アイリッシュをやる人にあまり昏い印象の人はいないが、この人たちほど演奏するのが(それに作曲するのが)楽しくてしかたがない様子を見せる人たちもあまりいないんじゃないか。まるでシャロン・シャノンが4人集まったようだ。
フィドルの酒井絵美、ホィッスルの高梨菖子、ブズーキの岡皆実、バゥロンの成田有佳里という女性ばかりのカルテット。アイリッシュでなんで「らくだ」なのだ、というのは訊くのを忘れた。
酒井さんと高梨さんはティプシプーカで見ていて、その二人が別働隊で「きゃめる」というバンドをやっていることは聞いていたが、活動が主にアイリッシュ・パブというので、誘われでもしないかぎり呑みに行かないあたしはこれまで見るチャンスが無かった。いざライヴに接してみると、これを見るためだけにパブに行ってもいいじゃないかという気になりましたね。
彼女たちの作るオリジナル曲はどれも面白く、楽しいが、昨日のハイライトは2曲めにやったトラディショナル・リールのセット。まるでもうラストという勢いと高梨さんが言っていたが、演っていてどんどんノってくるのがよくわかる。リズムというより躍動感が増してくる。といって粗くなることもない。うーん、これはええで。これはいいよ。
ティプシプーカもいいんだが、比べてみるとあちらはフロントとバックの役割分担がはっきりしている気がする。それはボシィ・バンドのスタイルでもあるので「王道」と言ってもいい。一方、きゃめるは4人が一体になってくる。1個のバンドとしてはずむ。
昨日一番感心したのはブズーキの岡氏で、一見黙々と弾いているのだが、かなりユニークに聞える。日本では珍しい女性ブズーキ奏者というが、世界でも珍しいだろう。わが国には赤澤淳という世界の至宝がいるせいか、それとも女性というところがからんでいるのか、リズムを刻むよりもリフないし裏メロでフィドルとホィッスルをうまく浮上させる。ドーナル・ラニィでもアレック・フィンでもない。アルタンのキアラン・カランとか、ダーヴィッシュのマイケル・ホームズあたりが一番近いかとも見えるが、似ているとまでは言えそうもない。このバンドの肝はこの人だろう。もっと他との組み合わせも聴いてみたい。
3月15日にはレコ発の正式のライヴがあるそうで、これは行かねばならない。
きゃめる@さんさき坂カフェ台東区谷中5-4-1403-3822-05273月15日(火)open 19:30/ start 20:00予約2,500円 当日3,000円(1ドリンク付)予約・問合せ info (at) camelmusic.net
それにしても、このタワレコ渋谷でのインストア・ライヴに通っていると、女性たちの活躍がめだつ。男もいないわけじゃないが、主役を張っているのはみな若い女性たちだ。男のフィドラーって誰かいたっけ、と考えこんでしまうくらいだ。それともどこか場末のバーで、一人くら〜くしこしこ弾いている男がいるのだろうか。それも人生だから、無理に出てこいとは言わない。無理に出てこなくても、この人たちがいれば、あたしなどは十分だ。あいかわらずクソったれな世の中だが、こういう人たちの演奏に接すると、ココロはればれ、明日もぼちばちまいりましょうという気になる。いや、ありがとうございました。
そうそう、このインストア・ライヴはきゃめるのミニ・アルバム《Op.1(オパス・ワン)》発売を記念してのこと。渋谷のタワーレコードに行って買いましょう。行けない方は下のリンクからどうぞ。
その昔、高田馬場に「オパス・ワン」という輸入盤屋があって、アイリッシュはじめ、ヨーロッパのトラディショナル音楽のレコードが都内で一番充実していた。あたしなど週に一度は通っていたものだ(遠い目)。(ゆ)
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