結局バンド名の由来を訊くのを忘れた。なんでもないような名前だが、一度聞くと忘れがたい。まさに彼女たちの音楽そのままの名前ではある。
昨年夏に一度、鎌倉でライヴを見ているが、当然のことながら、まるで別のバンドに成長していた。CDは聴いていたのだが、どうも結びついていなかった。生の演奏を見るのにはこういう効用もある。聴いている音楽とそれを演っている生身の人間が重なりあい、焦点が定まるのだ。
まず目を瞠ったのは中藤さんのおちつき。そう思ってみると、彼女のライヴ演奏を見るのはこれが初めてだった。tricolor はなぜかいつも行き違ってしまって、いまだに見ていない。この姿を見ると、これはあちらもぜひ生を見なくてはと褌を締めなおした。
あれはもう5年前になるのか。奇しくも同じ霜月三十日、表参道の Cay で行なわれた Tokyo Irish Generation のレコ発ライヴの司会をしていたのが中藤さんだった。自分でもこんなところにいるのが信じられない、というような初々しい司会ぶりだったと記憶する。
それがどうだろう、風格すら漂わせた佇まい。tricolor の《旅にまつわる物語》での彼女のフィドルの深さには驚嘆していたが、なるほど、これならばさもありなん。生で聴くフィドルもコンサティーナも、それはそれは豊かな響きで、このトリオでも土台をささえている。
須貝さんも、一度上野の水上音楽堂で、豊田さんとのトライフルを聴いただけで、あの時はステージは遙か彼方だったから、この近距離では初めて。今回は作曲もいくつも手掛けていて、それがまた良い。アイルランド留学中の淋しさから生まれたものが多いようだが、人間、一度はとことん孤独になるのも悪くはない、と思わせる。
梅田さんのハープは生梅でも見たし、ゲーム音楽のライヴでも聴いているが、今回は彼女のオリジナルが中心でもあり、演奏でもいろいろ面白い試みをしている。1回弦を弾いた音をレバーを上下させて変化させるのは初めて見た。彼女も大好きというスコットランドの Corrina Hewat は目にも止まらぬ早業で複雑にレバー操作を繰り返す名手だが、そのヘワットでもこんな技はやったことがないだろう。
伝統楽器はどれも制限があり、そこが面白いところなのだが、ハープという楽器のもつ制限はその中でも他とかけ離れたところがあって、他の楽器と合わせるのが難しい。ハープの入ったアンサンブルは、現地でもあまりない。チーフテンズとスコットランドの Whistlebinkies、ウェールズのかつての Ar Log や最近の Calan ぐらいか。そういうところから見ると、梅田さんはハープの限界を拡げることに熱心なようでもあり、むしろアラン・スティーヴェルに近いかもしれない。今のところ、エレクトリック・ハープを使うつもりは無さそうだが、いつか聴いてみたい気もする。
それにしても、こうして生で聴くと na ba na のオリジナルはどれも佳曲だ。確かに静かな曲ばかりだが、耳に優しいだけでなく、耳に残る。耳だけでなく、胸にまで落ちてくる。いつまでも聴いていたくなる。
他でも書いたことだけれど、tipsipuca の高梨さんや、大阪の nami さんも含め、すぐれた作曲家の出現は嬉しいかぎりだ。
このタワー6階のインストア・ライヴはワールド・ミュージック担当のカツオ氏の企画・進行によるが、若い女性ばかりのトリオを前にして、いささかやりにくそうではある。あるいはこういうアイリッシュやケルト系の音楽は、これまでインストア・ライヴでやってきた音楽とは性質が違うのかなと思ったりもするが、ぜひぜひこれからも続けていただきたい。当面次は年明け、1月16日(土)(日)15:00 の奈加靖子さんが決まっている。
奈加さんの新作《BEYOND》は、ライナーを書いた手前あまり大きな声では言えないが、傑作です。ぜひ、このタワーレコードで買うてくだされ。渋谷まで行けない人は下のリンクからどうぞ。
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