こうしてあらためて見ると、アンサンブルや曲のアレンジ、全体の提示つまりプレゼンテーションということでは、例えばジョンジョンフェスティバルはチェリッシュ・ザ・レディースよりも今は上になっている。チームワークと多彩なフォーメーションで勝負するというチーム・スポーツの世界ではすでに定評になっている性格がここでも出ている。

 チェリッシュ・ザ・レディースや We Banjo 3 のライヴは、正直、これを1時間半続けられて楽しめるか、自信はない。もちろんその時にはそれなりの組立てをするだろうが、基本的にはユニゾンとソロしかなく、これをどう組み合わせるかになる。テンポ、音量の大小の変化はまずない。

 それよりは個々のミュージシャン、ジョーニィ・マッデンなり、ナリグ・ケイシーなりの、これはもう卓絶したミュージシャンシップを押し出す。それはそれでいわば一点突破の凄みがある。ケルティック・カラーズのジョンジョンフェスティバルの2本めで共演した地元の若い女性フィドラーのあの凄みだ。これはおそらくわが国出身者では逆立ちしてもかなわない。

 シャロンもそうで、やはり彼女のミュージシャンとしての凄みが現れるときがハイライト。今回それが現れたのは最後の〈Music for Found Harmonium〉のそれも後半で、箍のはずれたあんな演奏は彼女にしかできない。アコーディオンという楽器の限界も消えてしまう。直後にアンコールのために出てきた Dreamer's Circus のアコーディオン奏者が、もう降参というように首を横に振りながらシャロンに歩み寄ってハグしていたのにはまったく同感。

 これに比べてしまうと、他のメンバーは文字通りサポートでしかなくなってしまうのは気の毒ではある。中でフィドラーのヴォーカル・パーカッションがなかなかに面白かったが、アンサンブルのなかに組込みきれていない憾みがある。パーマネントなバンドではないゆえか。

 その Dreamer's Circus は今回の目玉で、最も期待していたが、その期待は裏切られなかった。これは単独公演を見たかったと後悔しきり。やはりデンマークならではで、こういう形のバンドはアイルランドではまず出てこない。かなりジャズの語法をとりいれているところ、いかにも大陸ヨーロッパ的である一方、大陸のもつ洗練への志向が生み出すバランスが効いている。こうなると録音よりライヴのバンドだ。

 それにしてもジョーニィ・マッデンのはじけぶりにはいささか驚いた。呆気にとられた。あんなに「ヤンキー」な人だったか。この人の演奏はむしろスローな曲の方が良いと思っていたし、実際1曲だけやったスロー・エアがハイライトだったが、録音とのイメージの落差はダギー・マクリーン級だ。いささか常軌を逸するほどの陽気さだけでなく、ほとんど1小節ごとにみえるくらい頻繁に楽器を換えるのも尋常ではない。

 ただ、やはりこのバンドの最盛期は1980年代末から90年代前半、アイリーン・アイヴァースやメアリ・ラファティがいた頃だとは思う。チーフテンズもそうだが、バンドとしての黄金時代は初期にあって、それは二度とは来ないものなのだ(デッドは例外)。このバンドが続いているのも、マッデンおばさんのリーダーシップだろう。最後の全員でのアンコールでも、仕切っていたのはマッデンだった。

 残念だったのは、PAにいささか問題というか、楽器のバランスがよくない。シャロンのバンドもチェリッシュ・ザ・レディースも、全体でやっている時のフィドルはほとんど聞えなかったし、ダンサーのタップの音も小さかった。ホールの問題だろうか。

 午後3時の開演は日曜にしても早いと思ったら、終演後、セッション・パーティーがあり、豊田ケイリ・バンドがコア・プレーヤーとして招かれていた。あのメンツなら、さぞかし盛り上がったことだろう。このパーティーのチケットが真先に売り切れたそうで、プレーヤーだけでなく、リスナーとして来る人も多かったらしい。あたしはまだ仕事が残っていたし、チケットも持っていなかったから、早々に退散。

 豊田さんとは休憩の間、ちょっと話すことができた。ポートランドでの O'Jizo の録音は、録音自体も順調だっただけでなく、いろいろと収獲があったようだ。これから様々な形で現れるだろう。まずは間もなく出るだろう O'Jizo の新譜が楽しみだ。

 例によって物販も豊冨で、チェリッシュ・ザ・レディースのシンガーの、出たばかりのソロとナリグが姉妹で出したCDを買う。五十嵐正さんが永年とりためたアイリッシュ・ミュージシャンたちへのインタヴューをまとめた『ヴォイセズ・オブ・アイルランド』も出たばかりで並んでいた。雑誌に発表されたものも、元の録音にもどって起こしなおし、加筆したそうだから、これも楽しみ。(ゆ)