みんな、うまくなったなあ、というのが第一印象。従来は技術的には酒井さんが突出して、高梨さんが後を追い、岡さんと成田さんはむしろつつましくサポートに徹すると見えていた。それが土曜日は酒井さんがそれほど目立たない。成田さん作の新曲の「超難曲」を吹きこなす高梨さんは、自己暗示をかけているという「ブライアン・フィネガン」に半分は達していた。成田さんは積極的な、「攻め」のバゥロンを鋭く入れる一方で、達者なコンサティーナも披露する。岡さんのブズーキも、ダーヴィッシュのフォロワーを脱して、存在感をぐんと増している。個々の技量が上がっただけでなく、アンサンブルの密度と柔軟性も増している。つまりはバンドとしての練度が上がっているのだ。ダブリナーズでの定期的ライヴの成果かとも思ったが、月1回ではここまでにはならないだろう。見えないところで努力されているのか。

 MCも酒井さん、高梨さんが交互にとるだけではなく、それぞれの作った曲について、成田さん、岡さんもおしゃべりする。二人ともなかなか堂々としていて、臆するところがない。tipsipuca や tipsipuca+ との違いが今一つ明瞭でなかったのが、きゃめるとしての性格がはっきりと出てきた。その違いをどうと言葉ではいわく言い難いが、無理矢理言えば、きゃめるはビートルズで、tipsipuca はストーンズだ。

 今日は新曲たくさんやります、ということだったが、前半は「旧曲」ばかり。とはいえ、上記の事情もあって、どの曲も新鮮だ。ここでのハイライトは一番古いもののひとつ〈ショコタンズ・ワルツ〉。そして、前半ラストの〈始まりの街〉旧名〈山口・山口セット〉。今日、改名しましたと宣言されると、「新曲」に響く。

 後半は新曲パレード。アンコール以外はすべてオリジナルの新曲。岡さんと成田さんが1曲ずつに、残りの5曲は高梨さん。ここで印象にのこったのは成田さんの〈短日植物セット > ガーデン・リール〉とラストの〈Traveling Camel〉。このラストの曲のMCでようやくバンド名の由来の一端が明かされた。成田さんの曲は聴いていても難しいだろうなあとわかるぐらいだが、その難しいフレーズの効果はやはりこのバンドならではのものだ。一見、のんびりと、イージーゴーイングに見えるが、実は相当にひねくれたところもあるのは、実際のラクダと共通しているのだ。たぶん。

 きゃめるはなぜか生音でしか聴いた覚えがない。こうなってくると、一度はきっちりPAを入れて、本格的なステージを見たい。曲の細かいニュアンスやアレンジの編み目がきちんと聴けるコンディションで聴いてみたい。ノーPAは生楽器には良いのだが、ホメリのような近い空間でも、複雑な構成とアレンジを隅々まで捉えるには、想像力を発揮しなければならないこともある。

 それにしてもやはりきゃめるは底抜けに明るく、楽しい。良い意味で天然だ。どうか、このままで成熟していってほしい。きゃめるにとって「成熟」がどんなことか、実はよくわからないが。(ゆ)

Op.1 オーパス・ワン
きゃめる
ロイシンダフプロダクション
2016-02-14