＊頭を剃る。もっと暖かいうちに剃りたかったが、頭からできものが消えるまで待っていたら寒くなってしまった。剃るとじっとしていても、空気が少し動くだけですうっと冷える。老化の原因のひとつは脳の冷却機能が衰えて、脳が熱くなるためだ、という話がある。それが当たっているのなら、剃ると頭の冷却には役立つだろうから、老化も少しは遅くなるか。坊さんに長生きが多いのはそのせいか。
それにしてもきれいに剃ってもらっても、翌日にはもうザラザラしている。いつもつるつるの坊さんたちは毎日剃刀をあてねばなるまい。それとも電動髭剃りでも使っているのか。
＊マーティン・ヘイズ＆デニス・カヒル、トッパンホール公演。田辺冽山さんの尺八が序奏。とことん土着のものにしか、とことん国際的なものにはなれない。というのはマーティン＆デニスのデュオがまさに体現していることだが、田辺さんの尺八がそのことをひときわ強調する。
国際的というよりは、日常の次元からは一段上がった世界、というべきか。音楽の究極の目的は、このもう一つのレベルに人の心を運びあげることだろう。そこで人は浄化されて生まれかわる。そうしてまた日々の暮らしをあらためて生きはじめることができる。
この二人の音楽にはことにその性格が強い。尺八で、その作用がさらに増幅される。１曲だけの演奏ではあるが、その響きは二人の音楽に共鳴しつづけていた。
この音楽が命のサポートであることを証明するように、生き延びた仲間の顔を見てうれしくなる。生きるとはつまるところ生きのこる、生きのびる、サバイバルすることであると、これまたあらためて思う。
トッパンホールは初めて入ったが、音が良いのはもちろんだけど、内部空間の造形がすばらしく、コージィでありながら、広々とした空間がそれは快い。
＊チーフテンズ来日、「本体」はあまり興味はないが、同行するアリス・マコーマックは生で聴きたい。ソロ・ファーストの《AN IOMAL (The Edge)》は強烈だった。ガール（スコティッシュ・ゲール）語のシンガーでは、カパーケリーのカレン・マシスンが来ているけど、ガール語ではうたわなかったと記憶する。買いのがしていたトリーナ・マーシャルとの共演盤など、予習用に注文。
An Iomall
レッド&ゴールド
An Iomall
レッド&ゴールド
手元の録音をさらったら６枚ほど出てきた。ソロ・ファーストと続くコリーナ・ヘワットとメアリ・マクマスターとの Shine の録音で名前を覚えたのだが、エイダン・オルークの Sunhoney や、サヴルナ・スティーヴンソンの近作《PERSIAN KNIGHT CELTIC DAWN》にも入っている。
November
November
公式サイトを見ると、俳優としても活躍していたり、かなり幅の広い人だ。チーフテンズとの縁は、ムーヴィング・ハーツの再編ライヴに参加したことがきっかけらしい。
＊Focusrite の USB インターフェースは安くて試してみたいが、CEntrance の HiFi-M8 を予約してしまったので、今はひたすら我慢。もっともあちらが来れば、Focusrite は要らないかも。オプションはさんざん悩んだが、結局オリジナルのコンボXLRと iOSデバイス端子。お年玉になるか。クリスマス・プレゼントになるか。
＊TEAC の DSD ファイル再生ハードとソフトの組合せは Mac でも DoP による DSD 再生ができるとうたっている。ヘッドフォン祭でコルグのブースにいた、開発担当の方は、Mac では Windows の ASIO に相当するものがないので、ドライバを独自開発せねばならず、対応には時間がかかると言っていた。すると TEAC は独自になにやら仕掛をしたのだろうか。
＊図書館から借りている本が溜まってしまった。『プラトーノフ作品集』は折良く今月復刊されるから買うべえ。にしても、ついつい宮��市定に手が伸びる。この人の手にかかると『論語』すら面白く読めてしまう。
＊伝聴研の新しい DenAMP/HP（112dB版）は、スイッチを入れたままにしておくと、えらく音が良くなる。オンにした直後とはまるで別もの。ソリッドステートでも暖まると音が良くなるのか。ちなみにチップは Burr-Brown の由。192KHz までだから PCM1794 かな。
＊『アルテス』３号の吉田秀和追悼特集の片山杜秀、岡田暁生両氏の対談を読んで、『ＣＤジャーナル』今年７月号の「片山杜秀の日々悶絶：吉田秀和の大予言」を思い出した。100歳近くまで音楽について書きつづけたその原動力を、吉田秀和の「薄気味の悪い話」という1974年のエッセイに見る。つまりは、自分の趣味、クラシック音楽が世間から見捨てられないようにするため。
そうなのだ。クラシックにかぎらず、音楽は、文化は簡単に切り捨てられる。ヘッドフォンだっておんなじだ。お隣りが攻めてきたら、竹槍でお国を守らなきゃならない。その時、カスタムIEMなんて耳にはめてたら命令も聞こえないじゃないか。ヘッドフォンやイヤフォンはむしりとられる。抵抗すれば、テロリスト呼ばわりされる。しまいには、イヤフォンやヘッドフォンをつけてるだけで非国民にされちまう。それならまだマシで、「お上」の指定するヤフォンを付けるのが義務になることもありうる。もちろんそのイヤフォンから出てくるのは、「お上」のプロパガンダと号令だけだ。
そうならないためには、それなりの手当てをしなければならない。ただ、わーいわーいとはしゃいでいては、いざというとき、足下をすくわれる。
ということを身をもって示した、という点で、まず吉田秀和は読まれるべきだろう。ちょうどこの『アルテス』の追悼特集には全著書の解題つきリストがある。いつもと逆に、一番新しいものから遡ってみるかな。うまい具合に最新のは回顧アンソロジーらしいし。
＊同じく『アルテス』３号の鈴木慶一さんのインタヴューがめちゃ面白い。なるほど、ああいう音で録音したい、という欲望というか、この場合も「飢え」がすべての根源とは納得がゆく。音楽をやりたいよりも録音したい、という飢餓感。
飢餓感は人を動かす。片山杜秀氏も、音楽について書きはじめた動機として「飢餓感」を揚げている。あたしも事情はまったく同じで、音楽をめぐって文章を綴りだしたのも、あまりにも情報がなかったためだ。だから近頃はアイリッシュ・ミュージックについてはあまり書きたいとは思わない。あたしなどよりよく書けて、書くことも多い人はたくさんいる。別に安心しているわけではなく、また誰も書かなくなって、その時まだ書けるだけの知力体力が残っていれば、腰を上げる覚悟はある。今はアイリッシュよりも、スコティッシュやイングリッシュや、他の地域やテーマについて書きたいことがある。
それにしても、では、すべてが満たされたとき、人を動かすものは何だろう。（ゆ）
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