shezoo さんのライヴに通っているのはまず彼女のつくる曲がおもしろいからだ。たとえばトリニテのセカンド《月の歴史》のタイトル曲でもある〈ムーンズ〉。はじめはトリニテで聴いたのでインスト曲だったが、後で歌詞もついたうたであることが、あれは昨年末やはりエアジンのラスト・ライヴで判明して、驚くとともに喜んだ。この日は編成もメンバーも変わってまた別の音楽。そして今回のハイライトでもあった。
訊ねてみたら、うたはうたとしてやってくるのだそうだ。詞かメロディがどちらが先ということもない。もっとも曲は「上」から降りてくるので、一応そちらが先といえるかもしれないが、詞もほとんど同時に出現するらしい。〈ムーンズ〉は2つの月のうたなので、地球上の話ではない。太陽系内の話でもないだろう。どこかにはあるはずの、しかしまだ肉眼では見られない世界。このうたの中にだけある世界だ。ちょっとレトロ・フューチャーな雰囲気のメロディとの相乗効果で、聴くほどに名曲になってきた。
昨年末のユニットは好評で、本人たちも手応えを感じたのだろう、プリエとして続けることになったのだが、メンバーの事情で継続が難しくなり、編成を変えて仕切りなおしになったのがこの日のユニット。前回からはサックスのかみむら泰一さんが残り、あとは一新。ヴァイオリンが入ったのが目新しいが、ベースレスは変わらない。シニフィアン・シニフィエの水谷浩章氏はジャズ・ベースというよりは、クラシックのコントラバスに近い。どちらの要素も兼ね備えているところが、あのバンドでの水谷さんの面白いところ。
shezoo さんのピアノがベースの代わりをしてしまうせいもあるのだろうが、shezoo さんが起用する打楽器奏者はみな多才で、ベースの不足を感じさせない。トリニテではフロントの二人を立てているのか、サポートに徹している小林さんが、この日は爆発していた。見ようによってクールとも見え、またいかにもつまらなそうにも見える表情、あるいは無表情で、しかしそのカラダからは切れ味の鋭いフレーズが噴出する。
ヴァイオリンの多治見智高氏は25歳だそうだが、髭のせいか、30以下には見えない。演奏も若さだけでなく、一本、筋が通っているし、したたかさもあるようだ。いろいろな編成や音楽で見てみたい。
サックスのかみむらさんはあいかわらずテンションが高い。リハーサルからすでに本番なみだ。いつも椅子に座っているのはなぜか、訊ねようとおもっていて今回も忘れた。というのも演奏が佳境に入るといかにも座りごこちがよくないように見えるからだ。ついには立ち上がってしまうが、だったらはじめから座らなくてもいいんじゃないかと思うのは素人の浅はかさか。それとも座らないと火が点かないのだろうか。
ヴォーカルの松本泰子さんが個人的にはハイライトだった。強い声と振幅の大きな表現力の持主で、〈ムーンズ〉がまるで彼女のために書かれたうたのようだ。〈The Water Is Wide〉も良かったが、このユニットならこのうたはもう少し違うアプローチでやってみてもいいのではないか、とも思う。たとえばおもいきりアップテンポとか、モロ・フォービートとか。松本さんは若々しくチャーミングでもあって、多治見氏より年上の息子さんがいるとはとても見えない。旦那さんが常味裕司氏と組んでいる和田啓氏だそうで、そちらのユニットでウンム・クルスームもうたっているというから、それも見なくてはいけない。見なくてはいけないものがこうして芋蔓式に増えてゆく。
まだ名前のないこのユニットはすでに次回のライヴが決まっているそうだ。5月にやはりこのエアジン。
5時半過ぎにライヴが終った後はエアジンの打ち上げ。うまいワインが次から次へと出てきて、極上のキッシュがふるまわれ(どちらも常連客のさしいれ、キッシュは自家製。ごちそうさまでした)、ひさしぶりにだいぶ飲んでしまった。とてもここでは書けない話もたくさん聞く。
かくて今年もめでたくライヴじまい。あとは片付けと大掃除。来年ものらりくらりと、旨い音楽を求めていきたい。今年、すばらしい音楽を聴かせてくださった音楽家の皆さま、まことにありがとうございました。皆さまの上に音楽の女神の微笑まれんことを。来年もまたよしなにお頼みもうします。(ゆ)
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