このデュオを見るたびに、この二人だけでよくまあこれだけ多彩な音を出すものだ、感心する。しかも、ピアノとか、ギターとか、メロディも弾ける楽器ではない。どちらも通常はリズム楽器とされているものだ。どうして二人でやろうと思ったのか、公式サイトに一応書いてはあるが、あらためて一度は訊いてみたくもある。
もっとも鍵はおそらくふーちんが体に縛りつけて左手で演奏するメロディカ、鍵盤ハーモニカにもある。最初見たときには驚いたが、昨日は一層進化して、チューバとハモることさえしていた。ふーちんのくわしいバイオも知らないが、ピアノはやっていたんだろう。それにしても、左手でメロディカをばりばり弾きながら、右手一本と足でドラムを叩きまくるのは、やはり見ものだ。いったい利き手はどっちなんだと心配になる。それに、左手、右手、そしてたぶん両足もそれぞれまったく別のことを同時にやっているのだ。
メロディカを弾くために左手のスティックを投げ棄てるので、それを回収しなければならない、というのは昨日初めて知った。
昨日はセカンド・アルバム・リリース・パーティーということで、前半は既存の曲、後半、セカンドを丸々演るというプログラム。ライヴの冒頭に、新作のやはり冒頭に入っている〈Young and Finnish〉で作ったビデオがステージのバックに上映される。これが良かった。
曲も特異なビートとキャッチーなメロディをもつ佳曲だが、中央二人の女性ダンサーのコスチュームとメイク、そして振り付けがすばらしい。故意か偶然か、途中、背景の鉄橋の上を電車が渡ってゆくのもいい。古代と現代が同居し、空間も地球上とは限らない。遠い銀河の彼方かもしれず、あるいはまったく別の宇宙かもしれない。ミュージック・ビデオは音楽か映像かどちらかが空回りしているものが多いが、これは二つがぴたりと融合して、どちらでもないものに昇華している。
このデュオのライヴでチューバというのはラッパなのだ、とあらためて思い知らされたのだが、ギデオンのチューバはほとんどトランペットなみに吹く。かれは体も大きく、チューバがだんだん小さく見えてくる。一方で昨日は循環呼吸奏法も披露していて、ちょっとびっくり。
フット・キーボードの使い方もいろいろ実験していて、前半最後の曲では本人の言うとおりヘヴィメタル・チューバを披露したのには大笑いさせられた。公式サイトのインタヴューで、この人がセツブン・ビーンズ・ユニットにいたというのを知って、ようやく腑に落ちる。
最後はふーちんが台所用品で作った手製の太鼓、バチが紐で踵に結びつけられた特製の靴(これを履いて足踏みすると背中にせおった太鼓が鳴る)、洗濯板とブリキのカップのパーカッションを前に垂らし、二人で場内を一周、2階に上がってそのまま退場。やがて拍手に応えてステージに再度出てきてアンコール。
このハコは客席は狭いが、ステージは天井が高いので、音がよく抜け、ふーちんがどんなに叩きまくっても、うるさくならない。また、正面に丸い大きな白い板がはめこまれ、演奏中はここに大きな月の写真が映しだされるが、二人の影を投影し、二人が月の中で出逢っているように見せてもいた。
それにしても、客席のオヤジ度の高さはハンパではない。それも、かなり音楽を聴きこんでいる様子の人が多い。おそらくはチャラン・ポ・ランタンよりは、ジンタらムータのファンに近いのだろう。もっともこの二人の音楽は、公式サイトのインタヴューにもあるが、キャッチーで楽しく、いわば行きずりのリスナーでも十分楽しめるだろう。変拍子をそう思わせないし、捻りもあちこち相当あるが、表面はなめらかだ。そして適度にトンガってもいる。
一方で、まだまだ序の口というところもたっぷりある。今はふたりでやることが面白くてしかたがない様子が全開だが、おそらく二人とも気がついていない可能性、潜在能力があるんじゃないか。ライヴを見ているとそう感じる。それがどんなものか、もちろんあたしなどには見当もつかないが、なにかとんでもないものが飛び出してきそうな気配ははっきりある。
今は二人はジンタらムータのリズム隊だが、もっといろいろな組合せでも聴いてみたい。
そうそう、休憩時間には木暮みわぞうがゲストDJをやり、クレツマーを中心に面白いものを聴かせてくれた。
終演後、物販には当然長蛇の列。しかも一人が複数の品物を買うので、全然進まない。次の時間が迫っていたので、CDは後で買うことにして早々に退散。白昼の公演で、出ればギデオンが言うとおり、うだるような暑さ。都心の暑さはまた特別に暑い。(ゆ)
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