昨日放送されましたピーター・バラカンさんの番組「ウィークエンド・サンシャイン サマースペシャル - ケルト音楽」でかけました楽曲リストです。
ひとくちに「ケルト」といっても、こんなにいろいろとあるのです、と紹介したいことがメイン・テーマでしたが、もう一つ隠れたテーマは「うた」であります。ケルトというとインストルメンタルばかりが脚光を浴びがちなので、もっとうたを聴いていただきたい、と思った次第。収録が終わったところで hatao さんから、こんなにうたがお好きだとは意外でした、と言われましたが、ぼくの原点はうたであります。あちこちで言ったりしておりますが、ある時期までぼくはダンス・チューンが苦手でありました。LP片面というと平均20分ですけど、それがダンス・チューンで埋まっていると聴き通すのが苦痛でした。アイリッシュをアイリッシュとして意識したのもドロレス・ケーンのうたでしたし、アイリッシュでいいなと当初思ったのはクリスティ・ムーアのソロでした。
というわけで、まずは出発地のアイルランドもうたを聴いていただきました。
Ireland
01. 〈Sail Og Rua (Sally of Red Hair)〉
Darach O Cathain
《Traditional Irish Unaccompanied Singing》
ダラク・オー・カハーン (1922-1987) はゴールウェイはコネマラ出身のシンガーです。もちろんプロなどではなく、録音はこの1975年リリースのアルバム1枚と、ショーン・オ・リアダのキョールトリ・クーランとのアルバムがあります。そちらもダラクのトラックはすべて無伴奏です。お聴きのとおり、何の飾りもギミックも、あるいは技巧すら無いと思えるほど、坦々とうたっているだけの録音ですが、聴いているうちに妙に胸に沁みてくる不思議。シャン・ノースって何よ、と訊かれれば、これです、とためらわず差し出します。アイルランド音楽の真髄。ですが、アイルランドだけのものでもありません。うたというもののひとつの究極、最も普遍的な姿です。もし、これを聴いて何も感じなければ、アイルランド音楽ともケルトの音楽とも縁は無いものと諦めて、別の方へどうぞ。ひょっとすると音楽そのものが合わないかもしれません。
02. 〈Slan Le Maigh (Farewell to Maigue) 〉
Muireann Nic Amhlaoibh
《Daybreak: Fainne An Lae》
そのアイルランド歌謡伝統のいまを代表するうたい手です。ムイレン・ニク・オウリーヴと読みます。今世紀初頭のアイルランドを代表するバンド Danu のシンガー。ですが、ぼくは実は彼女が 同じくアイルランドの Eamon Doorley、後で出てくるスコットランドの Julie Fowlis、そしてやはりスコットランドの Ross Martin と作った《DUAL》(2008) でその存在に開眼しました。これはソロ・ファーストで、アイルランド語だけでなく、英語のうたもうたっています。ドロレス・ケーンやニーヴ・パースンズ、ポゥドリギン・ニ・ウーラホーンなど、アイルランドのすぐれたシンガーの伝統を継いで、ふくよかなアルトを聴かせてくれます。ひょっとするとアルトよりもっと低いかも。タイトルの "Maigue" は川の名前の由。彼女はまたフルートとホィッスルの名手でもあり、上記の録音でもすばらしい演奏があります。
03. 〈Sail Away Ladies/Walking In The Parlour〉
Michael McGoldrick
《Transatlantic Sessions 3 Volume 2》
うたばかり、というわけにもいかないのでチューンも1曲。ですが、これは実はアイリッシュ・チューンではなく、アメリカのオールドタイム・チューンとして有名なもの。マイケル・マクゴールドリックのイルン・パイプにブルース・モルスキィのフィドル、ブズーキでドーナル・ラニィが加わったトリオでの演奏。BBCスコットランドが製作して大ヒットした "Transatlantic Sessions" の第3シーズンの1曲。このシリーズは演奏もですが、とにかく映像がすばらしいので、ぜひご覧になってください。ネットにも上がっていますが、DVD を買う価値は十分以上にあります。PAL 方式ですが、PC/Mac で見られます。リージョンはフリーです。
この演奏でも3人がそれはそれは楽しくてしかたがないという風情で、とりわけマイケル・マクゴールドリックのパイプが出色。イルン・パイプでオールドタイムをやったのはこれが史上初ではないでしょうが、これだけ自家薬籠中のものとして、まるでこのパイプのために作られたかのように演奏しているのは初めてと思います。
アイルランドはあっさりとここまでで、早速旅に出ます。最初の寄港地はスコットランド、ではなく、アイルランドとスコットランドの間にあるマン島です。ここにはマンクス・ゲール語があり、独特の音楽伝統が生きています。
もっとも、後で出てくるコーンウォールもそうですが、伝統文化は20世紀半ばには衰頽し、マンクス・ゲール語も一度は死にたえました。1970年代以降、アイルランドなどの盛り上がりに刺激されて復興の動きが始まっています。
Isle of Man
04. Ushag Veg Ruy (Little Red Bird)/ Emma Christian // Beneath The Twilight
05. Lament Of The Duchess Of Gloucester/ Emma Christian // Beneath The Twilight
ここでご紹介するエマ・クリスチャンは1994年に突如このソロ・アルバムで登場して、ぼくらを仰天させました。今のところ録音はこれだけです。うたとリコーダーの名手、という以上に、ミステリアスな世界はユニークです。
ただし、これだけがマン島の音楽というわけではもちろんなく、もっと明るい側面もあるようです。マン島の言語や音楽はむしろスコットランドからやって来たものとされますが、その後、ウェールズやコーンウォールとの交流もできたらしい。現在では年1回の全島的なフェスティヴァルも開かれています。
マン島から狭い海を渡ればスコットランド。今回最大の目玉の一つです。
Scotland
スコットランドの文化はアイルランドからの植民の遺産です。スコティッシュ・ゲール語、ガーリックと呼ばれる言葉はアイルランド語から別れたもので、ゆっくりしゃべればたがいに通じるそうな。ぼくらの耳にはあくまでもやわらかいアイルランド語に比べるとやや硬質な響きがまじります。
スコットランド特有の楽器というと何をおいてもハイランド・パイプでしょうが、普及の点では圧倒的にフィドルです。ということで、まずはフィドルをどうぞ。
06. Nuair Bhios Mi Leam Fhin (When I Am Alone)/ Duncan Chisholm // Farrar
ダンカン・チザムは Wolfestone のフィドラーとして名を上げましたが、この《FARRAR》から始まる "Strathglass Trilogy" には作曲も含めた音楽家としての成熟が現われ、スコットランドのフィドル音楽の一つの頂点と思います。曲はアルバム冒頭のスロー・エアで、ビブラートをまったく使わないことから生まれる響きの美しさは心に沁みます。録音全体はスロー・エアばかりでなく、ストラスペイ、ジグ、リールなどもあり、どれも急がずあわてず、じっくりと耳を傾むけるに値します。
07. An Cailleach (Cailleach 'Sa Mhaistrim (Hag at the Churn)/Cailleach An Tuirne (Hag of the Spinning Wheel)) / Salsa Celtica // El Camino
スコットランドの「いま」を象徴するバンドがこのサルサ・ケルティカ。北海油田で働くためにカリブ海からやってきた人びとと地元の連中がそれぞれの音楽を持ち寄って組んだバンドの3作め。試行錯誤を重ねた末に生みだした新しい「伝統音楽」がここにあります。カリブのビートに乗って疾走するのは、実はアイリッシュ・チューン。ここにはバンジョーのエイモン・コインもいますし、シェトランドからクリス・スタウトも駈けつけてます。さらに、うたのトラックでリードをとるのはイングランドのイライザ・カーシィ。スコットランドでこそ可能になった「お祭」は、次のライヴで爆発し、さらについ先日出た最新作で一層の融合に向かいます。
08. Thou Has Left Me Ever, Jamie/Let Not Woman E'er Complain/Gat Ye Me, O, Gat Ye Me / Elspeth Cowie // The Complete Songs Of Robert Burns, Vol.5
スコットランドのうたといえばまずはロバート・バーンズ。英語圏全体としても偉大な詩人のひとりとして声価の高い存在ですが、スコットランドでは唯一無二。一方で300曲をこえる「うた」を残してもいます。伝統歌を換骨奪胎したものもあり、まったくの新作もあります。それらを網羅し、第一線のミュージシャンを総動員して製作されたのがこの『全歌集』です。従来よくあったような「観光地みやげ」のような感傷を排し、うた本来の姿を引き出すよう、入念なアレンジと入魂の演奏で、詩集としても、歌集としても、また伝統音楽のプレゼンとしても画期的な成果を生みだしました。全10集CD12枚をリリースしたのはグラスゴーに本拠を置くオーディオ界の雄 Linn Audio 傘下の Linn Records。録音もまた模範的です。リンはいち早く音楽配信をとりいれ、CDプレーヤーの製造を数年前にやめてしまいました。リン・レコードもハイレゾ配信に熱心です。このシリーズはハイレゾはありませんが、サイトからファイルの形で購入できます。
エルスペス・カウイーは1970年代から活動するベテランの一人で、伝統歌のシンガーとしてスコットランド有数の一人です。無伴奏を最も得意としますが、ここではマルコム・スティット、サンディ・ブレチン、エイダン・オルークをバックに味わいの深いうたを聴かせます。最後に入る男性シンガーはジョン・モラン。
09. An Glas Mheur (The Fingerlock) / William MacDonald // Ceol Na Pioba - Piob Mhor
スコットランドといえばハイランド・パイプは欠かせませんが、そのハイランド・パイプにとっての古典音楽がピブロック piobaireachd です。ハイランド・パイプは本来ピブロックを演奏するための楽器と言うべきものでもあり、これをきちんと演奏できないと一人前のパイパーとは認められません。ハイランド・パイプにとってダンス・チューンは「小音楽」であり、ピブロックこそは「大音楽」です。
ピブロックは必ずソロで演奏されます。まず比較的シンプルなメイン・テーマが提示され、それを繰り返しますが、繰り返す際にメロディの各音の間に装飾音が加えられます。そして装飾音の数が繰り返すごとに増えていきます。最終的には7個になり、最後に再びメインのメロディだけが演奏されます。
この音楽は演奏するにも高度の訓練が必要ですが、聴く方にもそれなりの習熟と忍耐が求められます。1曲の演奏は短かいもので10分、長くなると20分を超えます。一方で、他には類例のない魅力にはまってしまうと、この演奏時間が短かく感じられます。
今回はこういう音楽の存在を知っていただきたく、あえてかけてみました。
10. Lon-dubh (Blackbird) / Julie Fowlis // Cuilidh
スコティッシュ・ゲール語の響きの特質がよくわかるのは、こういう聴き慣れたうたをその言葉で聴くときでしょう。ジュリー・ファウリスはスコットランドの若手シンガーとして「旬」の一人です。こうしてうたわれると、ポールのうたがまるでスコットランドのトラディショナルに響きます。
スコットランドのすぐ南、イングランドの最北部がノーサンバーランドです。一般的に「ケルト」には数えられない地域ですが、もともとはスコットランドとイングランドの間でとったりとられたりしてきたところでもあり、住民も自分たちの都合によってある時は北の一部となり、ある時は南側に立つことを選んできました。独自の音楽伝統をもちながら、従来なかなか紹介されるチャンスが無かったので、今回はなかば強引にケルトの一角として入れてみました。何よりもここにはノーサンブリアン・スモール・パイプという独自のバグパイプがあります。
Northumberland
11. Keelman Ower Land/Farewell to Rothbury/Cat in Coldstream / The Kathryn Tickell Band // Instrumental
そのノーサンブリアン・パイプの第一人者がキャスリン・ティッケルです。このパイプはなぜか女性の名手がめだち、キャスリンの他にも Pauline Cato もいます。圧倒的男性社会のイルン・パイプやハイランド・パイプの世界とは対照的であります。
キャスリンはまだ10代だった1970年代はじめから第一線で活躍しており、録音も数多く出しています。フィドラーとしても第一級です。アイルランドのシャロン・シャノンにも比べられる存在ですが、音楽家としてのキャリアではシャロンよりずっと先輩ではあります。
スタジオで hatao さんが紹介していたように、ノーサンブリアン・パイプはチャンターの末端が閉じられています。そのため、ひじょうに小回りの効いた演奏ができます。また、ホーンパイプの演奏では他のどんな楽器よりも跳ねる感じをよく出すことができます。スモール・パイプの名のとおり小型なので立って演奏することもできます。
なお、鞴を使うバグパイプとしてはアイルランドのイルン・パイプ、ノーサンブリアン・スモール・パイプ、そしてスコットランドの、ハイランド・パイプより小型のロゥランド・パイプがあります。
12. 〈Space Cowboys〉
Baltic Crossing
《Baltic Crossing》
Kristian Bugge: violin
Antti Larvela: double bass
Esko Jarvela: violin
Andy May: Northumbrian small pipes
Ian Stephenson: guitar, melodeon
ノーサンブリアン・スモール・パイプの若手の名手が Andy May。このバンドはメイが参加しているバンドで、デンマーク、フィンランドとブリテンのハイブリッド。ベースはデンマーク。冒頭でパイプの面白い使い方が聴けます。スコットランドのサルサ・ケルティカもそうですが、ノーサンバーランドの人たちも域外の音楽との交流をためらいません。一般にケルトのミュージシャンたちは、他の音楽伝統との交流に積極的です。もともと伝統音楽そのものが閉じられたものではなく、商業音楽も含めた他の音楽伝統を積極的に取入れるものです。「純粋な伝統音楽」というものが仮にあるとすれば、それはすべてミクスチャーであります。そうでなければ、アイルランドの「伝統音楽」で使われている楽器のほとんどは存在しません。フィドルも蛇腹もパイプもフルートもすべて外から持ち込まれたものです。ジグもリールもポルカも同じです。
ノーサンバーランドの次はウェールズです。ゲール語の中でもアイルランドやスコットランドとは系統の異なるキムリア語が話されており、土着言語が元気なことではヨーロッパでも1、2を争います。英語のような支配言語の普及にともない、アイルランド語のような土着言語が衰頽し、ネイティヴ話者人口の減少が続いていたのがどこでも共通する現象ですが、ウェールズだけはキムリア語の復興に成功し、英語とのバイリンガル社会になっています。1990年代以降、他の地域でも土着言語が復興に向かいますが、ウェールズでもその復興はさらに進み、従来英語が優勢であった南部のカーディフ周辺でもキムリア語を日常語とする人が増えているそうです。
ここは1970年代後半、Ar Log を先頭にモダンな伝統音楽が立ち上がり、1990年代の第2波を経て、現在3度目の波が来ています。アル・ログたちによるウェールズ音楽の展開はアイルランドやスコットランドの盛り上がりをお手本にしたものでした。とはいえ、その独自の音楽は当時まことに新鮮で、アル・ログのファーストを聴いたときの衝撃は忘れられません。
Wales
13. Dole Teifi (Teifi Meadows; Y Bobol Dwyllodrus) / Fernhill // Whilia
シンガーのジュリー・マーフィーを中心とするファーンヒルは第2波を代表するバンドで、かつて来日もしました。日本語ネイティヴにとってアイルランド語をはじめとするケルト諸語の発音は難しいですが、キムリア語の発音はことに難しく、目の前でゆっくり発音されても聞き取ることさえほとんどできません。実はジュリー・マーフィはイングランドの生まれで、ウェールズ人と結婚し、ウェールズに移住してからキムリア語を身につけていますが、キムリア語シンガーの筆頭です。
14. 〈Y Crefftwr (The Craftsman); Llawenydd pob Llu (Everyone's Delight); Dic y Cymro (Dick the Welshman)〉
Crasdant
《NOS SADWRM BACH (Not Yet Saturday)》
Robin Huw Bowen: harp
Andy McLauchlin: flute, pibgyrn
Stephen Rees: fiddle
Huw Williams: guitar
クラスダントも第2波に属するバンドで、ここでの目玉はこれも hatao さんがスタジオに持ち込まれたピブホーン、角笛です。水牛の角でできたリード楽器で、スペインのアルボカの同類です。このバンドにはまたハーパーもいて、ウェールズの伝統楽器がそろっています。ファーンヒルはその意味では非ウェールズ的ではあります。ハープはケルト音楽の象徴的楽器ですが、他の地域ではすべて一度その伝統が途絶えているのに対し、ウェールズだけは中世以来つながっています。トリプル・ハープという独自のタイプで Llio Rhydderch(この人の名前がまた読めない)はじめ、録音もたくさん出ています。
15. Pa Le? (Which Places?) / 9Bach // Tincian
そして現在の第3波の代表がこのバンド。fRoots誌の表紙を飾って一躍ヨーロッパ伝統音楽の第一線に躍り出ました。このセカンドも Real World からのリリース。イングランドのサム・リーにも通じる21世紀の伝統音楽のひとつの姿でしょう。ポップスでもロックでも、またジャズでもない、この形は、まさに現代音楽です。
ウェールズはもっと紹介したかったんですが、今回は涙を飲んでこれだけ。そこから南に下るとブリテン島の南西端コーンウォールがあります。ここもコーンウォール語と呼ばれるゲール語の一派があります。ウェールズのキムリア語、コーンウォール語、そしてさらに海を渡ったブルターニュのブレトン語は、ゲール語のもう一つのグループ。源はウェールズで、ここから南へ植民していったと言われます。
Cornwall
16. Gweli Delyow (Bed Of Leaves)(Illian Y Thalhear; Pelea Era Why Moaz) / Anao Atao // Poll Lyfans (Frogpool)
コーンウォールの音楽はやはりアイルランドなどからの刺激で1970年代後半に復興が始まっています。Bucca というバンドが1980年代に活動し、そのメンバーであった Neil Davey は後にスコットランドのグループや汎ケルト・バンドともいうべき Anam に参加し、後者のメンバーとして来日もしています。
アナオ・アタオは1990年代、コーンウォールの音楽をより深く展開しました。このトラックはマン島の伝統曲と17世紀の歌集にあるコーンウォールのうたを合体したものです。
17. Come To Good / Mike O'Connor And friends // 無印良品 BGM 14
そしてコーンウォール音楽の最新の形がこの無印良品のオムニバスです。コーンウォール音楽の録音としてわが国では最も手に入りやすいものですし、またとても良質の音楽でもあります。
この無印良品の BGM シリーズにはアイルランドが二つ、スコットランド、コーンウォール、そしてブルターニュがあり、最新の 19 はガリシアです。いずれも現地の一線のミュージシャンを起用したオリジナル録音で、どれも質の高い演奏であり録音です。しかも安い。各地の音楽に最初に触れる入口としても格好ですが、深く聴きこんでからあらためて聴き直しても十分に鑑賞に耐えるすぐれものでもあります。
さてここでようやくブリテン諸島を離れて海を渡ります。今回のもう一つの目玉ブルターニュです。ブルターニュはそもそも「ケルト」という捉え方を言い出したところでもあります。1960年代、アラン・スティーヴェルがブルターニュ音楽復興を始めたとき、これをケルト音楽の一部として、アイルランドやスコットランドとの連帯を提唱したのでした。スティーヴェルにとっては戦略の一環だったのでしょうが、それが今ではいわば「独り歩き」した形です。とはいえ、それはまったく根も葉もないものだったわけでもないでしょう。
ブルターニュには様々な形の伝統音楽がありますが、ここでもまずはうたを聴いてください。
Breton
18. Toniou Hir Da Filie Dragomir / Erik Marchand & Le Taraf De Caransebes // Dor
エリク・マルシャンはヤン・ファンシュ・ケメナーなどの後を追って出てきた人で、今ではもはや大御所のひとりといっていいと思います。外部との交流をいとわないケルトのなかでもブルターニュはことに異文化との交流に熱心ですが、マルシャンもその先頭に立って実に様々な人びととコラボレーションをしてきました。これはその中でも最も成功した例のひとつ。ルーマニアのタラフのひとつとの共演です。これはブルターニュの有名な伝統歌ですが、この録音にはルーマニアの伝統歌をマルシャンがブルターニュ流にうたいのけるトラックもあります。
19. La Casquette (The Cap) / Kate-Me // Kate-Me
ブルターニュを代表する楽器がボンバルドとビニュウです。ボンバルドはチャルメラと同類のリード楽器。ビニュウは小型のバグパイプで、数あるバグパイプの中でも最も音域の高いものです。一般にケルトは高音が好きですが、ブルターニュの人びとはその中で最も高音が高い人たちです。
ボンバルドも hatao さんが持ってきてくださいましたが、サイズに比べておそろしく大きな、しかも鋭い音の出る楽器です。それをサックスのように使い、ファンキーなリズム・セクションに載せ、さらに伝統的なうたをかませる、というこのスタイルは実はかなり斬新です。ボンバルドは異常なほどに音がキレるので、こうして使うとえらくカッコよくなります。
かけたのはファーストですが、上記のリンクはセカンド・アルバムです。これも良いです。
20. Breakin' Brec'h / Kevrenn Alre // La.ri.don.ge!
21. Dans/Tro Fanch Mitt (plinn) / Kevrenn Alre // La.ri.don.ge!
そのボンバルドを、音域の異なるものを十数本ならべ、ハイランド・パイプも十人ほど加え、これにサイド・ドラムと大太鼓を組み合わせた、バンドというよりはオーケストラと呼ぶべき集団がバガドです。ブルターニュでは各自治体にそれぞれのバガドがあり、祭りの時など音楽を演奏しながら練り歩きます。年1回、全土のバガドが集まってのコンテストが開かれます。その音楽は伝統にのっとりながら、高度に洗練されてアレンジされたもので、これはその一例。こうしたバガドのCDを聴くのはちょっとスポーツをするのにも似ていて、聴きおえるといい汗かいたな、という感じになります。
ブルターニュにはまだまだ面白く、すぐれた音楽がたくさんありますが、今回はここまで。次は大陸を伝ってスペインに行きましょう。スペインのケルトというとガリシアと言われますが、そのお隣りのアストゥリアスの音楽もケルト的色彩の濃いものです。
Asturias
22. Cabraliega/Romance De Cangas/Canteros De Cuadonga/A La Mar Fui Por Naranxes/El Garrotin / Llan De Cubel // Llan De Cubel IV
そのアストゥリアスの音楽に開眼させてくれたのがリャン・デ・クベル。この4作めがスコットランドのレーベルからリリースされたことでスペインというよりアストゥリアス地元の外に初めて大々的に知られることになりました。アストゥリアスの音楽はとにかくまず明るい、心浮き立つ雰囲気が楽しい。このトラックはアルバム冒頭のメドレーですが、2番目と3番目の曲を組合せたメロディに1番目の歌詞を載せてうたい、さらに4番目と5番目を後につなげています。
Galicia
23. Parolando Con Moxenas / Rodrigo Romani // As Arpas De Breogan
一方のガリシアですが、カルロス・ヌニェスだけがひとり背負っているわけではありません。カルロスはもちろん天才ですし、かれの功績はまことに大きなものですが、ガリシア音楽ではむしろ新しい存在です。ガリシアの伝統音楽を世に知らしめたのは Milladoiro で、かれらはいわばガリシアのチーフテンズと言うべき存在です。そのミジャドイロの創設者でリーダーがハーパーのロドリーゴ・ロマニです。これはかれの最新のソロから、ハープをフィーチュアしたトラック。無印良品の BGM19 ガリシアはロマニが中心になっています。
はじめは長くてたっぷりあると思っていた時間もだいぶ少なくなってきて先を急がねばなりません。一気に大西洋を新大陸に渡ります。
Canada
24. 〈Les Metiers; Jalbert Brandy〉
Le Vent Du Nord
《LA PART DU FEU》
Simon Beaudry: vocals, bouzouki
Nicolas Boulerice: vocals, hurdy gurdy
Rejean Brunet: accordeon
Olivier Demers: violin, foot percussion
カナダにはアイルランド、スコットランド、イングランドから音楽伝統が渡っていますが、ひとつ独自の展開をしているのがケベックのフレンチ・カナディアンです。シャロン・シャノンが有名にした〈Mouth of the Tobique〉がフレンチ・カナディアンの曲で、あれにも現われているように、明るく、しかも陰翳に富んだすばらしいメロディがたくさんあります。一方でケベックの音楽にはケルト系音楽の影響も濃いものがあります。
このバンドはケベック音楽を担う最も新しいバンドの一つ。独特のフット・パーカッションが気分を高揚させてくれます。
25. Where's Howie? (Miss Stewart/Braes Of Tullymet/The Gillisdale Reel/We'll Aye Gang Back To Yon Town/Break Yer Bass Drone) / Natalie MacMaster // No Boundaries
カナダのケルト音楽を代表するのがケープ・ブルトンのフィドル音楽であることは、かつてアシュレイ・マクアイザックが来日したりして、ご存知の方もおられるでしょう。そのケープ・ブルトン・フィドルの女王がナタリー・マクマスターです。近年はアメリカでの活動が多いようですが、ここではピアノを伴奏にしたオーセンティックな演奏です。ケープ・ブルトンではこのようにたくさんの曲をメドレーにするのがお好みです。
26. The Thistle (Airs for the Seasons, for Summer) / Concerto Caledonia / Colin's Kisses: The Music of James Oswald
カナダ出身のフルーティスト Chris Norman を紹介しようと hatao さんが選ばれたトラック。この人は伝統音楽出身ながら古楽でも活動していて、これはその成果のひとつ。コンチェルト・カレドニアはスコットランドをベースとする古楽集団で、バーンズの曲を当時の姿で再現する試みなど、なかなか面白い活動をしています。ここで演奏しているのは17世紀スコットランドの作曲家の曲で、ノーマンのフルートは案外当時の演奏に近いんじゃないでしょうか。
U.S.A.
27. Don't Let Go/Martin Wynne's Reel / Wake the Dead // Blue Light Cheap Hotel
アメリカはもちろんアイリッシュ・ミュージックの宝庫でもありますが、今回は趣向を変えて、アメリカでしか絶対にありえない形をご紹介します。ウェイク・ザ・デッドはサンフランシスコをベースとするバンドで、中心はカナダ出身のダニー・カーナハン。この人は1980年代 Chris Caswell というハーパーと Caswell Carnahan というデュオを組んで優れた録音をリリースしています。1990年代アメリカに移り、Robin Petrie というダルシマー奏者と組んで、ちょっとリチャード&リンダ・トンプソンを思わせる、やはり優れた録音を出しました。そしてこのバンドはグレイトフル・デッドの曲とケルト系ダンス・チューンと組み合わせるというコンセプトです。ジェリィ・ガルシアは半分アイリッシュですし、デッドの前の若い頃はブルーグラスをやってもいたので、こういう試みが出現するのもむしろ必然かもしれません。実際、このバンドの音楽は「コロンブスの卵」と言いたくなるくらい、二つの要素はよく合います。
ここでのデッド側の曲は実はデッド本体ではなく、ジェリィ・ガルシア・バンドのレパートリィですが、これを選んだのは録音時間などを考慮にいれた結果です。
Korea
28. Kidhood (Ai Shijol) /
もともとの計画ではオーストラリアにも寄港する予定で用意もしていましたが、時間が押して今回は涙を飲んでカット。太平洋を横断してアジアです。
この韓国の男女のデュオは hatao さんがフルートやホィッスルに関する情報などをやりとりする中で知り合ったそうです。日本人がこれだけケルト音楽に親しむのだから、アジアの他の地域でもいずれケルト音楽を自分たちの音楽として演奏する人たちが出てくるはずと思っていましたから、この音楽には喜びました。台湾にも hatao さんの生徒さんがいるそうで、放送収録の直前にもかれは台湾にツアーに行かれています。これからいろいろ出てくるでしょうし、大陸からも当然出現するでしょう。ケルトの音楽がどこまで広がるか、興味のひかれるところです。
ファーストはインスト中心の自主制作でしたが、このセカンドは自作のうたを中心にして、韓国ソニーからのリリース。こういう形の日本語のうたも聴きたいものです。
Japan
29. A Punch in the Dark/Barry's Trip to Paris / hatao & nami // Silver Line
さて、今回の旅も日本にまでもどってきました。まずはゲストの hatao さんの最新の録音から1曲。大阪のシャナヒーのリーダー nami さんのピアノとのデュエットです。
30. 丘の上にて〜ダニー・ボーイ / 奈加靖子// Sign
しめくくりは Bard への日本語からの回答と言えそうな奈加靖子さんのうたです。この歌詞は奈加さんのオリジナルですが、とりわけ低くした声域とあいまって、とかく感傷に流れがちなこの曲を、「大人の鑑賞」に耐えるもう一つの次元にあげていると思います。
ということで、ケルト音楽世界の一端を駆け足でめぐってみました。ほんとうはそれぞれの地域でサマースペシャルが組めるわけです。アイルランドだけがケルトであるわけでもありません。もちろんこれで終わりでもなく、むしろどこでも音楽はますます元気です。録音、録画をはじめとしたリソースもたくさんあります。ケルトの広がりを多少とも感じ、1曲でも心の琴線に響く音楽があれば幸いです。(ゆ)
ひとくちに「ケルト」といっても、こんなにいろいろとあるのです、と紹介したいことがメイン・テーマでしたが、もう一つ隠れたテーマは「うた」であります。ケルトというとインストルメンタルばかりが脚光を浴びがちなので、もっとうたを聴いていただきたい、と思った次第。収録が終わったところで hatao さんから、こんなにうたがお好きだとは意外でした、と言われましたが、ぼくの原点はうたであります。あちこちで言ったりしておりますが、ある時期までぼくはダンス・チューンが苦手でありました。LP片面というと平均20分ですけど、それがダンス・チューンで埋まっていると聴き通すのが苦痛でした。アイリッシュをアイリッシュとして意識したのもドロレス・ケーンのうたでしたし、アイリッシュでいいなと当初思ったのはクリスティ・ムーアのソロでした。
というわけで、まずは出発地のアイルランドもうたを聴いていただきました。
Ireland
01. 〈Sail Og Rua (Sally of Red Hair)〉
Darach O Cathain
《Traditional Irish Unaccompanied Singing》
ダラク・オー・カハーン (1922-1987) はゴールウェイはコネマラ出身のシンガーです。もちろんプロなどではなく、録音はこの1975年リリースのアルバム1枚と、ショーン・オ・リアダのキョールトリ・クーランとのアルバムがあります。そちらもダラクのトラックはすべて無伴奏です。お聴きのとおり、何の飾りもギミックも、あるいは技巧すら無いと思えるほど、坦々とうたっているだけの録音ですが、聴いているうちに妙に胸に沁みてくる不思議。シャン・ノースって何よ、と訊かれれば、これです、とためらわず差し出します。アイルランド音楽の真髄。ですが、アイルランドだけのものでもありません。うたというもののひとつの究極、最も普遍的な姿です。もし、これを聴いて何も感じなければ、アイルランド音楽ともケルトの音楽とも縁は無いものと諦めて、別の方へどうぞ。ひょっとすると音楽そのものが合わないかもしれません。
02. 〈Slan Le Maigh (Farewell to Maigue) 〉
Muireann Nic Amhlaoibh
《Daybreak: Fainne An Lae》
そのアイルランド歌謡伝統のいまを代表するうたい手です。ムイレン・ニク・オウリーヴと読みます。今世紀初頭のアイルランドを代表するバンド Danu のシンガー。ですが、ぼくは実は彼女が 同じくアイルランドの Eamon Doorley、後で出てくるスコットランドの Julie Fowlis、そしてやはりスコットランドの Ross Martin と作った《DUAL》(2008) でその存在に開眼しました。これはソロ・ファーストで、アイルランド語だけでなく、英語のうたもうたっています。ドロレス・ケーンやニーヴ・パースンズ、ポゥドリギン・ニ・ウーラホーンなど、アイルランドのすぐれたシンガーの伝統を継いで、ふくよかなアルトを聴かせてくれます。ひょっとするとアルトよりもっと低いかも。タイトルの "Maigue" は川の名前の由。彼女はまたフルートとホィッスルの名手でもあり、上記の録音でもすばらしい演奏があります。
03. 〈Sail Away Ladies/Walking In The Parlour〉
Michael McGoldrick
《Transatlantic Sessions 3 Volume 2》
うたばかり、というわけにもいかないのでチューンも1曲。ですが、これは実はアイリッシュ・チューンではなく、アメリカのオールドタイム・チューンとして有名なもの。マイケル・マクゴールドリックのイルン・パイプにブルース・モルスキィのフィドル、ブズーキでドーナル・ラニィが加わったトリオでの演奏。BBCスコットランドが製作して大ヒットした "Transatlantic Sessions" の第3シーズンの1曲。このシリーズは演奏もですが、とにかく映像がすばらしいので、ぜひご覧になってください。ネットにも上がっていますが、DVD を買う価値は十分以上にあります。PAL 方式ですが、PC/Mac で見られます。リージョンはフリーです。
この演奏でも3人がそれはそれは楽しくてしかたがないという風情で、とりわけマイケル・マクゴールドリックのパイプが出色。イルン・パイプでオールドタイムをやったのはこれが史上初ではないでしょうが、これだけ自家薬籠中のものとして、まるでこのパイプのために作られたかのように演奏しているのは初めてと思います。
アイルランドはあっさりとここまでで、早速旅に出ます。最初の寄港地はスコットランド、ではなく、アイルランドとスコットランドの間にあるマン島です。ここにはマンクス・ゲール語があり、独特の音楽伝統が生きています。
もっとも、後で出てくるコーンウォールもそうですが、伝統文化は20世紀半ばには衰頽し、マンクス・ゲール語も一度は死にたえました。1970年代以降、アイルランドなどの盛り上がりに刺激されて復興の動きが始まっています。
Isle of Man
04. Ushag Veg Ruy (Little Red Bird)/ Emma Christian // Beneath The Twilight
05. Lament Of The Duchess Of Gloucester/ Emma Christian // Beneath The Twilight
ここでご紹介するエマ・クリスチャンは1994年に突如このソロ・アルバムで登場して、ぼくらを仰天させました。今のところ録音はこれだけです。うたとリコーダーの名手、という以上に、ミステリアスな世界はユニークです。
ただし、これだけがマン島の音楽というわけではもちろんなく、もっと明るい側面もあるようです。マン島の言語や音楽はむしろスコットランドからやって来たものとされますが、その後、ウェールズやコーンウォールとの交流もできたらしい。現在では年1回の全島的なフェスティヴァルも開かれています。
マン島から狭い海を渡ればスコットランド。今回最大の目玉の一つです。
Scotland
スコットランドの文化はアイルランドからの植民の遺産です。スコティッシュ・ゲール語、ガーリックと呼ばれる言葉はアイルランド語から別れたもので、ゆっくりしゃべればたがいに通じるそうな。ぼくらの耳にはあくまでもやわらかいアイルランド語に比べるとやや硬質な響きがまじります。
スコットランド特有の楽器というと何をおいてもハイランド・パイプでしょうが、普及の点では圧倒的にフィドルです。ということで、まずはフィドルをどうぞ。
06. Nuair Bhios Mi Leam Fhin (When I Am Alone)/ Duncan Chisholm // Farrar
ダンカン・チザムは Wolfestone のフィドラーとして名を上げましたが、この《FARRAR》から始まる "Strathglass Trilogy" には作曲も含めた音楽家としての成熟が現われ、スコットランドのフィドル音楽の一つの頂点と思います。曲はアルバム冒頭のスロー・エアで、ビブラートをまったく使わないことから生まれる響きの美しさは心に沁みます。録音全体はスロー・エアばかりでなく、ストラスペイ、ジグ、リールなどもあり、どれも急がずあわてず、じっくりと耳を傾むけるに値します。
07. An Cailleach (Cailleach 'Sa Mhaistrim (Hag at the Churn)/Cailleach An Tuirne (Hag of the Spinning Wheel)) / Salsa Celtica // El Camino
スコットランドの「いま」を象徴するバンドがこのサルサ・ケルティカ。北海油田で働くためにカリブ海からやってきた人びとと地元の連中がそれぞれの音楽を持ち寄って組んだバンドの3作め。試行錯誤を重ねた末に生みだした新しい「伝統音楽」がここにあります。カリブのビートに乗って疾走するのは、実はアイリッシュ・チューン。ここにはバンジョーのエイモン・コインもいますし、シェトランドからクリス・スタウトも駈けつけてます。さらに、うたのトラックでリードをとるのはイングランドのイライザ・カーシィ。スコットランドでこそ可能になった「お祭」は、次のライヴで爆発し、さらについ先日出た最新作で一層の融合に向かいます。
08. Thou Has Left Me Ever, Jamie/Let Not Woman E'er Complain/Gat Ye Me, O, Gat Ye Me / Elspeth Cowie // The Complete Songs Of Robert Burns, Vol.5
スコットランドのうたといえばまずはロバート・バーンズ。英語圏全体としても偉大な詩人のひとりとして声価の高い存在ですが、スコットランドでは唯一無二。一方で300曲をこえる「うた」を残してもいます。伝統歌を換骨奪胎したものもあり、まったくの新作もあります。それらを網羅し、第一線のミュージシャンを総動員して製作されたのがこの『全歌集』です。従来よくあったような「観光地みやげ」のような感傷を排し、うた本来の姿を引き出すよう、入念なアレンジと入魂の演奏で、詩集としても、歌集としても、また伝統音楽のプレゼンとしても画期的な成果を生みだしました。全10集CD12枚をリリースしたのはグラスゴーに本拠を置くオーディオ界の雄 Linn Audio 傘下の Linn Records。録音もまた模範的です。リンはいち早く音楽配信をとりいれ、CDプレーヤーの製造を数年前にやめてしまいました。リン・レコードもハイレゾ配信に熱心です。このシリーズはハイレゾはありませんが、サイトからファイルの形で購入できます。
エルスペス・カウイーは1970年代から活動するベテランの一人で、伝統歌のシンガーとしてスコットランド有数の一人です。無伴奏を最も得意としますが、ここではマルコム・スティット、サンディ・ブレチン、エイダン・オルークをバックに味わいの深いうたを聴かせます。最後に入る男性シンガーはジョン・モラン。
09. An Glas Mheur (The Fingerlock) / William MacDonald // Ceol Na Pioba - Piob Mhor
スコットランドといえばハイランド・パイプは欠かせませんが、そのハイランド・パイプにとっての古典音楽がピブロック piobaireachd です。ハイランド・パイプは本来ピブロックを演奏するための楽器と言うべきものでもあり、これをきちんと演奏できないと一人前のパイパーとは認められません。ハイランド・パイプにとってダンス・チューンは「小音楽」であり、ピブロックこそは「大音楽」です。
ピブロックは必ずソロで演奏されます。まず比較的シンプルなメイン・テーマが提示され、それを繰り返しますが、繰り返す際にメロディの各音の間に装飾音が加えられます。そして装飾音の数が繰り返すごとに増えていきます。最終的には7個になり、最後に再びメインのメロディだけが演奏されます。
この音楽は演奏するにも高度の訓練が必要ですが、聴く方にもそれなりの習熟と忍耐が求められます。1曲の演奏は短かいもので10分、長くなると20分を超えます。一方で、他には類例のない魅力にはまってしまうと、この演奏時間が短かく感じられます。
今回はこういう音楽の存在を知っていただきたく、あえてかけてみました。
10. Lon-dubh (Blackbird) / Julie Fowlis // Cuilidh
スコティッシュ・ゲール語の響きの特質がよくわかるのは、こういう聴き慣れたうたをその言葉で聴くときでしょう。ジュリー・ファウリスはスコットランドの若手シンガーとして「旬」の一人です。こうしてうたわれると、ポールのうたがまるでスコットランドのトラディショナルに響きます。
スコットランドのすぐ南、イングランドの最北部がノーサンバーランドです。一般的に「ケルト」には数えられない地域ですが、もともとはスコットランドとイングランドの間でとったりとられたりしてきたところでもあり、住民も自分たちの都合によってある時は北の一部となり、ある時は南側に立つことを選んできました。独自の音楽伝統をもちながら、従来なかなか紹介されるチャンスが無かったので、今回はなかば強引にケルトの一角として入れてみました。何よりもここにはノーサンブリアン・スモール・パイプという独自のバグパイプがあります。
Northumberland
11. Keelman Ower Land/Farewell to Rothbury/Cat in Coldstream / The Kathryn Tickell Band // Instrumental
そのノーサンブリアン・パイプの第一人者がキャスリン・ティッケルです。このパイプはなぜか女性の名手がめだち、キャスリンの他にも Pauline Cato もいます。圧倒的男性社会のイルン・パイプやハイランド・パイプの世界とは対照的であります。
キャスリンはまだ10代だった1970年代はじめから第一線で活躍しており、録音も数多く出しています。フィドラーとしても第一級です。アイルランドのシャロン・シャノンにも比べられる存在ですが、音楽家としてのキャリアではシャロンよりずっと先輩ではあります。
スタジオで hatao さんが紹介していたように、ノーサンブリアン・パイプはチャンターの末端が閉じられています。そのため、ひじょうに小回りの効いた演奏ができます。また、ホーンパイプの演奏では他のどんな楽器よりも跳ねる感じをよく出すことができます。スモール・パイプの名のとおり小型なので立って演奏することもできます。
なお、鞴を使うバグパイプとしてはアイルランドのイルン・パイプ、ノーサンブリアン・スモール・パイプ、そしてスコットランドの、ハイランド・パイプより小型のロゥランド・パイプがあります。
12. 〈Space Cowboys〉
Baltic Crossing
《Baltic Crossing》
Kristian Bugge: violin
Antti Larvela: double bass
Esko Jarvela: violin
Andy May: Northumbrian small pipes
Ian Stephenson: guitar, melodeon
ノーサンブリアン・スモール・パイプの若手の名手が Andy May。このバンドはメイが参加しているバンドで、デンマーク、フィンランドとブリテンのハイブリッド。ベースはデンマーク。冒頭でパイプの面白い使い方が聴けます。スコットランドのサルサ・ケルティカもそうですが、ノーサンバーランドの人たちも域外の音楽との交流をためらいません。一般にケルトのミュージシャンたちは、他の音楽伝統との交流に積極的です。もともと伝統音楽そのものが閉じられたものではなく、商業音楽も含めた他の音楽伝統を積極的に取入れるものです。「純粋な伝統音楽」というものが仮にあるとすれば、それはすべてミクスチャーであります。そうでなければ、アイルランドの「伝統音楽」で使われている楽器のほとんどは存在しません。フィドルも蛇腹もパイプもフルートもすべて外から持ち込まれたものです。ジグもリールもポルカも同じです。
ノーサンバーランドの次はウェールズです。ゲール語の中でもアイルランドやスコットランドとは系統の異なるキムリア語が話されており、土着言語が元気なことではヨーロッパでも1、2を争います。英語のような支配言語の普及にともない、アイルランド語のような土着言語が衰頽し、ネイティヴ話者人口の減少が続いていたのがどこでも共通する現象ですが、ウェールズだけはキムリア語の復興に成功し、英語とのバイリンガル社会になっています。1990年代以降、他の地域でも土着言語が復興に向かいますが、ウェールズでもその復興はさらに進み、従来英語が優勢であった南部のカーディフ周辺でもキムリア語を日常語とする人が増えているそうです。
ここは1970年代後半、Ar Log を先頭にモダンな伝統音楽が立ち上がり、1990年代の第2波を経て、現在3度目の波が来ています。アル・ログたちによるウェールズ音楽の展開はアイルランドやスコットランドの盛り上がりをお手本にしたものでした。とはいえ、その独自の音楽は当時まことに新鮮で、アル・ログのファーストを聴いたときの衝撃は忘れられません。
Wales
13. Dole Teifi (Teifi Meadows; Y Bobol Dwyllodrus) / Fernhill // Whilia
シンガーのジュリー・マーフィーを中心とするファーンヒルは第2波を代表するバンドで、かつて来日もしました。日本語ネイティヴにとってアイルランド語をはじめとするケルト諸語の発音は難しいですが、キムリア語の発音はことに難しく、目の前でゆっくり発音されても聞き取ることさえほとんどできません。実はジュリー・マーフィはイングランドの生まれで、ウェールズ人と結婚し、ウェールズに移住してからキムリア語を身につけていますが、キムリア語シンガーの筆頭です。
14. 〈Y Crefftwr (The Craftsman); Llawenydd pob Llu (Everyone's Delight); Dic y Cymro (Dick the Welshman)〉
Crasdant
《NOS SADWRM BACH (Not Yet Saturday)》
Robin Huw Bowen: harp
Andy McLauchlin: flute, pibgyrn
Stephen Rees: fiddle
Huw Williams: guitar
クラスダントも第2波に属するバンドで、ここでの目玉はこれも hatao さんがスタジオに持ち込まれたピブホーン、角笛です。水牛の角でできたリード楽器で、スペインのアルボカの同類です。このバンドにはまたハーパーもいて、ウェールズの伝統楽器がそろっています。ファーンヒルはその意味では非ウェールズ的ではあります。ハープはケルト音楽の象徴的楽器ですが、他の地域ではすべて一度その伝統が途絶えているのに対し、ウェールズだけは中世以来つながっています。トリプル・ハープという独自のタイプで Llio Rhydderch(この人の名前がまた読めない)はじめ、録音もたくさん出ています。
15. Pa Le? (Which Places?) / 9Bach // Tincian
そして現在の第3波の代表がこのバンド。fRoots誌の表紙を飾って一躍ヨーロッパ伝統音楽の第一線に躍り出ました。このセカンドも Real World からのリリース。イングランドのサム・リーにも通じる21世紀の伝統音楽のひとつの姿でしょう。ポップスでもロックでも、またジャズでもない、この形は、まさに現代音楽です。
ウェールズはもっと紹介したかったんですが、今回は涙を飲んでこれだけ。そこから南に下るとブリテン島の南西端コーンウォールがあります。ここもコーンウォール語と呼ばれるゲール語の一派があります。ウェールズのキムリア語、コーンウォール語、そしてさらに海を渡ったブルターニュのブレトン語は、ゲール語のもう一つのグループ。源はウェールズで、ここから南へ植民していったと言われます。
Cornwall
16. Gweli Delyow (Bed Of Leaves)(Illian Y Thalhear; Pelea Era Why Moaz) / Anao Atao // Poll Lyfans (Frogpool)
コーンウォールの音楽はやはりアイルランドなどからの刺激で1970年代後半に復興が始まっています。Bucca というバンドが1980年代に活動し、そのメンバーであった Neil Davey は後にスコットランドのグループや汎ケルト・バンドともいうべき Anam に参加し、後者のメンバーとして来日もしています。
アナオ・アタオは1990年代、コーンウォールの音楽をより深く展開しました。このトラックはマン島の伝統曲と17世紀の歌集にあるコーンウォールのうたを合体したものです。
17. Come To Good / Mike O'Connor And friends // 無印良品 BGM 14
そしてコーンウォール音楽の最新の形がこの無印良品のオムニバスです。コーンウォール音楽の録音としてわが国では最も手に入りやすいものですし、またとても良質の音楽でもあります。
この無印良品の BGM シリーズにはアイルランドが二つ、スコットランド、コーンウォール、そしてブルターニュがあり、最新の 19 はガリシアです。いずれも現地の一線のミュージシャンを起用したオリジナル録音で、どれも質の高い演奏であり録音です。しかも安い。各地の音楽に最初に触れる入口としても格好ですが、深く聴きこんでからあらためて聴き直しても十分に鑑賞に耐えるすぐれものでもあります。
さてここでようやくブリテン諸島を離れて海を渡ります。今回のもう一つの目玉ブルターニュです。ブルターニュはそもそも「ケルト」という捉え方を言い出したところでもあります。1960年代、アラン・スティーヴェルがブルターニュ音楽復興を始めたとき、これをケルト音楽の一部として、アイルランドやスコットランドとの連帯を提唱したのでした。スティーヴェルにとっては戦略の一環だったのでしょうが、それが今ではいわば「独り歩き」した形です。とはいえ、それはまったく根も葉もないものだったわけでもないでしょう。
ブルターニュには様々な形の伝統音楽がありますが、ここでもまずはうたを聴いてください。
Breton
18. Toniou Hir Da Filie Dragomir / Erik Marchand & Le Taraf De Caransebes // Dor
エリク・マルシャンはヤン・ファンシュ・ケメナーなどの後を追って出てきた人で、今ではもはや大御所のひとりといっていいと思います。外部との交流をいとわないケルトのなかでもブルターニュはことに異文化との交流に熱心ですが、マルシャンもその先頭に立って実に様々な人びととコラボレーションをしてきました。これはその中でも最も成功した例のひとつ。ルーマニアのタラフのひとつとの共演です。これはブルターニュの有名な伝統歌ですが、この録音にはルーマニアの伝統歌をマルシャンがブルターニュ流にうたいのけるトラックもあります。
19. La Casquette (The Cap) / Kate-Me // Kate-Me
ブルターニュを代表する楽器がボンバルドとビニュウです。ボンバルドはチャルメラと同類のリード楽器。ビニュウは小型のバグパイプで、数あるバグパイプの中でも最も音域の高いものです。一般にケルトは高音が好きですが、ブルターニュの人びとはその中で最も高音が高い人たちです。
ボンバルドも hatao さんが持ってきてくださいましたが、サイズに比べておそろしく大きな、しかも鋭い音の出る楽器です。それをサックスのように使い、ファンキーなリズム・セクションに載せ、さらに伝統的なうたをかませる、というこのスタイルは実はかなり斬新です。ボンバルドは異常なほどに音がキレるので、こうして使うとえらくカッコよくなります。
かけたのはファーストですが、上記のリンクはセカンド・アルバムです。これも良いです。
20. Breakin' Brec'h / Kevrenn Alre // La.ri.don.ge!
21. Dans/Tro Fanch Mitt (plinn) / Kevrenn Alre // La.ri.don.ge!
そのボンバルドを、音域の異なるものを十数本ならべ、ハイランド・パイプも十人ほど加え、これにサイド・ドラムと大太鼓を組み合わせた、バンドというよりはオーケストラと呼ぶべき集団がバガドです。ブルターニュでは各自治体にそれぞれのバガドがあり、祭りの時など音楽を演奏しながら練り歩きます。年1回、全土のバガドが集まってのコンテストが開かれます。その音楽は伝統にのっとりながら、高度に洗練されてアレンジされたもので、これはその一例。こうしたバガドのCDを聴くのはちょっとスポーツをするのにも似ていて、聴きおえるといい汗かいたな、という感じになります。
ブルターニュにはまだまだ面白く、すぐれた音楽がたくさんありますが、今回はここまで。次は大陸を伝ってスペインに行きましょう。スペインのケルトというとガリシアと言われますが、そのお隣りのアストゥリアスの音楽もケルト的色彩の濃いものです。
Asturias
22. Cabraliega/Romance De Cangas/Canteros De Cuadonga/A La Mar Fui Por Naranxes/El Garrotin / Llan De Cubel // Llan De Cubel IV
そのアストゥリアスの音楽に開眼させてくれたのがリャン・デ・クベル。この4作めがスコットランドのレーベルからリリースされたことでスペインというよりアストゥリアス地元の外に初めて大々的に知られることになりました。アストゥリアスの音楽はとにかくまず明るい、心浮き立つ雰囲気が楽しい。このトラックはアルバム冒頭のメドレーですが、2番目と3番目の曲を組合せたメロディに1番目の歌詞を載せてうたい、さらに4番目と5番目を後につなげています。
Galicia
23. Parolando Con Moxenas / Rodrigo Romani // As Arpas De Breogan
一方のガリシアですが、カルロス・ヌニェスだけがひとり背負っているわけではありません。カルロスはもちろん天才ですし、かれの功績はまことに大きなものですが、ガリシア音楽ではむしろ新しい存在です。ガリシアの伝統音楽を世に知らしめたのは Milladoiro で、かれらはいわばガリシアのチーフテンズと言うべき存在です。そのミジャドイロの創設者でリーダーがハーパーのロドリーゴ・ロマニです。これはかれの最新のソロから、ハープをフィーチュアしたトラック。無印良品の BGM19 ガリシアはロマニが中心になっています。
はじめは長くてたっぷりあると思っていた時間もだいぶ少なくなってきて先を急がねばなりません。一気に大西洋を新大陸に渡ります。
Canada
24. 〈Les Metiers; Jalbert Brandy〉
Le Vent Du Nord
《LA PART DU FEU》
Simon Beaudry: vocals, bouzouki
Nicolas Boulerice: vocals, hurdy gurdy
Rejean Brunet: accordeon
Olivier Demers: violin, foot percussion
カナダにはアイルランド、スコットランド、イングランドから音楽伝統が渡っていますが、ひとつ独自の展開をしているのがケベックのフレンチ・カナディアンです。シャロン・シャノンが有名にした〈Mouth of the Tobique〉がフレンチ・カナディアンの曲で、あれにも現われているように、明るく、しかも陰翳に富んだすばらしいメロディがたくさんあります。一方でケベックの音楽にはケルト系音楽の影響も濃いものがあります。
このバンドはケベック音楽を担う最も新しいバンドの一つ。独特のフット・パーカッションが気分を高揚させてくれます。
25. Where's Howie? (Miss Stewart/Braes Of Tullymet/The Gillisdale Reel/We'll Aye Gang Back To Yon Town/Break Yer Bass Drone) / Natalie MacMaster // No Boundaries
カナダのケルト音楽を代表するのがケープ・ブルトンのフィドル音楽であることは、かつてアシュレイ・マクアイザックが来日したりして、ご存知の方もおられるでしょう。そのケープ・ブルトン・フィドルの女王がナタリー・マクマスターです。近年はアメリカでの活動が多いようですが、ここではピアノを伴奏にしたオーセンティックな演奏です。ケープ・ブルトンではこのようにたくさんの曲をメドレーにするのがお好みです。
26. The Thistle (Airs for the Seasons, for Summer) / Concerto Caledonia / Colin's Kisses: The Music of James Oswald
カナダ出身のフルーティスト Chris Norman を紹介しようと hatao さんが選ばれたトラック。この人は伝統音楽出身ながら古楽でも活動していて、これはその成果のひとつ。コンチェルト・カレドニアはスコットランドをベースとする古楽集団で、バーンズの曲を当時の姿で再現する試みなど、なかなか面白い活動をしています。ここで演奏しているのは17世紀スコットランドの作曲家の曲で、ノーマンのフルートは案外当時の演奏に近いんじゃないでしょうか。
U.S.A.
27. Don't Let Go/Martin Wynne's Reel / Wake the Dead // Blue Light Cheap Hotel
アメリカはもちろんアイリッシュ・ミュージックの宝庫でもありますが、今回は趣向を変えて、アメリカでしか絶対にありえない形をご紹介します。ウェイク・ザ・デッドはサンフランシスコをベースとするバンドで、中心はカナダ出身のダニー・カーナハン。この人は1980年代 Chris Caswell というハーパーと Caswell Carnahan というデュオを組んで優れた録音をリリースしています。1990年代アメリカに移り、Robin Petrie というダルシマー奏者と組んで、ちょっとリチャード&リンダ・トンプソンを思わせる、やはり優れた録音を出しました。そしてこのバンドはグレイトフル・デッドの曲とケルト系ダンス・チューンと組み合わせるというコンセプトです。ジェリィ・ガルシアは半分アイリッシュですし、デッドの前の若い頃はブルーグラスをやってもいたので、こういう試みが出現するのもむしろ必然かもしれません。実際、このバンドの音楽は「コロンブスの卵」と言いたくなるくらい、二つの要素はよく合います。
ここでのデッド側の曲は実はデッド本体ではなく、ジェリィ・ガルシア・バンドのレパートリィですが、これを選んだのは録音時間などを考慮にいれた結果です。
Korea
28. Kidhood (Ai Shijol) /
もともとの計画ではオーストラリアにも寄港する予定で用意もしていましたが、時間が押して今回は涙を飲んでカット。太平洋を横断してアジアです。
この韓国の男女のデュオは hatao さんがフルートやホィッスルに関する情報などをやりとりする中で知り合ったそうです。日本人がこれだけケルト音楽に親しむのだから、アジアの他の地域でもいずれケルト音楽を自分たちの音楽として演奏する人たちが出てくるはずと思っていましたから、この音楽には喜びました。台湾にも hatao さんの生徒さんがいるそうで、放送収録の直前にもかれは台湾にツアーに行かれています。これからいろいろ出てくるでしょうし、大陸からも当然出現するでしょう。ケルトの音楽がどこまで広がるか、興味のひかれるところです。
ファーストはインスト中心の自主制作でしたが、このセカンドは自作のうたを中心にして、韓国ソニーからのリリース。こういう形の日本語のうたも聴きたいものです。
Japan
29. A Punch in the Dark/Barry's Trip to Paris / hatao & nami // Silver Line
さて、今回の旅も日本にまでもどってきました。まずはゲストの hatao さんの最新の録音から1曲。大阪のシャナヒーのリーダー nami さんのピアノとのデュエットです。
30. 丘の上にて〜ダニー・ボーイ / 奈加靖子// Sign
しめくくりは Bard への日本語からの回答と言えそうな奈加靖子さんのうたです。この歌詞は奈加さんのオリジナルですが、とりわけ低くした声域とあいまって、とかく感傷に流れがちなこの曲を、「大人の鑑賞」に耐えるもう一つの次元にあげていると思います。
ということで、ケルト音楽世界の一端を駆け足でめぐってみました。ほんとうはそれぞれの地域でサマースペシャルが組めるわけです。アイルランドだけがケルトであるわけでもありません。もちろんこれで終わりでもなく、むしろどこでも音楽はますます元気です。録音、録画をはじめとしたリソースもたくさんあります。ケルトの広がりを多少とも感じ、1曲でも心の琴線に響く音楽があれば幸いです。(ゆ)
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