白状すると対バンの相手も見ず、ただグルーベッジのライヴというだけで出かけたのだが、いやあ、面白かった。この対バン企画は渡辺さんの発案だそうだが、さすがにセンスがいい。

 まずは Trio Mio が登場。フルート、ギター、そしてヴィオラ。はじめヴァイオリンと早合点したのだが、どうも音域が低いし、音がふくよかだし、そう思ってよく見ると、サイズも大きい。こりゃあヴィオラじゃないかと思っていたら、2曲終ったところで、ギターの大柴氏がヴィオラと紹介した。ヴィオラというだけであたしなどは「萌え〜」なのである。

 小松大さんがヴィオラでアイリッシュ・チューンをやったり、奈加靖子さんのバックで向島ゆり子氏がヴィオラを弾いたりするのを聴いてから、ヴィオラにはあらためて惹かれだした。もちろん伏線はヴェーセンがあり、その流れでドレクスキップもある。

 これがヴァイオリンだとフルートと音域がかぶる。おそらくはそういうところもあってヴィオラを採用されているのだろうが、この組合せははまっている。とりわけ、二つがハモったり、ユニゾンになったりするところは陶然となる。弦の方が低いところがミソなのだ。

 大柴氏のMCによれば、初めはクラシックの素材をアレンジしていたらしいが、だんだんオリジナルが増えて、今はオリジナルばかりだそうだ。かなりきっちりアレンジされているらしく、3人とも譜面を見ている。即興のように聞えるときでも見ている。

 このあたりはトリニテに通じる。トリニテの shezoo さんもクラシックがベースでそのオリジナル曲はかなりきっちりアレンジしている。ライヴでは即興とアレンジの区別がなかなかわからない。即興と思うとアレンジされていたり、アレンジされていると思うと即興で毎回変わったりする。そこがトリニテの音楽の面白さの一つだ。そして手慣れた曲でも、メンバーは皆譜面を前に立てている。リハーサルを見ていると、細かいところをその場でちょくちょく変更したりもする。

 トリニテの今のメンバーは、譜面がきっちり演奏でき、その上で即興も達者という基準で集めたとも聞いた。トリニテの前身になったバンドでは、ジャズ畑の人たちとやってみたのだが、即興はできても譜面通り正確に演奏することができない人が案外多くてうまくいかなかったという。譜面通りに演奏しながら、音楽に生命を吹きこむのは、音楽家としてかなり質の高いことを求められるのだろう。

 トリオ・ミオはもう少しアレンジされた部分が大きいようにも見えるが、まあその比率の大小などはどうでもいい。音楽としてたいへん面白い。今のジャズのビッグ・バンド、たとえばマリア・シュナイダーあたりにも通じるところがある。もっともこういう小さなユニットでは、個々のメンバーの役割は固定されず、常に流動的になる。3人のおしゃべりになる。

 ギターは主に背景や土台を設定しているが、そうしながら他の二人をコントロールしているというと語弊があるだろう、けしかけたり、引っぱったり、時に主役を張ったりする。

 リード楽器はフルートになるだろうが、これまた単純にお山の大将になるわけではなく、テーマを提示したかと思うとハーモニーに回ったりする。一つの曲の中で、アルト・フルートというのだろうか、より音域の低い楽器と持ち替えることもある。即興で息を強く吹きこんで音を震わせる、ヴォーカルでいえば「いきむ」ような音を出すのが面白い。

 トリオ・ミオのCDは持っていたことに、販売されているのを見て気がついた。以前、大柴氏のライヴを見たときに買っていたのだ。聴いていたかもしれないが記憶にないのは、年齡のせいということにしておくが、ライヴを見るとやはり認識があらたになる。

 トリオ・ミオの音楽が「歌」とすれば、グルーベッジは「踊る」音楽。たとえばやはり大渕さんが参加するハモニカクリームズに比べれば、グルーベッジの音楽はずっと洗練されて聞えるが、トリオ・ミオと並ぶと猥雑さを帯びる。たぶんグルーベッジはこの洗練と猥雑のバランスがちょうどいいのだ。ハモクリでは洗練されたところは隠し味で、猥雑さが前面に出る。

 グルーベッジで洗練さが現れるのがソロを回すところなのは、ちょっと意外でもある。たとえば3曲めの秦さんの曲で、ヴァイオリン、ギター、アコーディオンと回す時だ。それぞれのソロも楽しいが、三つ合わさると単独ではおそらく生まれない、オーラのようなものが漂う。オーラが漂うというのも変だが、輝くよりも流れるのである。

 その点でのハイライトは5曲めの「イプシロン」で、たしか大渕さんの曲だと思うが、アコーディオンの刻むリズムにヴァイオリンが乗る形で始まる変拍子。ギターのカッティングが冴えわたり、パーカッションがハードなロールを繰り出し、ヴァイオリンとアコーディオンのユニゾンが決まる。ヴァイオリンは時にアラブ風のフレーズを繰り出す。こういう曲をこんなにカッコよくできるのは、このバンドだけじゃないか。

 もっともその前、曲名を忘れた北欧風の4曲めもすばらしい。コーダでアコーディオンが延々とソロをとるのが粋だなあと思っていたら、再びフルバンドになだれこむ。

 今回は渡辺さん以外の3人はアコーディオンの秦さんも含めて立ったままでの演奏なのは、音楽のダイナミズムにふさわしく、またそのダイナミズムを生んでいる気もする。そうそう、後で大柴氏が感嘆していたように、誰も楽譜を見ない。かなり複雑なことをやってもいるが、このあたりはルーツ系の面白いところだ。もっともクラシックでは、それぞれの楽器の出入りがあまりに複雑なので、楽譜は必需だとも聞いた。モーツァルトあたりだと無くてもできるらしい。

 グルーベッジのライヴは二度目で、初回は遙か前の高円寺のグレインで、秦さんはまだゲスト扱いだったが、今回はレギュラー。それにしてもアコーディオンの進境は著しい。ケルト系の細かく回転するフレーズを我が物にしながら、ジャズ的な展開を無理なく自然にやっている。

 表面的にはかなり肌合いが異なるが、根っ子のところでは二つのバンドは近いのだろう、アンコールに2曲合同でやったのがまたすばらしかった。1曲めは大柴氏の曲、2曲めは渡辺さんの曲で、ともに各々のバンドだけとはまた違った面白さがでる。個人的には後者でのスリリングな展開には内心万歳を叫んだ。ここでのフルートとヴィオラとアコーディオンのソロ、二人のギターの「バトル」は、まさに一期一会。この対バンがまたあるとしても、そしてあることを大いに期待するが、それでもこれがまた聴けることはたぶん無い。

 各々のバンドの演奏は短かくなるが、やはりこういう対バンは実に楽しい。グルーベッジは次はザッハトルテと対バンするということで、これは見なくてはならない。

 会場の Zimazine は小さいながら、なかなか音がいい。楽器はみな増幅していたが、そうとは聞えないのはバランスがいいのだろう。また、天上が浅い穹窿になっているのも働いているかもしれない。ここはビルの地下で、元々こうなっていたはずはないから、わざとこの形にしたはずだ。ステージも結構奥行があり、左側にピアノがあるが、アンコールで7人になっても、思ったほど窮屈ではなさそうだ。

 ということで皐月はまことに幸先よく始まった。(ゆ)

Trio Mio
 大柴拓: guitar
 吉田篤貴: viola
 羽鳥美紗紀: flute


Groovedge
 大渕愛子: violin
 中村大史: guitar
 秦コータロー: accordion
 渡辺庸介: percussion