梅田千晶さんの「ホメリ三連発」の三発め。この三つのギグはどれもたいへん面白かったが、梅田さん個人としてはこれが一番爆発していた。もっともこの日は三人ともリハとはまったく違い、本番では爆発していたそうだ。

 フィドルの奥貫史子さん、ギターの高橋創さんとのトリオ。梅田さんは奥貫さんとバゥロンの北川友里さんと Koucya というトリオを組んでいて、北川さんが高橋さんと入れ替わった形だが、当然楽器だけでなく、人間も変われば音楽もがらりと変わる。高橋さんは以前、フィドルの小松大さんとのライヴを見たが、その時とはやはり全然別人。つまるところ、音楽は相手次第なのだ。

 この日のお目当ては、まともにライヴに接するのは初めての奥貫さん。チーフテンズ関連のイベントで何度か見ているし、レディー・チーフテンズでステージに上がるのは見ているが、この距離では初めて。実はケープ・ブレトン全開になるのかと半分期待半分恐怖だったのだが、ケープ・ブレトンはむしろ切札として使われて効果を上げていた。こうなるとむしろ、もっとケープ・ブレトンを、と言いたくなってしまうのが、あたしのあまのじゃくなところ。

 というのも、この三人でやるのは初めてで、三人各々の持ち味を活かそうという趣旨で、曲もお互いに出しあったそうだ。なので、アイリッシュやケープ・ブレトンだけでなく、ずいぶんいろいろなものが出てくる。高橋さんの小学校の校歌とか、ディズニーの『メリダとおそろしの森』のテーマとか、こういう機会が無ければ絶対に聴けないものも出てくる。前者は谷川俊太郎作詞、林光作曲というなかなかの佳曲だし、後者はスコットランドが舞台ということで、こちらも悪くない。だいたいディズニーのアニメの音楽はどれもアイススケートのフィギュアの伴奏にできると聞える。

 梅田さんが今回もうたを披露し、それもスコットランドのカリン・ポルワートの名曲〈Follow the heron home〉なのはちょっとうるうるしてしまう。せっかくなのだから、もっと声をちゃんと聴きたくなる。

 初めての顔合わせということから、ハープ&ギターのコーナーもあり、この〈Raglan Road〉は良かった。というのも、これがより古いヴァージョンということで、後半が異なる。そこが確かにすばらしい。

 それでもやっぱりケープ・ブレトンが鳴りだすと心も高なる。あそこの楽曲には不思議に昂揚感を感じてしまう。もっともかれらのように曲は2回まわしでどんどん次の曲に移ってゆくことはあえてせず、結構入念なアレンジを聞かせる。ひょっとして即興でやっているのかとも聞えるのは、三人の演奏の迫力と活きのよさからだ。

 基本的にはフィドルがメロディ、ギターがベースを支え、ハープがある時はハーモニー、ある時はユニゾン、ある時は裏メロと、牛若丸のように飛びまわる形。ハープでケープ・ブレトン・チューンを演るのは初めて聞いた。

 奥貫さんのフィドルはどちらかというとタッチが軽い。ケープ・ブレトンの人たちは弦と弓がかわいそうになるくらいがんがんにこすり合わせるが、奥貫さんはむしろスイングする。その一方で力は入れないのに弦への弓の粘着性が高い。この軽みがハープとよく合う。

 高橋さんのギターは最低部から押し上げてくるタイプで、これがまた二人の軽みとよく合う。羽毛のように軽いのに、芯はしっかり通っている、ごく上質の低音。

 とりわけ、前半ラスト、アイリッシュのリールから、ケープ・ブレトン・チューンに移って一度テンポを追とし、そこからまた徐々に速くしてゆくのはエキサイティング。

 なつかしや、スコットランドの The Easy Club のチューンもとびだして、いや、堪能しました。


 梅田さんはニュー・ジャージーでのハープ・フェスティヴァルに参加して、悟るところがあったらしい。それまで何となく、ハープとはこういうものと思っていたのが、何でもやってかまわないのだと吹っ切れたそうだ。これはますます楽しみだ。伝統へのリスペクトは忘れてはいけないが、それはバリィ・フォイも言うように、精通するところから自然に生じるものだろう。まずリスペクトありき、ではないはずだ。伝統だからとやたらありがたがるのでは、結果はやはりひどくなるとフォイさんも同じところで言っている。

 何でもやってかまわない、というのは、やってみなければうまくいくかどうかわからないからだ。何でもそうだが、やってみてナンボであることでは音楽の右に出るものはない。なにしろ、音楽はやってみなければ聞えない。

 高橋さんはアイルランド滞在中に知り合ったミュージシャンたちの招聘を仕事にする計画だそうだ。まずは、以前にも呼んだことのある、えーと、名前を忘れてしまったが、蛇腹奏者を呼ぶそうだが、招聘予定のミュージシャンの中には John Carty の名前もあって、これまた楽しみ。娘さんの Maggie と一緒に来られるといいなあ。

 それにしても、こうして新たな組合せ、試みがどんどん出てくるのはまことに頼もしく、楽しい。次は03/13、やはりこのホメリでさいとうともこさんと中村大史さん。なんだか、ホメリにばかり通っているな。(ゆ)