この秋に上演された舞台『オーランドー』の音楽を林正樹氏が作曲し、このトリオで劇中で演奏された。その音楽だけをライヴでやってみようという試み。

 『オーランドー』はヴァージニア・ウルフの小説を元にした劇のはずで、結局見に行けなかったが、かなりコミカルなものだったらしい。1曲3人がリコーダーで演奏する曲があるが、林氏が吹きながら笑ってしまって曲にならない。ピアノと違ってリコーダーは吹きながら笑えば音が揺れてしまう。本番でも笑わずにちゃんと吹けたのは2、3回と言いながらやった昨夜の演奏も、途中笑ってしまう。はじめは3人とも前を向き、なかでも林氏は他の二人を向いて吹いていたのだが、相川さんは途中で後ろ向きになって吹いていた。林氏の吹いている様を見ると自分も笑ってしまうからだろう。

 これは極端な例だが、他にもユーモラスな曲が半分くらいはある。林氏のユーモアのセンスは録音ではあまり表に出ないが、ライヴだと随所に迸る。というよりも、その演奏の底には常にユーモアが流れていて、折りに触れて噴出する感じだ。金子飛鳥氏とのライヴで披露した「温泉」シリーズの曲もユーモアたっぷりだった。

 鈴木氏が演奏するのを見るのは、ヨルダン・マルコフのライヴにゲスト出演した時だけで、本人のものをフルに見るのは初めて。都合7種類の管楽器、ソプラノ・リコーダーからバス・クラまで、音質も吹き方も相当に異なる楽器をあざやかに吹きこなす。その様子も、上体を反らしたり、前に倒したり、くねらせたり、足を踏みこんだり、見ているだけでも面白い。こういう管楽器奏者はこれまで見たことがない。まるでロック・バンドのリード・ギターのようだ。

 この人の音はひじょうに明瞭、というよりおそろしく確信的、と言いたくなる。小さな音や微妙なフレーズでも、まったく疑問ないし揺らぎを感じさせない。それが林氏のユーモアとからむと、なんとも言いようのない、ペーソスのあるおかしみが漂う。

 この二人の手綱をしっかり操るのが相川さんのビブラフォンとパーカッション、というのが昨夜のカタチだった。1曲、フラメンコというよりも、中世イベリアのアラブ風の曲では達者なダラブッカを披露して、このときだけちょっとはじけていたのも良かった。

 昨夜は前半の最後に鈴木氏のオリジナル、後半の頭に相川さんの作品も演奏された。鈴木氏のは安土桃山時代の絵図につけた曲。《上杉本 洛中洛外図屏風を聴く》に入っているような曲。これも面白かったが、相川さんのお菓子の名前をつけた小品4つからなる組曲が良い。そういう説明を聞いたからか、ほんとうに甘味がわいてくる。

 『オーランドー』のための林氏の音楽は多彩多様で、音楽だけ聴いてまことに面白い。サントラ録音の計画があり、年内録音、来年春のリリースというのには、会場が湧いた。林氏が劇を見た方はと問いかけたのに、聴衆の九割方の手が上がった。しかし、こういう音楽だったらやはり見るのだったと後悔しきり。確かアニーも出ていたはずだ。昨夜は劇中で演奏されたそのままではなく、ライヴ仕様で、3人がソロを繰り出す曲もあった。

 席が林氏のほぼ真後ろになり、氏の演奏する後ろ姿を見ることになったが、それがやはり見ていて飽きない。ソロを弾いている姿にはどこか笑いが浮かんでいる。本人は別に意識してはいないだろう。夢中になって、あるいはノリにノって弾いている、その姿が楽しい。演奏しているピアニストの後ろ姿というのはあまり見られないだろう。昨日は細長い会場を横に使い、外から見て右側の壁に沿ってミュージシャンが並び、客席はそれをはさむ設定だった。ミュージシャンの正面の席は壁際に一列だけ。

 昨日の演奏を見ても、『オーランドー』のサントラは楽しみだ。寒さがゆるんで、半月もどこかほっとしている顔だった。(ゆ)