バゥロンの成田有佳里、ホィッスルの高梨菖子のデュオ、豆のっぽのライヴと聞いて、実はかなりストイックなものを予想したのだが、その予想が嬉しく裏切られたのは、まあ、当然でしょうな。

 やりたいこと、やってみたいことをとにかくやってみるのが、このユニットの趣旨。なるほど、デュオというのは自由度の高い形式ではある。その気になれば、ほとんど何でもできる。担当楽器を決めていても、応用の幅は相当に広い。これがトリオとかカルテットになると、それぞれの役割は収まるところに収まってきて、フォームとしては固まる傾向にある。むろん、それはそれでまたできることが異なるわけだが、自由度という点ではデュオにまさるものはない。

 二人ともコンサティーナを達者にこなすのは知っていたが、成田さんがギターも持ち出し、高梨さんはコンサティーナとロウ・ホイッスルとホィッスルを持ち替える。さらに、ゲストの梅田さんまでが、ホィッスルを吹き、トライアングルを叩く。始めた時と終る時で、全員異なる楽器を持っている、というのは、見て楽しいだけでなく、音楽としてもなかなかに面白い。これは肝心のところで、ヴィジュアル系ではあるまいし、やはり音楽が面白くなくては、どんなことをやってみせても、意味はない。

 この二人であれば、まずはオリジナルが聴き所になる。二人が属するきゃめるでやっている曲、この日のために書き下ろした曲、どれもやはり面白い。まずは〈おもちセット〉で、2曲目の〈さくらもち〉は名曲だとあらためて思い知らされる。成田さんの新曲は相当の難曲で、吹きおわって高梨さんは息を切らしていた。故意に難しくしようとしているわけではもちろんあるまい。一方で、新しい表現、新しい面白さを追求すると、従来考えられなかったような高度な技が要求されるものになってしまう傾向は、現代に作られる曲の宿命なのかもしれない。シニフィアン・シニフィエがとりあげている、メシアンやペルトにも通じるところがある。

 しかし、案外と言っては失礼になるだろうが、ホィッスルとバゥロンだけでやるトラディショナルが、オリジナルと同じくらい面白かったのは、見事だ。作曲をする人として、新たに作るようにアレンジをしているとも思えたりする。こういう時、伝統曲の柔軟さないし頑丈さが顕わになる。どんな扱いを受けても、曲としての佇まいはゆるがないから、演るほうとしては、むしろ安心して何でもできる。どんなことをしても、受け入れられるのだ。

 しかしあたしにとって最大のサプライズは梅田さんのうただった。せっかくだから1曲ソロで、と言われてやったハープの弾き語り。藤野由佳さんとのデュオでは1年くらい前からやっているそうだが、そちらはまだ見るチャンスが無かったから、初めての体験。すばらしいのは、梅田さんの歌唱はちゃんとうたとして成立していることだ。これはちょっと説明が難しい、というのはあたしもまだやくわかっていないのだが、うたになっているかどうかは、うまさとか、声の良し悪しとかとはまったく別の話のようなのだ。かつてシャロン・シャノンが引っぱりだした、デジー・オハロランのうたが一つの例になろうか。

 オハロランは声は地声で押し出しはないし、音程はふらふらとはまらないし、通常の意味ではお世辞にもうたがうまい、あるいはうたえるとは言えない。しかし、そう、かれには歌心がある、と言ってみようか。その一点で、かれのうたは独自の味わいのあるうたとして聞える。ヘタウマですらない。巧いヘタとは次元が異なる。

 梅田さんのうたはずっときちんとしている。音程がはずれるなんてことはありえない。しかし、やはり巧いヘタとは別のところでうたとしての魅力をしっかりと伝えてくる。聴きごたえがある。もっと聴きたくなる。あるいは、うたが巧いとは本当はそういうことなのかもしれない。

 成田さんと高梨さんは仲が良い。音楽をやっていなくても、きっと仲は良かったと思うと言うが、確かに息が合っている。ひょっとすると、きゃめるも出発はこの二人が軸になったのかもしれない。成田さんは、作曲しながら、ここはこういう風に演ってくれるといいなと思うことがある。一方で、そういうことを演奏者には言わない。演奏者の想像力をそういう形で縛るのは避けたいからだ。ところが、高梨さんはその秘かな願望のとおりに演奏してしまう。

 これもまた仲の良いこととは別のことかもしれない。が、そういうことがあれば、たとえ元は仲が悪くても、だんだん良くなるものではあるだろう。

 梅田さんも含めて、音楽を演っているとき、この人たちはどこか人間ばなれしている。妖怪とかいうと、恐しげな外見で、人間には悪さをするイメージだが、そうではない存在もいるのではないか、と彼女たちの演奏する姿を見ていると思えてくるのはいつものことだ。沖縄のキジムナーはこんな感じなのだろうか。異界の存在にもたぶんいろいろいるのであろう。

 高梨さんは直前に別のバンドに参加してPVを撮っていて、そのために髪を後ろでひっつめてまとめていた。むろんプロの仕事だ。和服を着たらさぞかし似合ったことだろう。その別のバンドの話も伺って、楽しみがまた増えたのだが、それはまた別の機会に。

 このデュオがどうなってゆくかがまず楽しみだ。きゃめるともティプシプーカとも違う、より自由度を高くすることを求めて、最先端へ突出する可能性もある。命ながらえて、見届けたいものではある。

 次はこの土曜日。同じホメリで、「春のゲンまつり!」。梅田さん、中藤さんに、巌裕美子氏のチェロが初見参。アイリッシュやスコティッシュだけでなく、クラシックもあるらしい。(ゆ)