再来週 04/21(日)午後、Winds Cafe でやる予定の「もう一つのチーフテンズ」の予告篇です。

04/21(日) 午後1時半開場
東京・西荻窪 TORIA Gallery トリアギャラリー
入場無料(投げ銭方式) 差し入れ大歓迎!(特にお酒や食べ物)

*出入り自由ですが、できるだけ開演時刻に遅れないようご来場ください。

13:30 開場
14:00 開演
17:00 パーティー+オークション


 ぼくがチーフテンズの真価を認識したきっかけとなった《LIVE!》はオリジナルLPリリースから20年後の1996年に国内盤CDが出ています。下に掲げるのは、そのために書いたライナーです。

 その後判明した明らかな間違いと意味のとりにくいところを訂正し、数字の表記を漢数字からアラビア数字に変更し、画面上で見やすいように改行を増やしました。また若干の情報も追加しました。その他は当時のままです。


 今年活動歴35年目を迎えたチーフテンズは,相変わらず元気・多忙なようです。新作 FILM CUTS をリリースしたばかりですが,昨年の THE LONG BLACK VEIL に続くオール・スター・アルバムを企画中で,今度はボブ・ディランやジョニ・ミッチェルも加わるかもしれないとか。さらにはディズニー・アニメのサントラも担当。パディ・モローニは「大飢饉交響曲」なる作品を共作し,エミルー・ハリスと共演,はてはガリシア音楽の探求をリンダ・ロンシュタット,ロス・ロボスらも加えて企画中と,こうなるとちょっとわけがわかりません。アメリカではABCTVのドラマでアイリッシュ・パブのシーンで「出演」したと伝えれらます。6月のロンドンでのアイリッシュ・ミュージック・フェスティヴァルでは,クラナド,クリスティ・ムーア,メアリ・ブラック,ポール・ブレディ,シネィド・ローハン,メアリ・コクラン,ルカ・ブルーム,アルタン,エリノア・シャンリーなど超豪華メンバーとともに出演しました。

 この『ライヴ!』は1977年,7枚目のアルバムとして発表されました。ただし,チーフテンズのアルバムはあまりに多すぎて,誰にも全貌が掴めず,初期においても76年以降は錯綜してきます。本作までのもので一応わかっているものを挙げておきます。

    1: 1963
    2: 1969
    3: 1971
    4: 1974
    5: 1975
    BONAPART'S RETREAT (6): 1976

 始めの6枚は番号がタイトルです。76年にはもう一枚 WOMEN OF IRELAND があるという資料もあります。が,正体は不明。ちなみに本作の後はやはり数字つきで,

    7: 1977
    8: 1978

 となりますが,このほかにカナダ盤オンリーのサントラがあるようで,これも正体は不明(追記:カナダ映画 THE GREY FOX〔1982, 1986年に日本で公開されている模様〕のサントラと、チーフテンズ公式サイトのディスコグラフィにあり)。
http://www.imdb.com/title/tt0085622/

 一方ライヴ盤としては、本作の他にその後 AN IRISH EVENING: Live at the Grand Opera House, Belfast; 1992 があります(追記:さらにその後 DOWN THE OLD PLANK ROAD; 2002 とその続篇; 2003 あり)。

 本作が録音された時期はチーフテンズが現在に続く飛躍の基礎を固めた時期に当たります。まず『5』でデレク・ベルが正式参加。以後メンバー・チェンジはあっても楽器編成に変わりはありません。もうひとつは同じ75年,スタンリー・キュブリックの映画『バリー・リンドン』にチーフテンズの音楽(『4』収録の曲)が使われたこと。映画関係のトラックを集めたものが2枚もあるように,以後,映画のための音楽はチーフテンズの仕事の重要な柱になります。

 当時すでにプランクシティ〜ボシィ・バンドによるアイルランド伝統音楽の「革命」が進行する一方で,チーフテンズがワールドワイドな活動にまさに乗りだそうとしていたわけで,70年代半ばというこの時期はアイルランド音楽にとってひとつの転回点だったのでしょう。

 そうした意気軒昂とした勢いが,このライヴ・アルバムにも聞取れると思います。それと同時に,ここにはいわば素顔のチーフテンズのみずみずしい演奏が聴かれます。最近のチーフテンズはアルバムにしてもライヴにしても,自分たち自身すばらしいバンドであるにもかかわらず,むしろ豪華な,あるいはユニークなゲストをいわば「売り」にしているようにみえる。同じことを30年も続けてくれば,さすがに飽きてきて新たな刺激をもとめる,というと少々意地悪かもしれません。ただ,ゲストなど誰もいないチーフテンズだけのこのライヴでの演奏を聴くと,ポピュラー・ミュージックとしては世界でも最長寿のうちに数えられるこのバンドの実力の高さに,改めて目を開かされる想いがします。

 チーフテンズの手法のベースは伝統的なユニゾンですが,展開の仕方はクラシック的です。オーケストラの各パートがメロディを受け渡すように担当楽器を変えてメロディを繰返しますし,フィドルの主メロにパイプが高音部のハーモニーをつけたりします。さらにプランクシティ〜ボシィ・バンド・スタイルとの決定的違いはリズムを強調しません。つまり「突っ走らない」のです。

 選曲も,いくらでも踊れるダンス・チューンはむしろ少なく,スロー・エア,キャロラン・チューン,ソング・エアなどを好んでとりあげます。ダンス・チューンにしてもリールばかりジグばかりではなく,ポルカあり,ホーンパイプあり,マーチあり,と曲種も多様です。

 こうした工夫は,ひとことで言えばアイルランドの伝統音楽をいかに「魅力的」に聞かせるかというテーマに貫かれているといえるでしょう。その結果,チーフテンズの音楽は「クラシックとフォークの中間」(茂木健)というユニークな性格を現し,アイルランド伝統音楽を「世界音楽」のひとつに押しあげる見事な成果を生みました。

 収録曲について。

01. The Morning Dew
 有名なリールで,およそケルト音楽が演奏されているところであればどこでも非常に人気があります。音程を変えたバゥロンの対話が特徴的で,チーフテンズのアレンジの傑作の一つ。アルバム『4』収録。こちらではケヴィン・コネフはまだおらず,代わりにパダー・マーシアが叩いています。

02. George Brabazon
 キャロランも曲を捧げたメイヨ州の貴族の名を冠した曲。『2』に収録のキャロラン・チューン "Planxty George Brabazon" とは別の曲。

03. Kerry Slides
 「スライド」はケリー州,特にコーク州との州境シュリーヴ・ルークラ地方に色濃く残るスタイルで,ジグの一種。『5』に収録されていますが,ライヴの方が遥かにスピードが速く,エネルギッシュな演奏。

04. Carrickfergus
 定番中の定番であるアイリッシュ・ソング。チーフテンズ自身何度もとりあげていますが,ヴァン・モリスンとの共演盤『アイリッシュ・ハートビート』のヴァージョンは出色。ここでは無論インストで,『4』に収録のスタジオ版では全員のユニゾンが入ります。

05. Carolan's Concerto
 200曲を越えるキャロランの作品中最も有名な曲。フェアポート・コンヴェンションもとりあげました。スタジオ版は『3』に収録ですが,ライヴのほうがスピードが速く,ハープをフィーチュアしてかなりアレンジを変えています。

06. The Foxhunt
 01 と並んでチーフテンズならではの芸を見せるハイライトの一つ。ここではいくつかのチューンを組合わせ,狐狩りの様子を音で表現しています。『2』に収められた演奏の再現で,そちらのライナーによれば4つの曲が使われている由。こういう遊びはチーフテンズが初めてではなく,ドニゴールのフィドラー Micky Doherty のものがありますが,モローニはイルン・パイプの師匠である Leo Rowsome をお手本にしたようです。

07. Round The House; Mind The Dresser
 2曲のスライド。『6』ではスタジオに実際にダンサーを招いて録音したそうです。このライヴではまだ最近のようにダンサーをともなってはいませんが,モローニのアナウンスによれば最前列の客が踊った模様。

08. Solos=
a. Caitlin Triall
b. For The Sakes Of Old Decency
c. Carolan's Farewell To Music
d. Banish Misfortune
e. The Tarbolton
f. The Pinch Of Snuff
g. The Star Of Munster
h. The Flogging Reel
 これ以降は1曲を除きこれ以前のスタジオ盤に収録はありません。
例外は8dで,これは『2』にほぼ同じアレンジで収録されています。

8cはキャロランが死の床で作曲した最後の作品と言われる曲。最近のデレク・ベルはステージのソロではラグタイム・ピアノしか弾きませんが,この頃はちゃんとハープを弾いています。なおソロの新作 THE MYSTIC HARP が出ています。

8d は人気の高いダブル・ジグ。

ソロ・プレーヤーとしてはチーフテンズ随一なのが 8e のショーン・キーンで,鮮やかなリールのメドレー。

パディ・モローニのイルン・パイプはレギュレイターをほとんど全く使いません。アンサンブルの中なのでかえって邪魔になるとの判断でしょう。もともとこのパイプは一台でダンスの伴奏ができるように考案されたといわれます。

09. Limerick's Lamentation
 モローニは「別名『マールブラ』というジャコバイト・ソング」と紹介しています。「ジャコバイト」とはブリテンのスチュアート朝復興をめざす人びとの呼称。歴史上では18世紀にスチュアート王家の後継者をかついで2度の大反乱を起こしたスコットランドのジャコバイトが有名ですが,ここでは1688年の名誉革命でブリテンを追われたジェームズ2世をフランスから迎え,ウィリアム1世の軍と戦ったアイルランドのカトリックたちをさします。ジェームズが逃げた後も抵抗を続けたアイルランドのジャコバイトが最後に降伏するのが1691年のリマリック条約で,この時のブリテン側の司令官が初代マールブラ公爵。第2次大戦中英国の首相となったチャーチルの祖先です。カトリック軍は条約によってアイルランドを離れ,以後祖国にもどることはありませんでした。「ワイルド・ギース」のあだ名で有名となる傭兵部隊がこれです。この歌の歌詞は残念ながら定かではありませんが,この敗北を悼み,国を離れた兵士たちに思いを馳せるものなのでしょう。

10. O'Neill's March
 アルスターのクラン,オニール一族のマーチの由。オ・リアダが初めてとりあげ,チーフテンズによって有名になりました。一説にはスコットランドの曲ともいわれます。

11.Ril Mhor
 タイトルはゲーリックで "The big (or grand) reel" の意味です。

 今年7月の全米ツアーでのゲストはカナダはケープ・ブレトン出身の若手フィドラー Ashley MacIsaac。先頃先鋭的なアルバムでメジャー・デビューを果たしたばりばりの新人。パディ・モローニの目配りの良さ,有能な新人への嗅覚はたいしたものです。来年にはまた来日公演も企画されているようですが,今度はどんなゲストを連れてきてくれるかが楽しみです。筆者としてはアシュリー君だと嬉しい。とはいえ,もう一度,このライヴのような有無を言わさぬ実力で勝負するチーフテンズを見たい気もします。

1996年8月

Chieftains Live!
Chieftains Live!