パターンは大きく変わった。その変化の影響がひとり出版界のみに限られることではないことはもちろんだ。というより、それが引き起こした巨大な変化は社会全体を根柢から揺さぶっており、出版界のこうむったものなどは、比較的小さな部分でしかない、というべきかもしれない。この変化はその後、収束するどころか、むしろ加速度を増しながら拡大しつづけているし、当分の間、収束に向かう気配はさらさら見えない。
インターネットの普及が出版界におよぼした影響をかたちづくる要素は主に二つ考えられる。
一つは人びとがインターネットに関って過ごす時間が格段に増えたこと。その結果、本や雑誌など、紙に印刷された媒体を相手に過ごす時間が大幅に減少する。
もう一つは携帯電話使用料、接続料が高額になり、そちらに可処分所得が注ぎこまれるようになったこと。その結果、それ以外の「エンタテインメント」に費される金額が減少する。いわゆる「ケータイ不況」だ。
どちらも出版界だけではなく、音楽業界も含めて、パッケージ販売に頼っていた産業が衰頽する契機となる。
これに比べれば「郊外複合大型店の進出、ブックオフの出現、公共図書館の増加と進化」などは、いわば出版界ローカルでのできごとであり、インターネットによる変化によって崩された土台をさらに揺さぶる程度の効果しかないのではないか。このあたり、意識して視野を出版界に絞っているのか。
もちろんそこには再販制という出版界独自の脆弱性があって、事態をさらに悪化させていることは小田氏の言うとおりだろう。
しかし、インターネットによる変化を視野に入れずに出版界全体の再構築、というよりリセットないし再起動は、たとえできたとしても弥縫策にすぎまい。
そのインターネットの普及によって明らかになったことは、実は本を読むことが心底好きで、本を読まずには生きている甲斐がないと感じている人間の数はごく少数である、という事実だ。
同じことは音楽にも言える。
従来、出版や音楽産業を支えてきたものは、消去法によって読書や録音音楽鑑賞を行なっていた圧倒的多数の人びとだった。ある曲や本や雑誌が、たまたま「流行」しているから。「みんな」がそれを読む、あるいは聞くことをしていて、それを読んだり聞いたりしないと「話についていけない」から。本を読んだり音楽を聞いたりすることがカッコよく見えるだろうから。通勤電車に乗っている間、他にできることがないから。
こうした理由で本を読み、あるいは音楽を聞いたりしていた人びとが、ケータイでメールやチャットをしたり、ネット・サーフィンをしたり、あるいはゲームをしたりすること、総じてネット環境上の活動にシフトした。本や雑誌、音楽パッケージが売れなくなるのはむしろ当然だ。
しかし一方で、それでもなお本を読み、雑誌を追いかけ、音楽パッケージを買って聴くことを続けている人間は「ホンモノ」ということになる。つまり、本を読むこと、紙に印刷された媒体に触れ、味わうことや録音で音楽を聴くことが、好きで好きでたまらず、それなしには一日たりとも過ごせない、そういう人間である。こういう人たちは、たとえ天地がひっくりかえっても、生きているかぎりは読書やリスニングをやめない。そして、究極において世の中を動かすのは、この人びとだ。
だから出版界をリセットないし再起動するためには、この人びととのつながりを密にし、この人びとに訴えかけ、この人びとの生活をより豊かになるよう援助するしかない。そしてこの人びとの数が少しでも増えるよう、働きかけるしかない。
これまではいわば「浮動票」をあてにし、広告宣伝によって十把一絡げに、底引き網でさらうことが「商売」の基本とされていた。
ごく少数の、頑固なファンを相手にする時、その手法は使えない。一人ひとりの志向や嗜好を把握し、それに応じてふさわしいアイテムを適確に適切なタイミングで提供することが必要になる。今のところそれに最も成功しているのはアマゾンだ。アマゾンの成功は、「その商品を買ったのなら、こちらはいかがですか」という、あの勧誘の手法にある。そのアルゴリズムを開発したソフトハウスを早い段階で買収したことが重要、と説いていたのは、たしか林信行氏だったか。
しかしアマゾンの欠点は、そのお薦めをしている相手の顔が読者=ユーザーには見えないことだ。人は生身の人間に相手をしてもらいたいものだ。今はまだ。それに、お得意の相手をするにしても、コンピュータ・ソフトは生身の人間の敵では到底無い。今はまだ。
リセットできたとして、その後の出版界にも書店というインターフェイスは必要だろう。あるいは今以上に書店は必要性が高まるかもしれない。
現在の委託再販制では、インターフェイスとしての書店でのそうした対応は不可能だ。従来、それに近いことができたのは、ぼくの知る範囲では、小田氏の「出版人に聞く」シリーズの一冊『「今泉棚」とリブロの時代』の主人公今泉さんがいた頃の池袋リブロと茶木則雄が仕切っていた飯田橋のブックス深夜プラス1ぐらいだ。その二つとも、結局流通制度との摩擦に疲弊し、退場していった。いや、ありていに言おう、既得権益層、つまり再販制にしがみついている連中に潰されたのだ。
『今泉棚とリブロの時代』については以前、ブログに書いた。
一方の電子書籍の件についても、既得権益層が排除されないかぎり、普及は望めない。原発ムラと同じ構図だし、音楽産業ムラも同様であることは今さら言うまでもなかろう。むろん既得権益はいずれ消滅する。問題は現在既得権益を持っている連中だけに都合の良い時機、形で消滅するか、それとも、既得権益のために損害をこうむっている人びと、つまり一般の読者、リスナー、ユーザーにも都合の良い時機と形で次の段階へ遷移するか、だ。(ゆ)
小田光雄氏の「出版状況クロニクル」は目配りの広さと細かさ、分析の適確さに敬服して愛読、ということばがこのテクストの場合適切かどうかは議論のあるところではあるが、ともかくずっと追いかけている。
とはいえ、時には首をかしげるところも無きにしもあらずなのはまた当然で、先日ブログに掲載された今年の11月の分では、あれれ、とずっこけてしまった。この一節。
出版社・取次・書店という近代出版流通システムがスタートしたのは1890年代であり、その頃全国各地の書店が商店街を中心にして立ちあがり、1世紀の長い時間をかけて、13,000に及ぶ出版物販売インフラが、店売と外商のバランスの上に構築され、それは1980年代まではかろうじて維持されてきた。
ところがそれが90年代から解体され始めたことを、この表はまざまざと示している。90年代に何が起きたかを考えてみれば、郊外複合大型店の進出、ブックオフの出現、公共図書館の増加と進化などをたちどころに挙げられるだろう。それらの新たな勢力に対して、とりわけ中小の書店は敗退していかざるをえなかったのである。そして今世紀に入って、それは加速し、ついに5,000店を割る事態を迎えてしまった。
1990年代に起きたこととして、上にあげられていることは瑣末とまではいえないだろうが、もっと遥かに重大なことがある。つまり、インターネットの普及だ。
1995年の Windows 95 によるインターネット・ブーム爆発。
そして
1999年の iモードによる携帯電話のインターネット・サーヴィス開始。
この二つに象徴されるできごとによって、わが国住民の行動パターンは大きく変わった。その変化の影響がひとり出版界のみに限られることではないことはもちろんだ。というより、それが引き起こした巨大な変化は社会全体を根柢から揺さぶっており、出版界のこうむったものなどは、比較的小さな部分でしかない、というべきかもしれない。この変化はその後、収束するどころか、むしろ加速度を増しながら拡大しつづけているし、当分の間、収束に向かう気配はさらさら見えない。
インターネットの普及が出版界におよぼした影響をかたちづくる要素は主に二つ考えられる。
一つは人びとがインターネットに関って過ごす時間が格段に増えたこと。その結果、本や雑誌など、紙に印刷された媒体を相手に過ごす時間が大幅に減少する。
もう一つは携帯電話使用料、接続料が高額になり、そちらに可処分所得が注ぎこまれるようになったこと。その結果、それ以外の「エンタテインメント」に費される金額が減少する。いわゆる「ケータイ不況」だ。
どちらも出版界だけではなく、音楽業界も含めて、パッケージ販売に頼っていた産業が衰頽する契機となる。
これに比べれば「郊外複合大型店の進出、ブックオフの出現、公共図書館の増加と進化」などは、いわば出版界ローカルでのできごとであり、インターネットによる変化によって崩された土台をさらに揺さぶる程度の効果しかないのではないか。このあたり、意識して視野を出版界に絞っているのか。
もちろんそこには再販制という出版界独自の脆弱性があって、事態をさらに悪化させていることは小田氏の言うとおりだろう。
しかし、インターネットによる変化を視野に入れずに出版界全体の再構築、というよりリセットないし再起動は、たとえできたとしても弥縫策にすぎまい。
そのインターネットの普及によって明らかになったことは、実は本を読むことが心底好きで、本を読まずには生きている甲斐がないと感じている人間の数はごく少数である、という事実だ。
同じことは音楽にも言える。
従来、出版や音楽産業を支えてきたものは、消去法によって読書や録音音楽鑑賞を行なっていた圧倒的多数の人びとだった。ある曲や本や雑誌が、たまたま「流行」しているから。「みんな」がそれを読む、あるいは聞くことをしていて、それを読んだり聞いたりしないと「話についていけない」から。本を読んだり音楽を聞いたりすることがカッコよく見えるだろうから。通勤電車に乗っている間、他にできることがないから。
こうした理由で本を読み、あるいは音楽を聞いたりしていた人びとが、ケータイでメールやチャットをしたり、ネット・サーフィンをしたり、あるいはゲームをしたりすること、総じてネット環境上の活動にシフトした。本や雑誌、音楽パッケージが売れなくなるのはむしろ当然だ。
しかし一方で、それでもなお本を読み、雑誌を追いかけ、音楽パッケージを買って聴くことを続けている人間は「ホンモノ」ということになる。つまり、本を読むこと、紙に印刷された媒体に触れ、味わうことや録音で音楽を聴くことが、好きで好きでたまらず、それなしには一日たりとも過ごせない、そういう人間である。こういう人たちは、たとえ天地がひっくりかえっても、生きているかぎりは読書やリスニングをやめない。そして、究極において世の中を動かすのは、この人びとだ。
だから出版界をリセットないし再起動するためには、この人びととのつながりを密にし、この人びとに訴えかけ、この人びとの生活をより豊かになるよう援助するしかない。そしてこの人びとの数が少しでも増えるよう、働きかけるしかない。
これまではいわば「浮動票」をあてにし、広告宣伝によって十把一絡げに、底引き網でさらうことが「商売」の基本とされていた。
ごく少数の、頑固なファンを相手にする時、その手法は使えない。一人ひとりの志向や嗜好を把握し、それに応じてふさわしいアイテムを適確に適切なタイミングで提供することが必要になる。今のところそれに最も成功しているのはアマゾンだ。アマゾンの成功は、「その商品を買ったのなら、こちらはいかがですか」という、あの勧誘の手法にある。そのアルゴリズムを開発したソフトハウスを早い段階で買収したことが重要、と説いていたのは、たしか林信行氏だったか。
しかしアマゾンの欠点は、そのお薦めをしている相手の顔が読者=ユーザーには見えないことだ。人は生身の人間に相手をしてもらいたいものだ。今はまだ。それに、お得意の相手をするにしても、コンピュータ・ソフトは生身の人間の敵では到底無い。今はまだ。
リセットできたとして、その後の出版界にも書店というインターフェイスは必要だろう。あるいは今以上に書店は必要性が高まるかもしれない。
現在の委託再販制では、インターフェイスとしての書店でのそうした対応は不可能だ。従来、それに近いことができたのは、ぼくの知る範囲では、小田氏の「出版人に聞く」シリーズの一冊『「今泉棚」とリブロの時代』の主人公今泉さんがいた頃の池袋リブロと茶木則雄が仕切っていた飯田橋のブックス深夜プラス1ぐらいだ。その二つとも、結局流通制度との摩擦に疲弊し、退場していった。いや、ありていに言おう、既得権益層、つまり再販制にしがみついている連中に潰されたのだ。
『今泉棚とリブロの時代』については以前、ブログに書いた。
一方の電子書籍の件についても、既得権益層が排除されないかぎり、普及は望めない。原発ムラと同じ構図だし、音楽産業ムラも同様であることは今さら言うまでもなかろう。むろん既得権益はいずれ消滅する。問題は現在既得権益を持っている連中だけに都合の良い時機、形で消滅するか、それとも、既得権益のために損害をこうむっている人びと、つまり一般の読者、リスナー、ユーザーにも都合の良い時機と形で次の段階へ遷移するか、だ。(ゆ)
コメント
コメント一覧 (2)
最後の、電子書籍の件について全く同感です。
最近、ジョブスの伝記本について頭から湯気吹きました。(URL参照)
外付けHD、機嫌直してくれましたか?
調子が良いときは良いんですが、点滴直後はどうにもならんです。とはいえ、じっとしているとますます落ちこむので、なるべく動きまわるようにしてます。
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> 最後の、電子書籍の件について全く同感です。
> 最近、ジョブスの伝記本について頭から湯気吹きました。(URL参照)
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> 外付けHD、機嫌直してくれましたか?
昨日、Disk Warrior を買ってきて今朝試してみましたが、ディレクトリ再構築の途中でDW自身が応答しなくなります。アップデートしてみてうまくいくかどうか。買って、半年も経たずにこのザマではまったく困ったもんです。バックアップは一応あるけど、ちょと古いので、最近入れたものの復帰が手間がかかりそう。