バラカンさんが相手なので、あたしとしては気は楽だったんですが、どういう方々がお客さんに来るのかかわらず、また満員御礼ということはそれだけ期待も高いということで、気楽な一方で緊張もするという、まさにデッド的な体験でありました。

 まずは、昨夜、お越しいただきまして、まことにありがとうございました。お客様のなかには、200回以上ショウを体験された猛者もおられて、それでまた緊張が高まったりしました。全体としてはご好評をいただき、お店からもぜひとのことで、次回もやることになりました。篤く御礼申しあげます。何をやるかはいくつか腹案はありますが、まだまったく白紙です。こんなのはどうだとか、ありましたら、どうぞよしなに。

 会場のシステムもすばらしく、さんざん聴いた音源なのに、まったく新たに聴くような発見が多々ありました。田口スピーカーを初めて聴けて、感激であります。

 昨夜聴いた音源です。

01. Bertha
1972-03-27, Academy of Music, NY, NY; Dave's Picks 2015 Bonus Disc 6:57
1990-03-19, Civic Center, Hartford , CT; SPRING 1990 7:09

02. Cold, Rain & Snow
1978-07-07, 1978-07-07, Red Rocks Amphitheatre, Morrison, CO; JULY 1978 7:25

03. Cassidy
1972-05, ACE 3:40
1983-10-21, Centrum, Worcester, MA; 30 TRIPS AROUND THE SUN 6:11

04. Uncle John's Band
1970-06, WORKINGMAN'S DEAD 4:44
1990-03-24, Knickerbocker Arena, Albany, NY; DOZIN’ AT THE KNICK 10:05

05. They Love Each Other
1973-02-26, Pershing Municipal Auditorium, Lincoln, NE; Dick's Picks, Vol. 28 5:51
1975-09-28, Golden Gate Park, San Francisco, CA; 30 TRIPS AROUND THE SUN 7:28
1976-12-31, Cow Palace, Daly City, CA; LIVE AT COW PALACE 7:13

06. Estimated Prophet
1977-07, TERRAPIN STATION 5:37
1978-04-22, Municipal Auditorium, Nashville, TN; Dave's Picks, Vol. 15 12:35

Encore
07. Around and Around
1978-07-07, Red Rocks Amphitheatre, Morrison, CO; JULY 1978 8:44

 途中でフェイドアウトしたトラックもいくつかありましたが、それでも当初予定していた2時間ではとうてい終らず、30分延長させていただいてもギリギリで、どうもすみません。次回はもっと調整をきちんとします。ただ、デッドのことについてしゃべりだすと、バラカンさんも止まらなくなるというのがよくわかりました。自分もそうですが、コントロールはなかなかたいへんです。

 最初の2曲はオープナーの代表として選びました。〈Bertha〉については初期のものと後期のものの聞き比べでもあります。〈Cold, Rain & Snow〉はこんなのんびりした地味な曲からショウを始めるのは確かに不思議です。

 〈Cassidy〉は初めがハンター&ガルシアの曲なので、デッドのレパートリィの片方を支えるバーロゥ&ウィアの曲という意味合いもあります。これはウィアの《ACE》からの選曲で、スタジオ版とライヴ版の違いをまず聴いてみたいという趣旨です。《ACE》はスタジオ録音としては名盤といってもいいと思いますが、ライヴ版とは比較にならない、ということがあらためて実感できました。ライヴでの、バンド全体のからみ合い、浮遊感が、聴いたことのないほど気持ち良かった。田口スピーカーのシステムの恩恵でしょう。

 ここまでで時間を使いすぎて、〈Uncle John's Band〉は、ライヴ版を聴きながら休憩とさせていただきました。なお、〈Cassidy〉とこの曲のスタジオ版はバラカンさんがお持ちのLP(イギリス盤)とカートリッジを持参され、アナログでの再生でした。これまた気持よかった。

 〈Uncle John's Band〉のコーラス・ワークはライヴではなかなか再現が難しいですが、インストの展開はやはりライヴが圧倒的で、この1990年03月24日はガルシアのギターがなんともかわいらしい演奏を聴かせます。それと、このうたは本当に歌詞がいい。デッドの曲の通例で、意味はよくわからないところも多いんですが、何度も聴いて歌詞が体に入ってくると、それはそれは気持ちよくなります。一緒にうたいたくなります。

 〈They Love Each Other〉は、時期によって演奏のやり方ががらりと変わる様を聞き比べました。どれもそれぞれに味わいがあると思います。あたしもこの曲は後期のゆったりしたテンポで慣れていましたが、今回のイベントのために様々なヴァージョンを聴くうちに、当初の速いテンポのものもいいなと思うようになりました。

 〈Estimated Prophet〉もスタジオ版との聞き比べ。デッドのライヴのキモであるジャム、集団即興の醍醐味を味わいたく選びました。

 デッドのイベントなので、やはりアンコールは欲しいと思い、〈Around and Around〉を選びました。この曲も時期によって演奏の仕方が変わります。これは休止からの復帰後で、ゆったりしたテンポで入り、半ばから通常のロックンロールのテンポにギアチェンジします。そのカッコよさにはシビれます。


 ということで、今回はイントロとして考えてみました。次回はもう少し、細部にわけ入ってみたいと思っています。

 終了後の質問で、たくさん出ているなかで、どれから聴けばいいのか、と訊かれました。どれでもいいと思います。本当にどれでもかまいません。YouTube にはたくさん映像や音源があります。Internet Archive にはかつてはテープで聴かれていた録音がデジタルの形であがっています。

 それでも何かひとつ挙げろと言われれば、これをお薦めします。

Fallout From the Phil Zone
Grateful Dead
Grateful Dead / Wea
2005-02-14


 これはベースのフィル・レシュがバンド解散後の1997年、バンドの全キャリアの中から選んだライヴ音源集です。グレイトフル・デッドというバンドの全体像が、ごくぼんやりではあれ、浮かんでくるかと思います。この中で、ピンと来たトラックと同じ時期の他のライヴ録音を聴いてゆく、というのは一つの方法でしょう。全部OKであれば、もう立派なデッドヘッドです(^_-)。

 実を言えば、あたしがデッドにはまるきっかけの一つがこのアンソロジーでした。バラカンさんから自分はデッドヘッドだと言われた衝撃から探索をはじめ、図書館にあったこのアルバムを聴いて、これならイケる、面白いじゃないか、と実感したことからすべては始まったのであります。

 それにもちろん 30 Days Of Dead があります。毎年11月、ちょうど今月ですね、公式サイトで毎日1曲ずつ、未発表のライヴ録音がMP3の形でリリースされ、無料でダウンロードできます。この30曲は毎年、バンドの全キャリアをカヴァーする形で選ばれています。合計すれば4〜6時間、これだけでたっぷりデッドのライヴに浸れます。

 毎日クイズにもなっていて、その録音がいつのどこの演奏のものか正解がわかれば、レアで豪華な商品が抽選で当ります。これはほとんど不可能に思えるかもしれませんが、多少聞き慣れてくると見当がつくようになり、ネット上のリソースを使って絞りこむこともできるようになります。


 とまれ、まずは日頃なかなか話す相手もいないグレイトフル・デッドのことについて、バラカンさんとおしゃべりでき、またすばらしいサウンドで聴くことができて、あたしとしてはたいへん幸せでありました。これを可能にしてくれた、バラカンさん、アルテスパブリッシングの鈴木さん、風知空知のスタッフの方々、そしておいでいただいた皆様に心より御礼申し上げます。(ゆ)