ようやく風邪が抜けかかったところで、本調子には遠いが、今回はスナーキー・パピーの特集とあっては休むわけにはいかない。薬をもち、冷房対策の上着を抱えてでかける。店内でも上着を着ていたら、なんとか保った。

 前半はユニバーサルの斉藤さんによるスナーキー・パピーのレーベル GroundUp からの新作紹介。まずは当のスナーキー・パピーの最新作《CULCHA VULCHA》から2曲。ここでかかった〈Go〉は後半でかかった《WORLD TOUR 2015》のツアー中に披露され、ツアーが進むにつれてこれが熟成してゆく過程が聴ける。この新作はかれらとしては初めてスタジオ録音できっちり録っていて、この曲もいわばひとつの「完成形」になるのだろう。リズムなど、曲の基本構成を聴くにはよいかもしれない。

 2番目は、今年6月のスナーキー・パピーの来日で前座をつとめ、好評だったという Michelle Willis のデビュー《SEE US THROUGH》。イングランド生まれでカナダ、トロントに住むそうで、シンガー・ソング・ライターとしては今どきのサウンド。英国のリリシズムはしっかりあるが、うーん、何度か聴きかえすと良くなるかなあ。

 面白かったのは次の Charlie Hunter で、7弦ギターだそうだけど、鋭角的で跳躍の多い、ノンリニアなフレーズを連発して、楽しいブルーズを聴かせる。トロンボーンとコルネットという編成も珍しい。ドラムスが例によって秀逸。買っちゃいました。

 チャーリー・ハンターもベテランだそうだが、次の The Funky Knuckles も、R&B、サウルのビッグネームのバックバンドを勤める人たちが作っているファンク・ジャズ・バンドだそうで、まあ、皆さん達者だ。このクラスになるとただウマイだけ、なんてことはありえない。ちゃんと音楽を楽しく演り聴かせるコツも体得している。ちょっとはしゃぎすぎのところもないこともないが、それもまたよし。斉藤さんもおっしゃるごとく、スナーキー・パピーよりずっと年上のはずだが、やってることはもっとハードなところがある。

 個人的に興味深かったのはラストの House of Waters。ハマー・ダルシマーと六弦ベースのデュオが基本で、これにパーカッション、曲によりチェロやフルートが参加する。ベースはモト・フクシマという、バークリーで上原ひろみと同級生だった人で、ずっとニューヨークで活動しているのでわが国では知られていないらしい。ハマー・ダルシマーの Max ZT とニューヨークの地下鉄構内でのバスキングで名を上げ、この度、GroundUp から録音デビューになった由。

 Mat ZT のダルシマーの腕そのものはそれほどうまいとも思えないが、こういうスタイルで使うのはおもしろい。もっともかかった曲の後半はケルト調のダンス・チューンのフレーズがとびだして、お里が知れる。小松崎健さんがやればもっと面白くなるだろうけど、それはこの際、脇に置いておこう。

 さて、後半はスナーキー・パピーが昨年出した《WORLD TOUR 2015》から4トラックを選んでノンストップでかける、という趣向。4トラックで1時間になる。

 このボックス・セットは昨年の9月12日、テキサス州オースティンに始まり、11月16日チリのサンチャゴに終るライヴ49本をまるまる録音したもののなかから16本を選んでリリースしたものだ。この16本も含め、49本すべてがダウンロードで買える。ハイレゾ・ファイルもある。

 この16本を個々に買うよりもボックス・セットで買った方が安い。ボックス・セットを買うと 256kbps の MP3 ファイルをダウンロードできる権利もついてくる。

 なお、このワールド・ツアーそのものとしては、初日だけがなぜかリリースされていない。録音にトラブルがあったか。

 個々のライヴは各々CD2枚組で1時間半から2時間、ノンストップだ。曲目リストを見ると同じような内容に見えるかもしれないが、個々のライヴは全部個性が明確で、同じことの繰り返しにはまるで聞えない。やはりツアーが進むにつれて、調子が上がっていくようで、演奏時間も長くなる。

 聴いてゆくと、グレイトフル・デッドに一番近い。うたが無いのが惜しいが、そういうことも気にならないくらい演奏の質が高いし、楽曲も面白い。ジャンルは完全に無意味で、こんなのジャズじゃねえとか、最高のファンク・バンドだとかいう枠組でとらえようとするのはやめた方がいい。大所帯バンドではあるけれど、ライヴでの組み合わせは自在だし、曲調も常に千変万化し、また同時に複数のジャンルのスタイルが同居、融合している。

 よくわかっている人が聴けばジャズの伝統、たとえばエリントン・バンドとか、モンクとか、あるいはマイルスとかの谺を聴きとることも可能だろう。一方でシンプルにそのポリリズミックなビートにひたすら酔うという聴き方もできるだろう。

 デッドで味をしめていたから、こういうボックスを出すのならば聴いてみましょうと思ったのは大当り。完全に惚れ込みました。ボックス・セットを聴きおえたので、ここには入っていないその他の33本もダウンロードして聴いていこうと思っている。

 いーぐるではこのボックス・セットを購入し、今日から毎日2回に分けて1枚ずつかけてゆくそうだ。時間に余裕があれば、ぜひ通うことをお薦めする。もっといいのは旧譜のハイレゾ盤なんぞ捨てて、これを買い、今、一番面白いバンドのツアーに同行することだ。

 このライヴ録音はサウンドもすばらしいが、いーぐるのシステムで聴く、このボックスの音は格別で、いい音楽をいいシステムで聴ければ風邪も治ってしまう。


 この新譜リスニング・セッション、次回は9月21日(水)、ロバート・グラスパーの新作が出るそうで、それに合わせてかれとその周辺を特集する由。斉藤さんによれば今やスナーキー・パピーとともにジャズの最先端を引っぱるグラスパー(あたしだって名前くらい知っている)だから、次も楽しみ。(ゆ)