Winds Cafe 215「メランコリーの妙薬」無事終了しました。ご来場くださいました皆様、ありがとうございました。

 いろいろと計算違いがあり、本来休憩を入れても2時間半ですむはずのものが、延々4時間におよぶという体たらく。さらに、「妙薬」にはまったくならず、というより当初意図した「妙薬」にはならず、やはり「メランコリー」を治す薬にどうやらなってしまいました。ご期待にそえず、また広げた風呂敷に中身を盛ることができず、お詫びもうしあげます。

 とまれ、当日かけました15曲のうたとシンガーについての解説をあらためて書いていきます。歌詞もうたわれているものになるべく近いものに改めました。


 参考文献として、The Penguin Book of English Folk Songs (1959、以下この一連の解説では PBEFS) と The New Penguin Book of English Folk Songs (2012、以下 NPBEFS) をまず挙げておきます。

 前者はヴォーン・ウィリアムスとA・L・ロイドの編集になるもので、出版以来、イングランドの伝統歌をうたいたい人びとにとってバイブルとなり、様々な形でイングランドのフォーク・リヴァイヴァルに絶大な影響を与えました。われわれのような聴くだけの人間にも、頼りになる種本でした。というのも、イングランドに限らず、ブリテン、アイルランドの伝統歌のレコードには歌についての解説はあっても、歌詞が付いているものはほとんど無かったからです。英語もろくざま聞き取れない人間には、こうした歌詞集はたいへんありがたいものでした。ここに掲載されている歌詞そのままにうたわれていることも少なくなかったからです。収録曲数は70。

 ペンギンが絶版にした後、しばらく入手が難しかったのですが、2003年に English Folk Dance and Song Society の委嘱で、Malcolm Douglas が解説を大幅に増補改訂して、CLASSIC ENGLISH FOLK SONGS として再刊しています。

Classic English Folk Songs
English Folk Dance & Song Society
2003-12

 

 The New Penguin Book of English Folk Songs は Steve Roud と Julia Bishop の編纂になり、2012年にハードカヴァー、今年ペーパーバックで出ました。ラウドは永年 EFDSS の伝統歌データベースの構築に携わり、このデータベースに収録されている歌にはそれぞれ Roud 番号がついています。ビショップはここでは主にメロディなど音楽面を担当しています。収録曲数は旧版の倍以上の151曲。編纂方針は異なりますが、重複するものもあります。


 

 もうひとつ Child 番号について。今回聴いていただいたうたのうち、01, 02, 03, 10 はいわゆる「チャイルド・バラッド」でそれぞれチャイルド番号がついています。アメリカの文献学者 Francis James Child が THE ENGLISH AND SCOTTISH POPULAR BALLADS, 5 vols, 1882-1898 を編纂しました。英語の口誦伝承バラッドのそれまでの研究成果を集大成したものとして、おおいに重宝され、後世の研究や演奏にも大きな影響を与えました。ここに収録された 305 曲のバラッドを、チャイルドがつけた整理番号で呼ぶのが慣習になっています。

 ラウド番号やチャイルド番号がつけられたのはなぜか。口誦伝承で伝えられているうたは、当然「正調」がありません。どれも少しずつ歌詞やメロディが違っています。内容、ストーリーは同じながら、舞台設定や登場する固有名詞をはじめとする細部、さらにはタイトルが異なることも、ごく普通のことです。こうしたヴァリアント=異版を束ねて、同じグループであることを示すのが、こうした番号です。もちろん絶対的なものではなく、厳密なものですらありませんが、こうした物差しがあるといろいろと便利でまた面白くなることもあります。
 

 まずはあらためて、当日聴いていただきました曲目を掲げます。
順番、曲名、シンガー名、アルバム名、発表年、作者です。


01. Golden Vanity, Bob Fox, The Blast, 2006, Trad.
 
02. Sir Aldinger (Child 59), Chris Foster, Outsiders, 2008, Trad. + Chris Foster

03. The Lady Of York, Chris Wood, Trespasser, 2007, Trad.

04. The Dalesman's Litany, Dave Burland, A Dalesman's Litany, 1971, Trad.

05. Why Old Men Cry, Dick Gaughan, "Far, Far From Ypres", 2008, Dick Gaughan

06. Sailing to Australia, Dougie MacLean, Butterstone, 1983, Dougie MacLean

07. Wild Rover, Jim Causley, Lost Love Found, 2007, Trad.

08. L & N Don't Stop Here Anymore, Jimmy Aldridge & Sid Goldsmith,
Let The Wind Blow High Or Low, 2014, Jean Ritchie

09. Wild Rover, Mick West, A Poor Man's Labour, 2004, Trad.

10. The Bonnie Banks Of Fordie (Child 014), Nic Jones, Ballads (Anthology), 1997, Trad.

11. Moon In The Glass, Paul Stephenson, Light Green Ball, 2002, Paul Stephenson

12. The Folkstone Murder, Pete Castle, False Waters, 1995, Trad.

13. Fair And Tender Lovers, Roger Wilson, Stark Naked, 1994, Trad. & Roger Wilson

14. The Wind That Shakes The Barley, The Alias Acoustic Band,
1798 - 1998 Irish Songs Of Rebellion, Resistance & Reconciliation, 1998, Trad.

15. Boots Of Spanish Leather, Tony Rose, Bare Bones, 1999, Bob Dylan


 今回の15曲のうち、伝統歌は9曲。05, 06, 08, 11, 15 は20世紀以降に作られたオリジナル曲です。05、06 はスコットランド人、11 はイングランド人、08、15 はアメリカ人の手になります。

 枕はこのくらいにして、次回から個々のうたに入ります。(ゆ)