アコーディオンとヴォーカルの服部阿裕未さんが、演りたい人を集めてトリオを組むシリーズの1回目。初回のお相手は高梨菖子さんと久保慧祐さん。

 ミュージシャンにもいろいろなタイプがあって、演奏を好むことでは同じでも、演奏自体を好む人と自分が出す音を好む人がいる。と服部さんの演奏を見聞して思う。つまり、こういう曲を演りたいというよりも、こういう音を出したいので、好みの音を出せる楽曲と演奏スタイルを選ぶという人だ。この二つは截然と別れるわけではむろんなく、音楽家は皆どちらの要素も持っていて、どちらかが濃いわけだ。TPOでそれが出る人もいる。

 とはいえ、ある楽器を選びとるのは、やはりその楽器の音、音色、テクスチャ、音の運びが好きだからではないか。

 服部さんはたまたまその好みが比較的はっきり出るタイプなのだろう。たとえばその好きな音を延ばしたり、アクセントをつけたりするし、またそういう音型がフレーズが出てくる曲を選んでいるようにもみえる。たとえば前半のポルカのセットで、3曲目が高梨さんの〈柏餅〉なのだが、これだけ独立して選んだのは、ああ、この音が出したかったのだな、とあたしは納得した。高梨さんの曲はフィドルや笛で聴くことが多く、アコーディオンで聴くのはとても新鮮だ。ちなみにこのセットの一曲目はAパートのシンコペーションが面白くて、これも出したい音に聞える。好きな音を出す歓びがあふれる。

 好みの音を出したいというのは、その音を聴きたいことでもあって、だから無闇に急がない。リールでもゆったりしたテンポで、自分たちの演奏にじっくりと耳を傾けている感じだ。聴いていると胸のうちがおちついてくる。後半のマーチではそれがうまくはまっていて、この方面のハイライト。

 服部さんのもう一つの顔はこういううたをうたいたい、声を出したい、といううたい手だ。この方面ではなんといっても高梨さんの〈春を待つ〉。高梨さんの東京音大作曲科の卒業製作用の曲だそうだが、これをうたいたいといううたい手の気持ちが、もともとの佳曲をさらに良くする。歌詞を書くのが気恥ずかしいと高梨さんはいうが、ならば作詞は他に頼んでも、もっとうたを作って欲しい。それを服部さんがうたって一枚アルバムを作ってもいいのではないか。

 高梨さんは例によって、ある時はユニゾンに合わせ、ある時は裏メロをつけ、ある時はハーモニーを作って、アコーディオンを盛りたてる。高梨さんのホィッスルとアコーディオンの組合せも珍しく、その音の動きがよくわかるのが愉しい。これがコンサティーナではやはり違う。サイズも違うが、コンサティーナの音はもともと繊細だ。音自体はシャープではあるが、細い。服部さんはリードのピッチをわずかにずらして、倍音を響かせるようにしているせいもあるだろうが、音の存在感がどっしりとある。アコーディオンとホィッスルだけの組合せというのは、あまり聴いた覚えがないが、おたがいの音が際立っていいものだ。

 この二人を見事に支えていたのが久保さんのギター。前半ではギターをミュージシャンの方に向けていて、アルジーナに注意されたのか、後半は客側に向けるようにしていた。まあ、ライヴとしてはその方がいいだろうが、ギターは客に聞えなくてもかまわないものではある。というのに語弊があれば、ギターは客よりもミュージシャンに向けて演奏しているのだ。デニス・カヒルのライヴを見ると、かれは客のことなぞ眼中にない。そのギターはひたすらマーティン・ヘイズのために弾かれている。

 クボッティと呼ばれるそうだが、リールのセットでは冒頭、単音弾きでリールを弾きこなして見事だった。何人か、ワークショップなどで学んだギタリストはいるようだが、基本的に独学だそうで、そうだとすると、豊田さんの言うとおり、天才と呼んでおかしくはない。豊田さんのソロではデニス・カヒル顔負けのギターを弾いてもいて、まことに末頼もしい。今は John Blake がマイブームの由。04/08の豊田さんのソロのアルバム・リリース・ライヴがたのしみではある。

 ライヴ当日になってようやくトリオとしての形ができてきた、と服部さんは言っていたが、アイリッシュ・ミュージックは音楽そのものよりも、コミュニケーションつまりおしゃべりが一番の目的だから、それもまたアイリッシュ的ではないか。隅々まできっちりと作るのではなく、基本のメロディとして提示して、たとえばきゃめるの仲間が、思いもよらないコード進行をつけたり、ハーモニーを編み出したりするのが何よりも愉しいと高梨さんも言う。音楽で楽器でおしゃべりしながら、ああでもないこうでもないといろいろ試し、やってみて、だめなものは捨て、うまくゆくものを拾ってゆく。そういうプロセスが透けて見えるのもアイリッシュの魅力だし、この日のライヴには、そうして出来上がってゆくときの愉しさが現れていた。完成した、非のうちどころのない演奏を聴くのも楽しいが、綱渡りしながら音楽を作ってゆくところが見えるのもまた楽しからずや。

 トリオ・シリーズの次回はまだ未定だそうだが、季節が変わる頃に、またホメリでということなので、たのしみに待ちましょう。音楽が愉しいと、ビールも旨い。(ゆ)