Grateful Dead、Dave's Picks 2018 の年間予約が発表になり、例によって注文殺到でサイトがパンク、一時注文不可能になった。
Dave's Picks というのは、2012年から毎年4タイトルずつリリースされているライヴ・アーカイヴ・シリーズ。基本的に1本のショウを選んでその録音をリマスターし、CD3枚組にブックレットを付けた形。デッドの録音アーカイヴを預かる David Lemiuex がリリースするショウを選んでいる。
1993年から2005年まで、Dick's Picks のシリーズが36本リリースされている。こちらはデッドのアーカイヴ初代管理人の Dick Latvala の選になる。もっともラトヴァラは1999年に亡くなり、Vol. 15 からは上記デヴィッド・レミューが責任者になっている。Dave's Picks はこれを継いだものだ。
年間予約すると、年4本のリリースに加えて、2回めのリリース、たいていは4月のリリースの時にボーナス・ディスクが付く。また、11/06までは早期予約で安くなる。送料を含めて日本からだと112USD。4回出るごとに注文する必要もないし、今年最後の4本めのように、発表後4時間で完売したものでもちゃんと入手できる。
この4本めは1972年のもので、この時期は人気が高く、Dave's Picks 以外のリリースでもすぐ売り切れる。先日の発表のときも買えなかった人たちの怨嗟の声が公式サイトの掲示板に溢れた。そのせいで、今回の年間予約にも殺到したのだろう。Dave's Picks 2017 の場合は、昨年の最後が1981年で人気が低かったため、注文殺到ということは無かった。
「完売」というのは、このシリーズは2018年の場合、18,000セット限定だからだ。ちなみに2017年は16,500セットだった。つまり、どんなに売れても重版、再プレスしない。だから、特にシリーズ初期のものなどは、今では市場に出ると万単位の価格がついている。数年経てばダウンロードやストリーミングで聴けるようになるだろうが、今のところは公式では聴けないし、ライナーは読めない。あたしも3タイトル買い逃していて、後悔している。むろん、ネット上でAUDつまり聴衆録音は聴けるが、公式リリースのメリットはやはり音質が全然違うし、何よりライナーが貴重だ。
ついでだから、グレイトフル・デッドのライヴ・アーカイヴの公式リリースをまとめておこう。
デッドは原則として、全てのショウを録音している。ごく初期の、気が向くと、アシュベリー710番地からすぐ近くのゴールデン・ゲイト・パークにでかけて、即席でやっていたようなものは別として、大部分のショウには公式の録音がある。その慣例を始めたのはデッド初代のサウンド・エンジニアも努めたアウズレィ・スタンリィだ。LSD の供給者として有名なスタンリィはサウンド・エンジニアとしても優秀で、デッドのPA音質の改善に貢献し、ひいては先進的なライヴ・サウンド・ラボ Alembic を設立する。それは後に Wall of Sound で頂点を極めるサウンド・システムを作ってゆく。同時にスタンリィは自分がエンジニアとして手掛けたショウの録音を始める。現在、公式リリースされている1970年以前の録音はスタンリィが残したものが根幹をなしている。
スタンリィの録音によってショウを録音することのメリットを覚って、デッドはそのショウを録音する。サウンドボードにつないだだけの2トラックのものも多いが、70年代に入ると専属の録音エンジニアをスタッフに入れ、本格的に録音するようになる。ベティ・カンター=ジャクソンはその代表だ。かくして2011年の《Europe '72: The Complete Recordings》のような企画が可能となった。念のために記しておくと、これは1972年のヨーロッパ・ツアー全22公演をまるまる収録した巨大なボックスセットだ。
1982年12月にはデジタル録音に移行する。ただ、その前、1978年からこの時点までのバンドによる録音はカセット・テープのみにされた。この時期からのライヴ・アーカイヴ・リリースが少ないのは、そのためもある。音質もさることながら、ジャムの途中でテープが切れることが多い。デジタル録音は当初ビデオ・テープが媒体で、1988年からDATになる。
こうして録音したテープを収録した場所が The Vault と呼ばれた。カリフォルニア州サン・ラファエルのデッドのオフィスの一部に当初は設けられた。現在はバーバンクにあるワーナー・ブラザーズの温度・湿度管理された倉庫の一角に移されている。
もっともデッドもただ録音したものを集めて残しておくだけで、当初は積極的活用はしていなかったらしい。1980年代始め、Dick LatVala (1943-99) がオフィスに参加することで、デッドは初めてその価値に気づき、ラトヴァラを管理人として整理、活用を行うようになる。
ラトヴァラは精力的に働いて、まず1991年に《ONE FROM THE VAULT》をリリースする。これが今世紀に入って本格化するライヴ・アーカイヴ集の嚆矢だ。1993年から Dick's Picks のシリーズを始める。これは2005年10月の Vol. 36 で一段落する。
一方 From The Vault の方は1992年に《TWO FROM THE VAULT》が出るが、最後の《THREE FROM THE VAULT》は2007年に出た。
2000年から2003年にかけて、View from the Vault が4本出ている。タイトルから想像される通り、これはビデオ集で、DVD と CD が別々に出ている。
この後も含めてライヴ・アーカイヴのシリーズを一覧にするとこうなる。最初と最後のリリースの年月、シリーズ・タイトル、総タイトル数の順だ。
1991-04/ 2007-06 From The Vault 3
1993-12/ 2005-10 Dick’s Picks 36
2000-06/ 2003-04 View from The Vault 4
2005-06/ 2006-04 Download Series 12
2007-11/ 2011-07 Road Trips 19
2012-02/ Dave’s Picks 23
この97本のリリースは、Dave's Picks と Road Trips のダウンロードのみのタイトル2本を除いてすべてダウンロードで購入可能だ。
これらは原則としてある日のショウを丸ごと収録している。各々のリリースにいつの、どこのショウが収録されているかはネット上に情報がある。主なものとしては Grateful Dead Family Discography と英語版 Wikipedia がある。
また、デッドの2,300本以上のショウについての情報はデッドやジェリィ・ガルシアの公式サイトにもあるし、より詳しいものとしては DeadLists がある。
デッドのライヴ・アーカイヴの公式リリースはこの他に単発のものがある。
1996-10, Dozin' At The Knick
1997-06, Fallout From The Phil Zone
1997-09, TERRAPIN STATION (Limited 3CD Collector's Edition)
1997-10, Fillmore East 2-11-69
1999-11, SO MANY ROADS
2000-10, Ladies And Gentleman ... The Grateful Dead
2001-09, Nightfall Of Diamonds
2002-03, POSTCARDS OF THE HANGING
2002-10, Go To Nassau
2003-12, The Closing of Winterland
2004-05, Rockin' The Rhein
2004-10, The Grateful Dead Movie Soundtrack
2005-07, Truckin' Up To Buffalo
2005-10, GARCIA PLAYS DYLAN
2005-11, Fillmore West 1969 (box)
2007-01, Live at the Cow Palace: New Year's Eve 1976
2008-04, Winterland 1973 (box)
2008-09, Rocking The Cradle: Egypt 1978
2009-10, Winterland 1977 (box)
2009-04, To Terrapin: Hartford '77
2010-04, Crimson, White and Indigo
2010-09, Formerly The Warlocks (box)
2011-09, Europe ’72 (box)
2012-09, Spring 1990 (box)
2013-06, May 1977 (box)
2013-09, Sunshine Daydream
2014-09, Spring 1990 (The Other One) (box)
2014-12, Houston, Texas, 11/18/1972
2015-10, 30 Trips Around The Sun (box)
2016-05, JULY 1978 (box)
2017-05, May 1977: GET SHOWN THE LIGHT (box)
このうちボックスセット以外は普通に入手可能。ボックスセットについては限定版でCDではほとんどが完売だが、デジタルの形で入手できるものもある。EUROPE '72 はすべて個別のCDとしてもリリースされている。
さて、もうすぐ11月。毎年11月は 30 Days Of Dead の月だ。1ヶ月間、毎日1曲、未発表のライヴ・トラックが 320kbps の MP3 の形で、公式サイトでリリースされる。これらは無料でダウンロードできる。また、クイズもついていて、リリースされる時にはその演奏がいつの、どこのものかは伏せられている。これを当ててみろというわけだ。正答者の中から抽選で毎日、レア・アイテムの賞品が当たる。1ヶ月で30曲、総時間数は5時間前後。昨年はとびきり多くて6時間を超えた。デッドのライヴ演奏がどういうものか、まずはこれで体験されてはいかがだろう。(ゆ)
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