いやあ、堪能しました。楽曲、演奏、録音、そしてマスタリング、四拍子そろったトラックを集められたのは、講師をつとめられた須山さん、法月さん、そして原田さんのご尽力のおかげ。「いーぐる」での音楽体験としては、まさに出色のものとなりました。あらためて、三氏と、そして、突拍子もないお願いを快諾されたマスター後藤さんに、あらためて深く御礼申し上げます。

 アニソン、というよりはぼくなどは「テレビまんが主題歌」と呼ぶ方がなじみがありますが、1963年の『鉄椀アトム』から、1998年『カウボーイビバップ』の〈Tank!〉まで、31曲という分量ながら、まったく飽きることなく、どれも楽しめたのは、それだけヴァラエティに富み、また個々の楽曲の質が高かったのでしょう。あらためてアニソン怖るべし、もっとまじめに、というと固苦しくなりますが、たとえばアイリッシュ・ミュージックなどとも肩を並べて、音楽として追いかけるべし、と思ったことであります。

 後藤マスターも感心しておられたごとく、どの曲も一級のプロが、子どものためゆえにこそ、細部までないがしろにせず、精魂こめて作りこんでいる。同時に、「売れる」ことのプレッシャーから自由なところで、のびのびと楽しみながらやっている。そうして生みだされた音楽は、ひとりよがりなところがない、極上のエンタテンイメントであり、こうして最高の再生環境で聴くのにふさわしい。

 この〈Tank!〉は今回初めて聴きましたが、まさに名曲で、ここでのサックス・ソロはジャズとして聴いても一級であることは後藤マスターも太鼓判を押されていました。

 『サザエさん』の火曜日の再放送の際のオープニングという〈レッツゴー・サザエさん〉(1975) もすばらしい。北山修作詞、筒美京平作曲という文句なしの名曲を加藤みどりが完璧にうたって、今回のハイライトになりました。『キューティーハニー』(1973)、『魔女っ子メグちゃん』(1974) の作曲・渡辺岳夫、うた・前川陽子のコンビももっと聴きたい。そして「いーぐる」で聴く『ベル薔薇』のテーマはやはり感動ものであります。『ゲゲゲの鬼太郎』の録音のすばらしさには脱帽。水木しげる自らの作詞、作曲はいずみたくという、これ以上はない組合せの曲をうたう熊倉一雄のヴォーカルは妖怪になりきっています。『鉄椀アトム』をうたう上高田少年合唱団の優等生ぶりと、『狼少年ケン』をうたう西六郷少年少女合唱団のわんぱくぶりの、それぞれの作品に合った対照も面白い。『機甲創世記モスピーダ』の〈ブルー・レイン〉は、もっとテンポを落とし、あらためて独立した楽曲として録音ないし演奏しなおしたものを聴いてみたいものであります。

 そうしてあらためて思ったことは、自分にとって音楽がなくてはならぬものになったのは、これらアニソンを聴いて育ったからだ、ということでした。

 家族にはミュージシャンはおらず、親戚を見渡しても音楽と縁のある人はいない。ラジオを聴く習慣すら家のなかにはありませんでした。今なお、家族親戚に、ここまで音楽にのめりこんでいる人間は他にいない。そこでふりかえってみれば、幼ない頃に見て聴いていたテレビまんが、アニメのオープニング・テーマこそが、音楽を聴く楽しさを刷りこんでいたのでありましょう。

 そしてそのアニソンが、当時最先端の音楽トレンドを貪欲に取り込み、また実験を重ね、あるいはおおいに遊んで、幅広く、多様性に富んでいたことが、音楽への感覚を柔軟なものにしてくれていたのでもありましょう。これらの音楽が、アイリッシュ・ミュージックその他の音楽と直接つながっているわけではありませんが、そうした音楽に反応する土壌を、ぼくの感性のなかに養っていてくれていたのでありましょう。

 音楽を聴く、という意識すらなく聴いて、聴かされていた音楽が、実はとんでもなく質の高いものであったのでした。

 もちろん、今回の31曲はほんの序の口です。幸い、後藤マスターからは続篇をというお言葉もいただきました。須山さん、法月さん、原田さんには、さらに切口を変え、より広く、面白いアニソンを「いーぐる」で聴かせていただきたく、あらためてお願いもうしあげます。須山さんの、実に堂に入った解説、法月さんの、たくまずしてあふれ出るマニアぶりも、この体験をいやが上にも盛り上げていました。

 それにしてもこうしてみると、もう一つの「原風景」、ゲーム音楽も「いーぐる」で聴きたくなってきます。昨年『ファイナルファンタジー』25周年で出たトリビュート・アルバムにドレクスキップが入っていますが、ある時期以降の世代にとって、ゲーム音楽は、ぼくらにとってのアニソンに匹敵する、あるいはそれ以上の「原風景」ではないかと推察しています。(ゆ)