ニール・ヤング、えらい!
正直、危惧していたところもあったんです。かれがやっているのははっきり言って爆音で、なん十年もあんな音でやっていたら耳がいかれてもおかしくはない。実際、補聴器のお世話になっているロック・ミュージシャンも少なくないと聞きます。
しかし、これを聞くかぎり、ニールの耳はまっとうです。やっぱり、ちゃんと気をつけて、十分休めたり、メンテをしたりしていたんでしょう。アコースティックのセットを入れるのも、そういう要素もあるのかもしれません。
ぼくがこれに飛びついたのは、ニールのファンであることや新しもの好きは別としても、これがミュージシャンが企画し、音決めの中心になっているという点で、ひじょうに稀な、ひょっとすると史上初めてのオーディオ装置だ、ということがありました。音楽もやるエンジニアが造ったものやミュージシャンが協力したものはあったでしょうが、ミュージシャン自身がゼロから企画して製品化したプレーヤーは、少なくともコンシューマ・レベルではほとんどないんじゃないか。
一番近いものとしては、ヘッドフォンにおける Beats でしょう。ミュージシャン自身が、わたしの、おれの音楽はこれで聴いてくれ、というツール。
まだ使いだして数時間ですが、当面メインのリスニング環境になるでしょう。音が良いとか、音質の良し悪しということよりも、聴いていてとにかく気持ちがいい。どんどん音楽を聴きたくなります。ぼくにはこれがどんなものよりも確実な基準なのです。
試聴して、凄い音だなあ、と感心はしても、ずっと聴きつづけたいとは思わない音を聴かせる装置は少なくありません。というよりも、そういうハードの方が多い。こりゃすげえ、と一目惚れして買いこんでも、しばらくは夢中になっているが、いつの間にか使う頻度が減っている、という体験を何度もしています。
別の言い方をすると、PonoPlayer はとても「楽な音」を聴かせてくれます。録音されている音が、ひとつ残らず、しかも無理なく、耳に入ってきます。気を張って、さあ聴くぞ、と神経を集中させるなんてことをしなくても、音楽の各要素が、それぞれ適切なバランスで、ありありと立体的に聞こえてきます。そして、全体として、音楽を聴くことがとても楽しい。快感です。ほんのちょっとしたデターユに、背筋に戦慄が走ります。今は試しとして、聞き慣れた曲を聴いているわけですが、さんざんいろいろなハードで聴いた曲で、ああ、ここでこの楽器がこんなことをやっていたのか、とあらためて教えられます。それも、さあどうだ、こいつを聴けえ、という押しつけがましさは皆無。さりげなく、ごくあたりまえのこととして、さらりと奏でられる。発見しながら、あっと驚くのではなく、するりと納得してしまっています。
そういう意味では音が変わることを喜ぶオーディオ・ファンにはあまりお好みではないでしょう。音よりも音楽を聴きたい、それもなるべく良い音で聴きたいリスナーが適当なDAPを探しているのなら、第一候補になると思います。
192/24までのサポートというのも、スペックを良くすることよりも、ミュージシャンが聴かせたい音楽を聴いてもらうにはこれが必要ということなのでしょう。
本体のメモリにはニール・ヤングの《ハーヴェスト》のタイトル曲が入っています。これはハープも含めたフルオケをバックにニールがうたう形ですが、こんな曲だったのか、とこれには驚きました。このうたのバックとしてフルオケがふさわしいと判断したその意味がようやくわかりました。それはおまえが鈍感だからだと言われればその通りですが、そういう鈍感なぼくでも否が応なくわかってしまうくらい、この音には説得力があります。
ならばCDレベルやMP3では全然話にならないのかといえば、むろんそんなことはありません。それまでダメだった音が192/24になったとたん、いきなり良い音になるなんてことはありえません。どんなタイプのファイルでも、気持ちよく、楽に、デターユに満ち、生き生きとした音楽を楽しめます。ただ、レゾリューションが上がれば、デターユを描く精度が上がり、立体感がより鮮明になり、音に込められたエネルギーがより大きくなります。
イヤフォンは音茶楽の Flat-4 粋、FitEar、ヘッドフォンは Yuin G1a です。ちょっと心配していた、敏感なイヤフォンでのノイズもありません。
対応インピーダンスは見当りませんが、Yuin G1a はインピーダンスが150オームで、まったく問題ありません。Pono のフォーラムではベイヤーの DT990 Pro で Momentum を圧倒する音が聴けたという報告があります。これは250オームです。Oppo PM1 を試した人もいました。音質の好みはともかく、ドライブには直刺しで問題なかったようです。
タッチパネルの反応は上々で、これまでのDAPで最もきびきびした動きです。敏感すぎることもありません。
断面が二等辺直角三角形になる角柱は案外手になじみます。また、テーブルなどに置いた場合も安定し、かつ、ぺたっと寝た形よりも場所をとらない気もします。
重さははじめ見かけよりも軽く感じますが、持っていると適度な重みがあります。
メモリは内蔵が64GB。マイクロSDカードは128GBまでサポート。Grateful Dead 限定版には64GBのカードが付属し、これに《WORKINGMAN'S DEAD》全曲と《TERRAPIN STAITON SUITE》というタイトルで6曲入ったアルバムが収録されています。ともに192/24のflacファイルです。上記のニール・ヤングの〈ハーヴェスト〉は内蔵メモリに入っています。
バッテリーは4時間でフル充電、とマニュアルにあります。持続時間は書いてありません。まだわかりませんが、かなり長そうです。スリープ状態では1週間保つそうです。
ファイル・タイプとしては主なところはOKです。cue sheet はわからないので、質問を投げています。
それにしても、シングルエンドでこの音とすると、バランス化したらどうなるのか。実に楽しみになってきました。(ゆ)
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