というおおけないタイトルを掲げてまずはイベントをやることになって、日々その選曲をしている。基本的に「曲」をライヴで聴こうということで、ある曲の手許にある音源を聴いて、どれをかけるかを決めてゆく。3ヴァージョンほどに絞って、バラカンさんに聴いて1本選んでもらう形。

 まずは代表曲ということになるから、音源も多い。DeadLists のデータベースで演奏回数の一番多いのは Playin' in the Band の604回。次が The Other One の601。Sugar Magnolia、600。この辺りは今回はとりあげないが、取り上げる予定の Bertha が403回で、手許にある音源がムリョ60本以上。これをひたすら聴いてゆく。

 Bertha の初演は1970年12月15日で、最後は1995年6月27日。比較的短かくて、シンプルな曲だから、まだどんどん聴いていける。グレイトフル・デッドは同じ演奏を2度しない、といわれるが、こうして聴いてゆくと、本当に全部違うのには、驚きを通りこして、呆れてしまう。集団だし、聴衆も含めれば、まったく同じ条件になることはありえないわけだから、その条件がそのまま反映されれば、同じショウが二つとないことはむしろ当然ではある。しかし、聴いていると、明らかに違うように演奏しようとしているとわかる。

 意図してこれまでとは違う演奏をしようとすると、ともすればいびつに歪んでしまうものだが、その点でもデッドは不思議なまでに無理がない。公式リリースされた音源に限っているので、当然のことながらどれも演奏の水準は高いわけで、うまくいっているケースばかりではある。リスナー録音も含めて、実際に毎日、毎回聴いていけば、歪みまくった演奏、霊感のかけらもない演奏にも遭遇するだろう。しかし、うまくいったときのデッドの演奏、音楽には、まず無理にやっているところが無いのだ。だから、どんどんと聴いていける。聴いてまったく退屈しない。同じ曲の演奏を次々に聴いていって、飽きないのである。

 アイリッシュなどの伝統音楽では、同じ曲をいろいろなミュージシャンで聞き比べることは醍醐味の一つだ。プレーヤーがある曲を覚える際にも、ベストの方法だろう。デッドの場合、それが違うミュージシャンたちではなく、デッドの中でできてしまう。

 もっともこういう聴き方は、デッドの聴き方としてはあまりいいものとは言えない。デッドの音楽の醍醐味は、1本のショウを、ひとつの話でも読むように、映画の1本を見るように、リニアに聴いてゆくところにある。それもなるべく、一息に、実際のショウと同じように、一晩で聴くところにある。そうすると、各々のショウに固有の流れが見えてきて、その流れのなかで、あらためて個々の曲が活きてくる。そういうコンテクストから外してしまうと、曲の魅力が半減してしまうことが多い。

 それでも、あえてある曲だけを聴き続けていると、それも5つや6つではなく、20とか30とかあるいはそれ以上の数のヴァージョンを聴いてゆくと、そこでようやく見えてくることもある。個々の曲の構造の細かい部分がまずわかってくる。常に同じように演奏される部分と常に変化する部分もわかる。歌詞の言わんとするところがぼんやり感得される。読んだだけでは意味不明のコトバがうたわれるのを何度も聴いていると、感覚として意味が伝わってくる。メロディと詞にしかけられたたくらみが閃くことがある。一つひとつの曲が、カラダの中に入ってくる感じがする。同じ録音を「擦り切れるまで」聴くよりも、少しずつ違う演奏を聴いてゆく方が、カラダの中により深く入ってくる感じがする。

 ひょっとするとその感覚は、リスナーよりも、演奏している側に近いのではないか。演奏している方は、1本のショウとして演っているよりも、常に今演奏しているこの曲を演っているという感覚だろう。次に何をやるのかわからないのだから、ショウ全体の見通しなどたてられるはずはない。むしろ、またこの曲を演っているという感覚ではないか。

 というようなことを考えながら、今日もデッドを聴いている。audiodrug という言葉があるらしいし、デッドといえばドラッグとは縁が深いが、デッドの音楽そのものが、こうして聴いているとドラッグ体験になってくる。

 今日は Cassidy だ。ボブ・ウィアの ACE に収録されているこの曲の録音は1972年の1〜2月。デッドが初めてとりあげるのは、それから2年ほど経った1974年3月23日。以後、1994年10月18日まで335回演奏された。デッドを本格的に聴きだした頃は、この曲はどこがいいのかよくわからなかった。バンドが休止から復帰した後の、1976年、1977年頃の演奏、それもドナ・ガチョーがウィアと並んでリード・ヴォーカルをとっているヴァージョンを聴いてから、だんだん好きになってきた。これはドナがいて初めてできた曲ではないかとすら思ったこともある。実際にはそれはありえないが、一方で、ドナがうたうことで曲としての魅力がはっきりしたということは言えるかもしれない。


 一つ、おことわりがあります。イベントの告知で、デッドの公演数を「2,600本」としているのは実は正確ではありません。ジェリィ・ガルシアの公式サイトの数字によれば、グレイトフル・デッドとしては「2,313本」です。The Warlocks としての10本を足しても「2,323」。この数字は以前から確認しているんですが、なぜか、「2,600」という数字が、頭にこびりついていて、ひょいと出てきてしまいます。

 もっとも、最初期、1965、1966年あたりには、気が向くとサンフランシスコのハイト・アシュベリーからほど近いゴールデンゲート・パークで即席のライヴを頻繁にやっていて、その数は誰にもわからないと言いますから、「2,600」という数字もまったくありえないわけでもなさそうです。(ゆ)


21世紀をサヴァイヴするためのグレイトフル・デッド入門」

日時:2017117日(火) 19時開場/1930分開演

会場:風知空知(下北沢駅南口徒歩3分)

出演:ピーター・バラカン×おおしまゆたか

料金:前売2000円/当日2500円(共に+1drink 500円)

予約:yoyaku●fu-chi-ku-chi.jp までメールで、

イヴェント名、お名前、枚数、ご連絡先電話番号を明記の上、

お申し込みください。 アルテスパブリッシング

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【ご注意】

整理番号はありません。当日は先着順でご入場いただきます。

ご入場は建物1F右奥のエレベーターをご利用ください。