先日のグレイトフル・デッドのイベントの準備でてんてこ舞いしているところへ、もう一つ仕事が重なってパニックになり、酒井さん宛欠席届けを出したら、次のライヴはいつになるかわからない、来ないと後悔しますよ〜とほとんど脅迫状が返ってきた。ならばと褌を締めなおして仕事を片付けて駆け付けた。結論から言えば、やはり来て良かった。

 メンバーが各々忙しく、このバンドのライヴは久しぶりで、1曲め〈かぼちゃごろごろ〉はまるで挨拶のようなものですね、と熊谷さんからコメントがでる。かつてはフロントとリズム・セクションの役割分担が明瞭で、そこが面白みであったのだが、こうして聴くと、バンドとしての一体感が濃厚になっている。面白くなくなったわけではなく、バンド内部のやりとりが、表面からは見えなくなっているので、音楽そのものはより肌理が細かく、滑らかになり、深く入ってくる。

 それが最も発揮されたのは前半4曲目の〈Fanny Power; しゃぼん玉〉で、ここで熊谷さんがスティックでサイド・ドラムの縁を叩いたのが実に美味しかった。この曲はカロラン・チューンから童謡につなげて、なおかつ、コーダでは高梨さんのコンサティーナがファニー・パワーを、酒井さんのフィドルがしゃぼん玉を、同時に奏でる。もう、こたえられません。
 
 わが国のメロディを採用するのは、後半、最後近く、確かアイリッシュの伝統曲(だったと思う、もう記憶が曖昧)と長崎民謡のでんでれでーこーを組み合わせる曲でも使われて、これまた実に良い。

 こういう試みは《DUO!》の〈月夜の台所〉にもあって、このバンドのウリの一つになってきた。ぜひ、どんどんやっていただきたいものだ。うまい組合せさえ見つかれば、あとはそう難しくないはずだ。もっとも、そういううまい組合せを見つけるのが、センスと根気の要るところではあるが。

 今回は新曲披露会でもあって、北海道ツアーに取材したものが多かった。〈知床の夜〉はロシア風味のある変拍子の曲、フィドル、コンサティーナ、アコーディオンによるジンギスカン鍋の曲、蟹、氷下魚(コマイと読む)、ヤマベの魚セット、それに〈鮭三景〉改め〈鮭の神話〉、いずれも美味。ジンギスカン鍋は、熊谷さんの故郷鹿追のおおさかやという店独特のものだそうだ。こういう曲を聴くと食べたくなる。

 ハーディングフェーレの曲ももちろんあって、〈とりとめのない話〉が前半のラスト、新曲〈理不尽な話〉が後半のオープナー。後者はハーディングフェーレとロウ・ホイッスルの二人だけで、この二つは案外よく合う。とはいえ、今回は前者の壮大なスケールを実感できたのが収獲。

 アンコール用のはずだった〈蕎麦喰う人びと〉を本番ラストにやってしまったのでやる曲がないということでリクエストを募ってアンコールは〈ラムチョコレート〉。高梨さんの作る曲にはほんとうに食べ物がインスピレーションの源になったものが多い。魚の名前の曲も、泳いでいるやつよりは食べ物としてみている。前半には〈Tea Time Polka〉もやった。どれも聴いていると、タイトルになっているものを食べたくなるから不思議だ。そうしてみると、アイリッシュにもスコティッシュにも、食べ物や飲物がタイトルに入っている曲はほとんど無いなあ。Whiskey はいくつかあるけれど。

 この直後に録音に入るとのことで、この日のライヴはそのための助走の意味もあったらしい。秋には出るそうで、これは実に楽しみだ。国内アーティストの録音は昨年も豊作だったけれど、今年はわかっているだけでもそれに輪をかけた充実ぶりだ。収獲の周期が来ているということか。

 家でひたすらデッドを聴いているのもそれはそれで極楽だが、やはりこうして生で良い音楽に浸れるのは、何物にも換えがたい。いや、ほんとにごちそうさまでした。(ゆ)


duo!!
tipsipuca ティプシプーカ
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2016-04-10


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2015-07-19