楽屋は席が指定制で、入口で名前を言うとあらかじめ決められた席に案内される。その席がステージ右手ど真ん前だったのには参った。おまけに神保町の店の客席は中目黒の半分ほどのサイズで、ステージとの距離は無い。席のすぐ脇がもうステージなのだ。出てきたメンバーが、「近い」と嘆息していたのも無理はない。酒井さんが床に置いたメモにも手が届きそうだ。さらに、席はステージに対して直角になっていて、あたしは上手に向かっているので、ステージの左半分は上半身を思いきり捻らないと見えない。

 もう一つ、この席では楽器から出る生音とミュージシャン用のモニタの音が混ざって聞える。ステージも狭いのでモニタは天井から3台、両袖と中央に吊るされている。その中央のものはあたしの席より店内側にある。つまりこのモニタからの音が降ってくるわけだ。

 という、あたしとしてはいささか困った位置ではあったのだが、ライヴそのものはとても良かった。新作《WONDER GARDEN》発売記念ということで、終演後、CDもたくさん売れていたようだ。『ラティーナ』に紹介を書いたので、一足先に聴かせてもらって感嘆していたから、まあライヴの質の高さも当然。と言ってしまってはミもフタも無いが、それにしてもこの日の安定感はこれまでにないレベルだった。

 要因の一つは岡さんの楽器が変わったことかもしれない。従来よりも一回り大きな楽器を、ほとんど初めて使うそうだが、まず音がいい。音量が大きいだけでなく、響きも豊かで、しかも柔かい。能率も良い、つまりより少ない力でより大きな音が出るようで、演奏もやりやすいそうだ。成田さんのバゥロンも低音にリバーブをかけて強調していたのもよい加減だった。

 その点からいえば、今のきゃめるの、入念で複雑なアレンジの面白さを存分に味わえたのはあの席のおかげだったろう。フィドルとホィッスルとブズーキは楽器からの音の方が大部分だった。もっともあのハコのサイズなら、最後尾でもしっかり味わえたはずで、あたしとしてはやはりそちらで見たかった。全員が視界に入っていない、というのはどうもおちつかないのだ。

 まあ、自分で選べばあんな席につくことは絶対にないから、一度はああいう席を経験するのもむしろ良いことではある。近くで見なければわからないことも結構あったりする。これはつまり運命の女神のはからいと思うことにしよう。

 曲のハイライトは前半最後の〈阿波踊りセット〉で、あの笛のフレーズをホィッスルでやるのを眼の前で見るのはやはり最高に面白い。高梨さんは本当に耳がいいし、模倣がうまい。作曲の才能は模倣の才能でもある、というのはあたっているのだ。

 それに、〈ガーデン・リール〉の3曲目はやはり名曲だ。もっとも今度のアルバムでは聞き返すたびに良くなるするめ曲が多いとは思う。

 しゃぼん玉のPVには、正直ちょっと引いたが、ライヴを見て聴けば緻密な天衣無縫さにますます磨きがかかってきた。うーん、そうか、あのしゃぼん玉は彼女たちの天衣無縫を表そうとしたのか。やっぱり、ダブリナーズのライヴを見にいくかなあ。まったく別の面が見られるかもしれない。(ゆ)

Wonder Garden
きゃめる
ロイシンダフプロダクション
2017-07-23