ヘッドフォン祭に比べるとポタ研は入場者数も少なめで、その分、ゆったりしています。お客さんがブースで過ごされる時間も長めで、じっくり試聴されたり、あれこれおしゃべりしたり。だいたいお客さんの方がよく知っておられたり、耳も良かったりするので、勉強にもなります。われわれのブースは、本来の部屋の外側の、ロビーにあたるところの端っこで、すぐ脇にはテーブルと椅子があるので、一回りされて休憩される方がいれば、知り合いの溜まり場にもなり、そこでの会話なども耳に入ります。それもまた愉しい。

 今回、最大の驚きないし発見は最後の最後にやってきました。もう撤収にかかっていたところに、このテーブルに集まっていた方々の一人からたまたま手渡されたのがティアックのふる〜いヘッドフォン。見憶えがあるなあ、と思ったらやはりパイオニア製。その昔、もう40年前、初めて手に入れたのがパイオニアのヘッドフォンだったのであります。当時、国産初のオープン・タイプという触れこみだったと記憶します。それよりはハウジングがちょっと大きめで、パッドが引っこんでいる、というか、ハウジングと同じ面。ぼくが使っていたのは、やわらかいパッドが膨らんでいたはず。

 どんな音かと聴いてみれば、これがびっくり、すばらしい音ではないですか。芯の太い、リアリティたっぷりの音が朗々と鳴ってます。これに比べると、今の最新の機器の音は、解像度や音場の点では勝るかもしれませんが、音ではなく音楽の生々しさではちょっと太刀打ちできない。そう、かのHD414のような、耳許で鳴っているというよりも、その外の空間から音がやってくる感じ。こりゃあ、ええ。こりゃあ、ええですよ。こういう音で音楽を聴きたい。確かに、こういうのを、今、あらためて作ってほしい。貸してくれた方も、すみません、お名前も確かめず、失礼しましたが、これだけたくさんのメーカーがあるんだから、どこか一社くらい、こういうのを作ってもらいたい、とおっしゃるのには、一も二もなく、賛成しました。

 構造としては、中に小さなコーン型スピーカーが入っている形で、当時としてはそうする他無かったわけですが、それが幸いしてるんでしょう。今の技術なら、もっと簡単に、安価に、同じ音が出せるのではないですか。もっとも、イヤフォンでは、どう逆立ちしても、絶対にこういう音は出せないでしょう。これはヘッドフォン、それもいわゆるフルサイズのヘッドフォンにのみ可能な世界ではないですか。

 今回もう一つ収獲、というか、「知ってしまった不幸」を味わうことになったのもヘッドフォンです。お隣のムジカアコースティックさんのブースの片隅にちょこんと置いてあった、真っ黒い、愛想もなにもないヘッドフォン。ひどく鳴らしにくくて、そんじょそこらのアンプではダメ。マス工房の model 385 くらいを持ってこなければなりません。ほんのわずか、ほとんど1、2分しか聴けなかったのですが、それでもう十分。強烈でありました。

 これが、思えば、その40年前のパイオニア製ティアックのヘッドフォンの鳴り方にかなり近いのではないかと思われます。これであります。

 フォステクスの T50RP を徹底的にモディファイしたものとして Head-Fi 筋では有名な、MrSpeaker の Mad Dog です。というのは後で検索してわかったので、その時は、これもどこかで見たよなあ、という程度。ディミトリさんも忙しくて、説明しかけたところで呼ばれてしまい、こちらも自分のブースが忙しくなってそれっきり。しかし、音は忘れられるものではありませんでした。サイトを見ると、をを、4pin XLR 付きバランス・モデルが出てるじゃないですか。わがバランスド・スペシャルセット1の音松バランス・アンプにぴったりだし、もうすぐ来るはずの HiFi-M8 でも使えるぞ。

 というわけで、金策に奔走中。

 それと、今回はお客さんの PortaTube 率が高かったです。もともと Jaben のファンの方がいらしてくださった、ということかもしれません。なんでもヨドバシあたりでも、Jaben の名前はわからなくても、PortaTube は通じるそうです。ありがたいことであります。これについて熱く語りあえたのも楽しかった。

 ポータブルの真空管アンプとして初めての実用的なモデルが PortaTube で、その後、続々と出て、現在の盛況となる魁になりました。その上で、これを凌ぐモデルは未だに無い、とぼくは思います。内輪贔屓と言われてもかまいません。前にウィルソンおやじとも PortaTube II ができないかと話をしましたが、どこを変えるんだ、と問いかえされて、答えられませんでした。ゲイン切替のスイッチを付ける、くらいでしょうか。それが可能としてですが。

 PortaTube+ も良いのですが、この頃またオリジナルを使うことが増えてます。言葉にはなかなかしにくいのですが、オリジナルには強烈な個性があって、そこが捨てがたい、というより、他には無い魅力です。フラットなんだけど、粘りがある、でしょうか。濃密な音、でしょうか。個々の音の粒立ちが良く、かつ芯が強く、そして音楽全体が活きてくる。よく真空管の音には「ぬくもり」があるとか言われますが、それよりもきりっとエッジの立った、みずみずしい音。それと、余裕のパワー。単にパワーがある、というより、お客さんの一人もおっしゃってましたが、余裕感ですね。悠々と鳴らしておいて、まだまだフルパワーの半分も出してないよと涼しい顔をしている感じがなんとも頼もしい。

 こいつを iPod などと一緒に入れて腰に吊るすすてきなケースをお持ちの方がいて、訊いたらペットボトルを入れるケースの由。ホームセンターなどで売ってるそうですが、ゆったりして、あのでかい PortaTube を入れても余裕があり、しかも蓋がないので、放熱も十分だし、すっと取り出せる。こういうのを見るのもポタ研の功徳でしょう。

 PortaTube で唯一困るのが、バランス化が不可能なこと。とんでもないサイズになって、もはやポータブルとは到底言えなくなる由。とはいえ、Analog Squared Paper のアンプが売れているのですから、ひょっとするとできるのではないか、と思ったりもします。

 GoVibe では、Jaben がこのブランドを買って最初に出した Petite や、最近の Vest のような傑作もありますが、PortaTube と PT+ をもって代表とすることに異存はありません。というより、これがあるぞ、と胸を張って言えるものではあります。

 新しいバランス入出力付きの Maverick(仮称)も、PortaTube とならぶ看板製品になると期待してます。

 こういうことは本来、Jaben の Facebook で書くべきでしょうが、PortaTube に関しては、商売抜きで惚れこんでいるところもあるので、ご勘弁ください。

 ポタ研にも家族連れで来られている方がいたのにも、ちょっとびっくりしました。奥さんは乳飲み子をだっこし、旦那さんは2、3歳とみえるお子さんを抱いて、片手にちゃんとポータブルアンプを握ってました。お子さんたちがどう思ったかはさだかではありませんが、ご夫婦はいかにも楽しそうでした。

 冷房が少々きつかったせいか、終わったらどっと疲れて、翌日も終日使いものにならず。まだ、しゃんとしません。まあ、そうそうシャンとするよりも、のらりくらりやっていく年ではありますね。そうこうしているうちに、月末にはシンガポールに飛びます。The Mook Headphone Festival に行ってきます。海外に出るのももう10数年ぶりだし、東南アジアは初めてなので、楽しみでもあり、不安でもあり。(ゆ)