前二者は『ローカス』の推薦リストと重なるところも多いが、もちろん独自のものもある。
英国SF作家協会賞では
Novel
Chris Beckett, Mother of Eden, Corvus
Short stories
Paul Cornell, “The Witches of Lychford”, Tor.com
Gareth L. Powell, “Ride the Blue Horse”, Matter
がローカスのリストにはない。それにノンフィクション部門はほとんどが雑誌などに発表された短かいものなので、『ティプトリーへの手紙』以外は重ならない。
『アシモフ』誌の方はローカスのリストにあって読者賞の候補にないものもある。これも当然ではあるが、このあたりを読み比べるのも面白い。大部分が PDF の形でネット上に公開されている。
ディトマーはオーストラリアのヒューゴーに相当する賞で、対象はオーストラリア国籍または在住の人の作品と業績。挙がっている作品はほとんどが他では見ない。発表媒体では Tor. com と F&SF が重なるくらいだが、どちらの作品もローカスの推薦リストには入っていない。こういう視点の多様性はここでも大事。この賞に付随する賞として批評作品に与えられる William Atheling Jr 賞の候補に『ティプトリーへの手紙』が入っているのが目を引く。これ、どこか邦訳を出さんかねえ。それぞれの書き手によって訳者を分けて。
一方、ようやくローカスのリストの作品を読みだした。まずは Tamsyn Muir, The Deepwater Bride。F&SF, 2015-07+08号掲載のノヴェレット。タムシン・ミュアーはニュージーランド出身で、アメリカを経て今は英国在住。ISFDB によれば発表した作品はこれが4作目。これまではネット・マガジンで、紙の雑誌には初登場。最近作は Lightspeed に短篇がある。Clarion 2010 の卒業。
話は異界の王が花嫁を娶りにやってくるお伽話のヴァリエーションで、地球温暖化と LGBT をからめたところが斬新。加えて、語り手の高校生が未来が見えてしまう女性の家系の一人というのも面白い。未来は見えるが、見えたことを「予言」しても未来は変わらない。唯一、自分がいつどうやって死ぬかは見えない。ただし、長生きできないことだけは先例からわかっている。こういう存在にとっては日常は退屈そのものになり、それを破るものに関心を持つのも自然ななりゆき。したがって、海底の王が花嫁を娶りにやってくるという事態が「見えた」とき、花嫁候補を探しにでかけ、候補に目星がつくとその相手につきまとうのもまた当然ではある。つまりこれはほとんど純粋なラヴ・ストーリーなのだが、それをそうと感じさせない語り口はなかなかのものだ。他の作品も読みたくなる。もっともこれが昨年のベストだ、とまではいかない。
余談だが、海底の王がやってきて街が水没するというのは『十二国記』序章の『魔性の子』のラストにシチュエーションがそっくりだ。ただし、こちらはむしろユーモアたっぷりで、読みながら何度も吹き出してしまう。
続いては Jeffrey Ford, The Winter Wraith。F&SF, 11+12月号掲載の短篇。今からすれば一昨年の冬の寒さがとても厳しく、乗り切るのに難儀したということをキット・リードとネット越しにしゃべっていて、リードがふと "the Winter Wraith" という文句を出した。それって、短篇のタイトルとしてはすてきじゃないか、と返すと、どうぞ、やってみなはれ、と言われたので書いたのがこれ。ということで、大平原の真只中に一軒だけ建つ家のクリスマス・ツリーがおかしくなる、というところから話が始まる。ホラーというよりも怪談の趣。ただ、オチがない。どうも近頃の短篇にはオチがないものが結構あるように思う。そりゃ、確かにオチがなくちゃならないというのは一昔前の、いわば前世紀的な考えで、一つの作品として完結していればオチは必要ない、というのはわからないでもない。これも別に煽っているわけではない。しかしどうも話が尻切れトンボのように、ポカンと放りだされてしまうのはやはり腑に落ちないのだ。それともこちらの読み方が間違っていて、これはそもそもそういう話ではなく、むしろ法螺話、ダークなユーモア綺譚というべきものなのか。それとも筋で読む話ではなく、雰囲気にひたるべきものか。
フォードの作品は The Coral Heart、それで斬られると真赤な珊瑚になって死ぬという妖剣とその持主の話、ムアコックのストームブリンガーのパスティッシュから出発しているソード&ソーサリーものが良くて、あちらではちゃんと話にケリをつけていた。もう一篇、Tor.com に発表されたノヴェレット The Thyme Fiend がやはりローカスのリストにある。この人は1981年にデビューしているが、本格的に書きだしたのは90年代、40代後半からだ。ウルフとかマッキリップ、シェパード、ジョン・クロウリー、ポール・パークといった書き手に肩を並べるとのことで、いずれちゃんと読もう。(ゆ)
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