執筆はリズ・ドハティ Liz Doherty**。すばらしいフィドラーで、音楽学の博士号も持つ。University of Ulster で講師。Companion 中に独立項目あり。
    
    ホーンパイプはまず楽器名であって、十三世紀まで遡るダブル・リード楽器。スコットランドとウェールズに史料があるそうな。ウェールズでは pighorn と呼ばれた。
    
    ダンスとそのための音楽としては18世紀半ば、おそらくはイングランドから入る。『ポパイ』の主題歌として、おそらく世界一有名なホーンパイプ〈Sailor's hornpipe〉に象徴されるように、船乗りが関係していたらしい。
    
    航海中の娯楽としてダンス伴奏のためにフィドラーないしフィドルの弾ける船員がたいていの船には乗っていたそうな。ミュージシャンを乗せるのがいつ頃から始まったかは知らないが(乞御教示。トロイアに押し寄せたギリシャの軍船にミュージシャンは乗っていたっけ?)、船と音楽の結びつきは強い。客船や商船はもちろん、漁船(特に捕鯨のような遠洋漁業の船)、軍艦にだってミュージシャンは乗っていた(ペリーの「黒船」にも専業の楽隊が乗っていた)。大西洋航路はひと頃、アイリッシュ・ミュージシャンにとって稼ぎどころだった。
    
    ダンスとしては当初はソロ・ダンスで、ダンス・マスターのショー・ピースとして踊られた。床を強く叩いてアクセントを強調するので、男性専用とされたそうな。いまでは、セット・ダンスでも踊られる。
    
    ここでは触れられていないが、ホーンパイプは一拍めと三拍めを強調するビートだけでなく、メロディにも特徴があることは、茂木健が以前指摘している。メロディも「跳ねる」、つまり高低によく跳ぶのが多い。リールをゆっくり演奏するとホーンパイプになるとも言われるけれど、リールではメロディの高低への変化は連続的なことが多いから、どんなリールでもゆっくりにしてアクセントをつければホーンパイプになるとはかぎらない。
    
    このメロディの特徴から、ホーンパイプの演奏に最も適しているのはホイッスルやパイプと思う。とりわけホイッスルで、ぼくが最初にホーンパイプの面白さを教えられたのも、ヴィン・ガーバット Vin Garbutt のホイッスルだった。ガーバットは北イングランド出身のシンガー、ギタリスト、ソングライターだが、母親がアイルランド生まれで、地元のアイリッシュ・コミュニティに入り浸り、そこでホイッスルを覚え、鍛えられた。ここの記事でもホーンパイプの現代の作り手として、ニューカッスルの James Hill という人が特記されているから、北イングランドではホーンパイプが愛好されているのだろう。
    
    それから、最近のアイリッシュ・ミュージックのファンはあまり聴かないかもしれないが、フェアポート・コンヴェンションの《FULL HOUSE》収録〈Flatback capers〉では、〈Carolan's Concerto〉をみごとなホーンパイプとして演奏している。ちなみにメドレーの個々の曲は

Miss Susan Cooper
The Friar's Britches/Frieze Breeches
The Sport Of The Chase
Carolan's Concerto

 以下のビデオは当時のものだが、〈The Friar's Britches〉が抜けている。なお、ここでは普断はベースのペッグがスウォブリックとともにマンドリンで、ベースはニコルが弾いている。念のため。(ゆ)